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ゴロツキ騎士団  作者: ころ太
第二章 不穏な風
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団長、哀しみの果てに自身を見失う




 体が重くて、頭が働かない。


(泣くって・・・・こんなに体力を使うものだったか・・・)


 雨でずぶ濡れになりながら泣いた私の体はいつも以上に重く、そして怠く感じた。もう一歩も動き出したくない、座ったままのこの場所でせめて雨が止むまで休んでいたい。

 そう思っているはずなのに地面に付けていた膝は自然と上がって、私の意に反して踵をしっかりと地面につけた。


(・・・・歩きたい・・・はずないのにな)


 不思議と体が動いていく感覚に身を任せながら降り続く雨の中を一歩一歩踏みしめ、森を奥へと進んで行く。どうせこのまま真っ直ぐ行っても城の敷地と象徴する高い壁が待っているのは分かりきっている事だった。

 バシャン、バシャンと重い足取りで地面の泥を跳ねさせると、視界の端で私の足音に反応した生物が動きを見せた。


「ッ!」


 誰もいないと思っていただけに、動揺して腰の剣を引き抜く。音が聞き取りにくい雨の中神経を研ぎ澄まして、動いた方向を確認するとそこには居ないはずの生物が居た。


「・・・飛竜?なんでこんなところにいるんだ・・・?」


 同じ様に雨に濡れながら大人しく座ってこちらの様子を伺う飛竜はどう考えても野生ではない。私は引き抜いた剣を鞘に納めて近付いて行くと、片翼だけ広げて奇妙な座り方をしている事に気がついた。


「お前一人か・・・?主人はどうした」


 飛竜の傍まで行き、人馴れしているとわかると首の部分を優しく撫でてやる。気持ちよさそうに独特の鳴き声をあげた飛竜は広げていた片翼を少し上に持ち上げて中にいる人物を見せてくれる。片翼の下に居たのはあどけない顔をして眠る一人の青年、今は会いたくない人間の一人だった。


「・・・・ラル・・・」


 ラルを降る雨から守るように片翼を再び降ろした健気な飛竜に自然と笑みがこみ上げてくる。撫でていた手を止め、飛竜の額に自分の額を軽く乗せた。


「・・・慣れてない奴を乗せたんだな・・・大変だっただろ?・・・お前は優しいな。その優しさに、少しだけ私も甘えさせてくれないか・・・この先の壁は、私一人では超えられない」


 懇願する様に瞳を閉じて言えば、了承と示してくれたのか、頬擦りするように頭を擦り付けてきた。それに合わせる様に頭を撫でると、嬉しくて動きが大きくなった飛竜に違和感を覚えたラルが目覚めてしまった。


「ん・・・?」


 飛竜が翼を持ち上げて、視界を広げてやるとラルは思い出したように起き上がる。


「・・・そうか、僕は寝てしまって・・・あれ・・・シーナ?こんなところに何故・・どうしたんですか、ずぶ濡れですよ!」


 腰をあげたラルの視界に入った私は飛竜の頭を撫でながら雨に打たれている。なんともラルにしては奇妙な光景だろう。けれど、その言動に付き合ってあげれる程、今の私は寛容ではない。


「・・・向こうへ歩いていけば森は抜けれる。お前は雨を凌いだ後、歩いて帰れ。この飛竜は私にゆずってくれ」


 それだけ告げて、去りたかったがラルはそうはさせてくれないらしい。


「嫌ですよ!どうして僕だけ歩いて帰るのですか!一緒に帰れば問題ないでしょう、それにもう一度後ろに乗せてください。僕は一人でもあの様に飛びたいです!」


 強く否定を示したラルに、私の胸がグっと締まるような痛みを感じた。苦しい、悲しい、悔しい。そんな感情が再び私を支配していく。


(・・・私にはもう帰る場所なんて・・・ないんだ!)


