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ゴロツキ騎士団  作者: ころ太
第二章 不穏な風
32/62

絡まる謎と膨らむ不安



 朝出てきたばかりのリジュの部屋の扉を勢い良く蹴破る。木材の裂ける音や、金属音が聞こえたが私の意識は一人の安否に向き、気になどならなかった。


「リジュっ!!!」


 後から追いかけて来たいくつもの足音を鳴らした奴等が鞘から剣を引き抜き、リジュの口元を抑えるオーリンに、その切っ先が向ける。目の前にある部屋の状況は考えていた最悪の状況と何一つ変わりなく、リジュの首元には小さなナイフまでもが当てられていた。首を小さく横に振りながら大きな瞳に涙を浮かべていたリジュを見て、私も鞘からゆっくりと剣を引き抜いた。


「オーリン・・・てめぇ、なにやってんだ・・!」


 少しでもリジュに怖い思いをさせたくない、傷をつけたくない、そうやって私たちが必死になっているにも関わらず、オーリンは普段通りの穏な顔を見せた。


「・・・・お願いがあります・・・・」


 落ち着いて発せられたその言葉は、とてもこの状況を作り出している人間とは思えな程だった。焦りも戸惑いも困惑も勢いも切っ先を向けられた恐怖ですら感じていないようなその声色に、私はゾワッと寒気を感じた。

 まるで、血の気の引いた人形。今のオーリンには犯罪者よりよっぽどそちらの方がふさわしいと思ってしまった。

 そんなオーリンへ徐々に間合いを詰め、私の剣の切っ先をその首に当てる。


「手を・・・離せ。要件を聞いてやる・・・だから、リジュを開放しろ・・!」


 私の言葉を耳にして信じてくれたのか、オーリンはリジュの首元からゆっくりナイフをずらすと勢い良く床へリジュを放りだした。


「ッ!リジュっ!!」


 慌てて手を伸ばして抱え、剣を構え直す。が、オーリンはナイフすら床へ捨てていた。

 人質を捨て、武器すら捨ててしまったオーリンに、もう言う事を聞く必要もない。ちらりと後ろにいたマロンへ目配せをするとマロンは素早くオーリンの腕を掴む。

 暴れる様なら、と剣を握り直したがオーリンは暴れるどころか素直に両手を差し出し始めた。


「・・・オーリン、なんでお前・・・」


 あまりにも似合わないオーリンの姿に私が質問を投げかけると、オーリンの瞳が少しだけ揺れた様に見えた。


「・・・・・・」


 けれど、返答はない。

 何故、どうして、騎士団の居る今、オーリンは態々リジュを襲う必要があったのか。


 色んな疑問があったが、きっとこのまま聞いても平行線を辿るだけに思えて私は言葉を投げかける事を止めた。アクリアが持っていた紐でオーリンの手を拘束すると、それをマロンに引き渡す。


「・・・・話は、帰ってからだ。ひとまずはクレスタに報告するぞ」


 ここには被害を受けた者・・・リジュも居る。まずはリジュを休ませるのが先だろうと、騎士団に指示を出す。


「マロン、ラルと一緒にオーリンを連れて飛竜の所へ行ってくれ。アクリアとヴィスタは全員の荷物を纏めて飛竜へ積んでくれるか。私はリジュと少し話してから行く」


 小刻みに震えるリジュの体をそっと撫でながら言えば、全員縦に頷いてくれた。


「オーリンはまかせろ。ラル、行くぞ」

「はい。では、先に行きます」


「んじゃ俺等も行くか。飛竜んとこで一先ず落ち合おうぜ」

「だね。行こう」


 各々が返事をして部屋を出ていく。連れて行かれるオーリンの背中は本当にいつもと何も変わらなかった。それに、私の心が妙な不安に駆られる。


(・・・・なんだ、この・・・違和感・・・)


 不思議な感覚を覚えながらも私は支えていたリジュへと視線を戻した。俯くリジュの顔は見えない・・・が、ずっと側に居た人間が急に襲ってきたとなれば精神が揺れるのは当然だろう。


