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ゴロツキ騎士団  作者: ころ太
第二章 不穏な風
33/62

sideラル



 マロンと共にオーリンを引いて廊下を歩いていた僕は、彼が“香失草”と言う花の実験をしていた人物にはどう見ても見えなかった。連れられているオーリンの顔をチラっと見るが、犯罪を犯した・・・と言う顔はしていない。強いて言うならいつもより顔色が悪いくらいだろうか。


(・・・・どこで、“香失草”を知ることが出来たのだろう・・・)


 一つ、香失草を使うと事において、引っかかっていた事がある。あの文献、皇族の医学の書はあまり一般には知られていない。医の道に進んだものや、皇族に関係がある者ならわかる・・・が、オーリンはどこで皇族と知り合い、あの花の効力を知ったのだろうか。


 王都へ戻った際には聞いて見よう。そこから新たな犯罪や、実験を嬉々としいる人物がいるのかもしれない。そう思案しながら歩いていれば、大きな出入口をくぐり、やっと屋敷の外へ出ることが出来た。ふわっと顔を撫でる風は涼しくて屋敷の中より随分と空気が美味しい気がする。一呼吸して進もうと足を踏み出したところで、オーリンの足が止まった。


 それに合わせてマロンの足も止まり、急な行動を不審に思った僕達は、止まる事で自分達より後ろに居るオーリンを振り返ると呼吸音と一緒に小さく、呟く様に喉を震わせているのを確認出来た。


「・・・・・・・・し、の・・服に、紙・・・が・・・・・・・」


 その声は小さく、口は動いているが、それ以降は呼吸の音しか聞こえない。僕はマロンに視線を合わせるとマロンにも聞こえていたのだろう、少し思案したあとゆっくりと縦に頷いた。


「・・・ラル、オーリンの服を調べてくれ」

「はい、わかりました。・・・・ちょっと失礼しますね」


 オーリンの上着のポケットを調べるが何もない、ズボンのポケットにも何もない。上着を開いてシャツのポケットも探したが何もなかった。


「ありませんね・・・」

「・・・おかしいな。・・・ん?上着の内側・・・なんか白いのが見える」


 開いた上着の内側に、白い紙が小さく折り畳んで縫いつけられていた。少し抜いた剣の刃で糸を切り落とし、解いて紙だけを丁寧に取り出していく。中身を確認しようとした瞬間、オーリンの呼吸が荒くなり息苦しそうに喉を抑えた。


「がっ、はっ、は、あぁ・・・」


 肩を大きく上下に動かして息をするオーリンはまるで命を侵されている様にも見えた。先程まで何食わぬ顔でいた連行しろと言っていた面影はもはや無いに等しい。


「どうした、おい、息をゆっくり吐け」


 マロンが背を摩りながらオーリンに伝える。僕も一緒に顔を覗き込むが、オーリンの瞳は焦点が定まっておらず返事は望めそうになかった。


「・・・マロン、危険です。急ぎましょう」

「あぁ、俺が抱える。ラルは飛竜の準備を」


 マロンの言葉に頷きを返して、先行くマロンの背を見ながらそっと自分の手に残った一枚の紙を見た。


(・・・帰ったら読んでみよう)


 そう決めて僕はそっと一枚の白い紙を服の裏へと忍ばせた。急いで飛竜を繋いでる場所へと行き、縄を外しながら飛竜にオーリンを乗せた。マロンが同時に跨り、トンッと飛竜の胴に足で衝撃を入れる。


「ッ!」


 開いた飛竜の翼の風力で思わず目を瞑った時にはもうマロンは上空へと上がっていた。


「ラル!俺はオーリンを連れて先に戻る!後は頼むぞ!」


 それだけ言い残し大きな翼を羽ばたかせて行ってしまったマロンに何も言えず、立ち尽くしていれば少し時間が経った後で声が聞こえてきた。


「あれ?マロン先に行ったのか?なんだ、すっげぇ急いだのに」


 全員分の荷物を纏めたアクリアとヴィスタだ。


「シーナはまだですか?」


 てっきり3人揃ってくると思っていたので、疑問を投げつけるとヴィスタが荷物を飛竜にくくりつけながら話してくれる。


「あのお嬢ちゃんをまだ慰めてるよ。すぐ来るんじゃない?あ、ほら、来たよ」


 ヴィスタが指をさして屋敷の方をさすとそこにはシーナの姿。マロンの事を伝えようと僕は彼女へと近付いていった。


「シーナ、マロンは先に王都へ・・・・シーナ?顔色が悪いですが・・・」


 彼女にしては珍しく血の気が無く、そして返事も無い。何かあったのか、と肩に手を置こうとした時、乾いた音と同時に痛みが走った。


「ッ!!」


 手を叩き落とされ、衝撃と行動に驚いてシーナを見れば、彼女も困惑した顔をしていた。


「どうしたんですか?僕は体調を伺っただけなのに」

「あ・・いや、悪い・・・何でもない」


 目を合わせることもなく伝えてくるシーナは覇気がなく、本当におかしい。倒れた後だからまた体調を悪くしているのだろうと僕は勝手に思い込んだ。


「まぁ、何もないならいいですけど。マロンは先にオーリンを連れて戻りましたよ」

「そうか・・・なぁ、ラル。お前・・・」


 シーナが何かを問いかけようとしてきたが、途中で言葉を止め、首を横へ振った。


「何でもない、私も先に行く。ラルは乗り方を教わって来い」


 それだけ言ってヴィスタから荷物を受け取ったシーナは一人飛竜へと向かって行く。


「はっ?ちょ、ちょっとシーナ!待ってください、シーナっ!」


 いくら声をかけても顔を向けることも、足を止めることすら無かったシーナはそのまま空へと飛び立って行った。飛竜の翼が起こした風が一吹きした後、流れた沈黙を壊したのは荷物を飛竜に乗せ始めたアクリアだった。


「・・・どーしたんだ?シーナ、何かいつもと違ったな」


 僕が感じた違和感をアクリアも感じたらしく、ヴィスタもそれに同意していた。


「そうだね、何か・・・変だったね。色々言いつつもさ、面倒見が良いからラルと一緒に帰るんだろうと思ったんだけど」


二人とも荷物を乗せ終わり、僕も飛竜へと自分の荷物を乗せた途端アクリアが飛竜に跨った。


「まぁ、わかんねぇけど。帰ったら元気になってんじゃねぇの、っつーことでヴィスタ、教えてやれよ!」

「はぁ!?」


言葉を終えると同時に飛竜がふわりと浮く。止める暇など無く風を起こして飛び上がったアクリアにヴィスタが文句を言っていたけれど僕は一瞬の事過ぎて、またしても唖然としてしまった。


「待ってよ、アクリア!!!卑怯だよ!」

「はは、なんとでも言えよ!じゃあな、王都で待ってるぜ~」


 手を振って飛び立ったアクリアを恨めしげに見つめたヴィスタの瞳が、そのまま僕へと標的を変える。普段とは違い、小さな背丈からは想像出来ない程の眼光の鋭さに、思わず息を詰めてしまった。


「あ、あの・・・すみませんが、よろしくお願い・・します・・・」


 搾り出した声は尻すぼみになり不格好なものになってしまい、彼の大きな瞳がスッと細められた。途端、背筋に寒気が走る。


「・・・・・・・今までシーナに教わってたって事、感謝するんだね」


 そう言って腰から剣を引き抜いたヴィスタに、逆らってはいけない。僕はそう心の中で誓いをたてた。












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