 ラルが突きつけてくる言葉が私に現実を思い出させていく。目頭が熱くなり、私の体を重くさせた涙が再び溢れたが、雨のお陰で私の表情は伝わらないだろう。


「・・・私にもう、構うな・・・」

「は・・・?シーナ何を言って・・・」


 精一杯の言葉を伝えたが、鈍いラルは空気すら感じれないらしい。不思議に思い、少しずつ私へと足を伸ばして来るが、その一歩一歩が私にクレスタの一歩をあの王の言葉を思い出させる。

 違う人物とわかっているのに、傷つけられる、その恐怖心に捕らわれた私は動揺で震える手を抑える様に自分自身を抱きしめた。


「・・・私の前から・・・消えろって言ったんだ」


 怖い、その感情がと比例して拳の力加減が増していき、抑えていた震えが止まらなくなる。


(早く・・・・早く消えてくれ・・・!クレスタと同じになる前に・・・!)


 そんな私の感情など伝わらず、ラルは言及する為に雨に濡れる事も気にせず近付いてきた。


「シーナ?・・・どうしたのですか?」


 ラルの雨に濡れた薄い緑の瞳が、今まで以上に強く感じた私は恐怖で頭が一瞬真っ白になる。このまま私が暴走すれば、クレスタの様に重症では終わらない。止める人間もおらず力の差も歴然だ。気が付けばもう剣の柄に手を置いていて、驚いた私は手を慌てて離した。


 このままでは、ラルを殺してしまう。

 

(・・・嫌だ、もう失うのは嫌だ・・・!!)


「急にどうしたのですか?ちょうど今、貴女にもう一度教わりたいと」

「離せっ!!!触るな!!!!」


 私の行動を不審に思ったラルが腕を掴んで来る。興奮で呼吸を荒くして怒鳴り上げた私に驚いたのか、ラルはそっと私の腕を離した。

 真っ直ぐに見てくるラルの瞳をもう見ることなんて出来ない。視線を地面へと向けた私は自分でも驚くほど弱々しい言葉が口から出ていた。


「・・・・来ないで・・・くれ・・・・」


 震える手を剣に行かせない様に必死に握る。私の様子がおかしいと、ラルもやっと気づいたらしい。


「・・・シーナ?何故そんなに震えて・・・シーナ・・・?」


 何故、そう言われてもわからない。ただ怖い、何かを失う事が怖い。自分が自分ではなくなるようで、怖い。否、暴走してしまう自分が・・・怖い。


(・・・自分が・・・怖い・・・)


 クレスタの時は守ってくれると思っていた。その剣術が今ではラルを殺そうとする凶器だ。


(殺せば、楽になるのか・・・・みんなみんないなくなればいいのか・・・?)


 そう問いかければ自然と答えは出てくる。

 もちろん答えはNOだ。消えて欲しくないのに、自然と殺そうと動く体に恐怖を感じてしまう。矛盾だらけの自分に訳がわからなくなっていく。


「シーナ?」

「っ!来るな・・・!!!」


 ラルが呼ぶ声に体を更に震わせて、逃げる様に飛竜へ飛び乗り腹に衝撃を与える。色んな言葉が聞こえるが、今は一人になりたい。

 誰にも傷つけられたくない・・・誰も、傷つけたくない。

 

 どうしたらいい、そう考えながら上昇していくと頭の奥で柔らかい声が聞こえた。


 “シーナさん”


 そう私を呼ぶ優しい声の主を知っている。


(・・・・リジュ・・・)


 笑ったリジュの顔が思い浮かんだ。思えば、あの優しく笑うリジュも今の私と境遇がそっくりだ。故郷を失い、老夫婦の居た温かみのある居場所を失い、信じていたオーリンに裏切られた。


(・・・・・・私の気持ち・・・わかってくれるのだろうか・・・いやわかってくれなくていい。少しでも傷ついたリジュを助けたい)


 一人は危険だ、とか悲しいだろう、とか自分が助けて欲しいという欲求に言い訳をつけて、飛竜の行き先をあの小さな村へと向けた。









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