「リジュ・・・大丈夫か・・・?」


 リジュの小振りな肩に手を乗せたまま声をかけると縋る様にリジュは私へと抱きついてきた。


「・・・どうして、オーリンが・・・・どうして・・・」


 鼻水を啜るリジュはきっと泣いているのだろう。私は置いていた手で背中を摩り、落ち着かせようと優しく抱きしめた。


「何があったか、教えてくれるか?辛いなら、少しずつでいいから」


 柔らかい髪の毛を溶かしながら、伝えるとリジュはゆっくりと顔を上げる。哀しみを表す様に綺麗な顔はくしゃっと歪んでいた。


「・・・オーリンが、いつもの様に・・・何か用事で呼びに来たと思ったの・・・扉を、扉を開けたら、急にナイフを・・・!」


 声が荒れると共に体が大きく震えた。それを抑える様にそっと背中に手を回して大丈夫、と伝わる様にもう一度強く抱きしめた。ゆっくりとであるが、震えは小さくなっていく事に私も安堵する。


「怖くて、私、私・・」

「あぁ、大丈夫だ。・・・もう、大丈夫だから・・・。リジュ、オーリンがどうしてお前を狙ったのかは、わからないか?」


 首を小さくではあるが横に振るリジュはわからないと示していた。やはり理由についても連行した後、王都でということになりそうだ。


「ごめんなさい・・・私、取り乱してしまって・・・」


 そっと顔を上げて申し訳なさそうに謝るリジュの頬をするっと触る。泣きそうだった顔に少しだけ赤みが増した。


「気にするな。それより、オーリンを王都へ連れていかなくちゃいけない。リジュ、一人になるのが嫌なら、一緒にくるか?」

「・・・・いいえ・・・今は、一人になりたい・・・」


 信頼していた人間に裏切られた、と言うのは悲しいだろう。顔を被ってしまったリジュをそっと支えて、膝の裏に腕をいれてゆっくりと持ち上げた。一人の人間を持ち上げるのは中々辛いが、毎日鍛えてた成果、難有りではあったがなんとか持ち上げる事が出来た。

 立ち上がってベッドへと進み、柔らかなシーツの上にリジュをそっと下ろす。


「また、きっと会いに来る。私は王都へ帰るよ」


 名残惜しそうに私にしがみついていたリジュがそっと手を離して、嬉しそうに笑った。

 ニコリと笑うリジュが、先程までとは別人の様に喜々としている事に、少しだけ驚いた。でも、リジュからすると会いに来て欲しい、という最大限のメッセージなのではと思って、私も頬を緩める。


「じゃあな」


 頭を一撫でして部屋の出口まで歩くと、後ろから呼び止められた。


「待って、シーナさん」


 振り向いた時、あの花の甘い香りがふわっと香る。いつからあったのか、ベッドの横にあのなんの変哲もない花が置いてあった。


「どうした?」

「あの方に、よろしくお伝えしていただこうと思って。お世話になっているあの方に」


 リジュの知り合いが、私の周りにいたか?と不思議に思った矢先、可愛らしい口から聞こえた言葉に、体の血の気が一気に引いた。







「ライア=フォード・クレスタ様。軍にいらっしゃると聞いていたから・・・元気であると、お伝えしてくれたら嬉しいわ」









 ライア=フォード・クレスタ。



 今、リジュはそう言った。

 驚いた私を勘違いしたリジュは更に続けていく。


「・・・・言ってなかったかしら?お話したお世話になっているライア家の方が、ライア=フォード・クレスタ様なの。このお屋敷を・・・直接ではないけれど、ご紹介してくださったのよ」


 にっこりと笑うリジュに私は頭の中が真っ白になる。





「・・・皇・・・族・・・?」

「・・・?どうしたの?ライア家だもの、皇族のお方よ。あら、お顔が真っ青・・・シーナさん、大丈夫・・・?」


 リジュの声はもう頭に入って来なかった。

 私が皇族を憎んでいると知っているはずのアイツが・・・?



(まさか、人違いだよな・・・名前が、偶然だ・・・)


 頭でそう納得させているのに、心臓の音が耳に聞こえてきそうな程私は焦りと不安を感じていた。この感情は知っている、失いそうになった時に感じた・・・・恐怖だ。

 そのまま私はリジュに一言声をかけることすらせず、その恐怖から逃げる様に部屋を後にしていた・・・










「ふふ、早く帰ってきてね・・・・シーナさん」



 小さな笑い声と冷め切った瞳が私を見送っていたなど知らずに・・・・・




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