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ゴロツキ騎士団  作者: ころ太
第二章 不穏な風
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浮かび上がる証拠



 重たい瞼を開くと、見えたのは見知らぬ天井。そしてあの甘ったるい花の匂いがぶわっと香った。匂いの強さに眉を歪めて、口元を片手で覆いながらゆっくり起き上がると体に被せてあったシーツが捲れ落ちた。


「シーナさん、大丈夫?」


 私が起き上がった音に反応してパタパタと寄ってきたリジュの顔を見た瞬間、昨日ぶっ倒れてしまった事を思い出した。


「・・あぁ・・・。私・・・昨日・・・」


 少しだるい体を持ち上げて足を地面に付ければリジュがそっと支えてくれる。


「昨日急に倒れてしまったの。よっぽど疲れていたのかもしれないわ」


 頭を強く打ったのか、鈍く痛む頭を押さえながら昨日の事を思い出すがリジュの話を聞いた後の事はほとんど覚えていない。頭を撫でた・・・くらいは何となく覚えがあるくらいだ。

 外を見れば朝日も昇り日も照り始めている。どうやら推測するに、一晩をここで過ごしてしまったのだろう。マロン達はどうしてるか、と考えていればリジュが簡単に説明してくれた。


「他の騎士団の方々はオーリンに村の案内を頼んで、つい先程皆様で行ってしまったわ。オーリンがシーナさんも、と言っていたのだけれど、昨日倒れられていたし、今日はお部屋で休んでいた方が良いと思って断ったの・・・・・余計だったかしら」


 そっとベッドの隅に座ったリジュは少し悲しげな顔でそう言った。昨日の一件もあったからか、他人とは思えなくなり始めているリジュを少しでも労わるように私はふわりと柔らかい髪を梳かした。


「いや、助かった。正直体がダルイし、荷物を置いた部屋に戻るよ」


 ベッドから下半身を下ろして、立ち上がるとクラッと立ち眩がする。リジュがもう一度そっと支えてくれたおかげで倒れる事は無かったが、どう頑張っても村の案内に付いていくのは止めて正解だった様に思う。


「気を付けて、きっと疲れているのよ。お部屋でゆっくり体を休めて?」


 頭を抑えて視界がグラグラと揺れるのを耐えていると、自然とその眩みは消えていった。リジュの支えからそっと離れて一人で立ってみるが、もう足がフラつくことは無さそうだ。


「ありがとう。リジュもゆっくり休めよ。私がベッド占領したみたいだし、寝てないんじゃないか?」


 しっかり立った私に安心したリジュは頬を赤くして笑った。


「ふふ、何でもお見通しね。シーナさんが行ったらちゃんと寝るわ・・・ありがとう」


 クスクスと声を漏らしたて笑うリジュの頭を撫でた。本当に、妹が出来たみたいで何だか私まで顔の筋肉が緩んでしまう。


「はは、じゃあな。よーく寝ろよ」


 一回だけ手を振って、そのまま扉へと歩き出す。後ろを振り返ってはいないけれど、きっとリジュはそのままの優しい笑顔で小さく手を振り返しているのだろうと容易に想像がついた。扉を出た私は長い廊下を歩き、荷物を置いた部屋に帰ろうとした所でふと足を止めた。


(そういや・・・今のうちにオーリンの部屋を見るのが一番やり易いんじゃねぇか。オーリンはいねぇし、リジュも寝るって言ってたしな)


 部屋に帰ろうとしていた足で、オーリンの部屋を探す事にする。通り過ぎた部屋の中に、オーリンの部屋が無いことを祈るばかりだ。

 ゆっくりと歩く事を再開し、順番に部屋の扉を開いて行く。オーリンとリジュ以外の人を見かけた事はないし、紹介もされていない。となれば、今私を邪魔する奴は誰もいない、と遠慮なく扉をガチャガチャ開いて行った。


ガチャッ


(・・・・ここも・・・ハズレ)


 何戸か開いたがどれも私たちが案内された様な部屋が多い。客間なのか・・・それとも使用人が昔は多く居たのかはわからないが、あまり違いの無い部屋は見当たらなない。・・・と、思ったが少し先に形、色が違う扉が見えた。


(・・・ここか?)


 先程の無遠慮な扱いから一転、そっとノブを捻りゆっくりと扉を開いて行く。中の景色が見える前に、ぶわっと、あの甘ったるい花の香りがした。

 私はその匂いに顔を顰めたが、換気をして入った事がバレてはいけない。その匂いに耐える覚悟をして中へ一歩足を踏み入れ、後ろ手に扉を閉めながら私は中を端から見渡していった。


(匂いが他の所とは比べ物にならないくらいキツい・・・これが花の匂いなのか?・・・もしくはオーリンの香水なんだろうか)


 片手で鼻を押さえながらも、見えた景色は今まで見た部屋、私たちが居る部屋とは確かに違う。書斎・・・そう言っても過言では無いほど本棚には茶色の背表紙が敷き詰められ、机の上は綺麗に片付いてはいるが書類の様な紙切れが何枚も重なっていた。


(・・・オーリンの仕事って・・・書き物もあんのか・・・?)


 オーリンの動きっぷりを見ていて、案外肉体労働なんだな、と思ったがどうやらそれは勘違いだったのかもしれない。遠目で見る限りでも机の上の紙にはぎっしりと文字が書かれており、本も大分擦り切れているのが多い。

 机に近付いて一番上に置いてある紙を眺めてみた。


(どれどれ・・・・村の状況・・・行方不明者の数・・・)


 私たちに説明をしてくれた事が事細かに書いてある。どうやら下調べをした時の資料らしい。几帳面な正確が書面にも出ており下手な軍の書類より読みやすい。あまり形を崩さない様に何枚も書類を捲っていくが、村に関しての事以外、何も書いてはいなかった。


(何もねぇな・・・・)


 続いて机に付いている三段の引き出しを上から順番に開けていく。一番上を開ければ、インクやペンが周りを汚さない様に綺麗にしまわれていた。二段目には真っ白な用紙が数枚。そして上の二段より深くなっている三段目に手を伸ばし、ゆっくりと開いた。


(・・・・・この袋・・・・)


 入ってあった袋は、確か酒場から帰るオーリンが持っていたものと同じに思える。そっと畳まれているその袋を取り出し、開いて中を除いてみた。綺麗にしたつもりかもしれないが、気になる塵が袋の内側に何個もくっついている。


(小せぇが・・・木の皮だな、それに小枝や枯れ葉の残骸・・・・)


 この中に木や枝、葉が入っていたのは間違いない。・・・何に、使ったかはまだ確定ではないが。

疑う事はなるべくしたくないが、袋の下に隠れていた火付けを見つければさすがの私も確証を得てくる。袋を引き出しの中に戻して、次は本棚を調べる事にした。

 ずっしり並んでいる本を端から順番に見ていく。本を叩いてみたり、適当に引っ張りだしてパラパラと捲ってみたりするが特に不思議な点は無い。ココは検討違いか、と行動を改めようとしたところで、一番下の一番奥にある本から一枚の紙切れが覗いているのを見つけた。

 それに手を伸ばして、勢い良くと引っ張る。本の隙間に挟んであった紙切れが一枚、ひらりと床へ落ちた。引っ張った本とは紙の材質や色が違いすぎていて他にもそういった紙が何枚か頁の中に隠れているのがわかる。


(この本にだけ、いっぱい詰めてるみてぇだな)


 書いてある字は机の上にあった書類の筆跡と同じ。恐らくオーリンの物に間違いはないだろう。そのオーリンが書いたメモを引っ張り出しながら、最初に落ちた紙切れを上から読んでいった。


(どれどれ、・・・・脳・・・?神経・・・?)


 行方不明者を攫う計画、なんてのが書いてある紙だと決定的だ、と思っていた私にはその紙の内容は全くもって予想外だった。

 書いてあった事柄は主に神経の話や脳の話。専門的な用語まで使われていて、深く理解することは出来なかったが、所々で書いてある“香失草”という文字に、その物体の作用等が書いてあるのだと理解出来た。


(症状はすべての人に発症する訳ではない・・・女性が9割、男性が1割だが、女性で発症しない人もいれば、男性でも発症する人がいると解明された・・・か。・・・・こういうのはマロンに任せた方が良かったな)


 正直頭が良いとは言えない私にとって、書いてある事は半分以上理解出来ない。ただ香失草、というモノが何かを発症させる、それが女の割合の方が高いって事しかわからなかった。


(オーリンはこんなもの・・・何で調べてんだ・・・?行方不明者と、関係が・・・・?)


 不思議に思って首をかしげ、本に挟んであった紙に全て目を通していけば、最後に13人の名前がずらっと並んでいるリストを見つけた。


(これか・・・!13人、行方不明の人数と同じだ。)


 名前の横に数字が書いてあり、2、とか3とか比較的小さい数字だ。数字が書いてない名前もあり、それは二重線で消されていた。数字の一番上には発症までの回数、と書かれていたので、どうやら香失草の何かを発症させたらしい事がわかる。


(香失草の・・・研究・・・?村の奴等は、実験されたのか・・・・?)


 書いてある内容から読み取れるのは、数字が書いてある人は発症させられたと言う事、そして村で消えた人々と13人の名前が一致しているということだ。

 何故こんな研究をしているかはわからないが、どうやら決定的証拠になりそうな事には違いない。


 この一枚だけを近くにあった紙に書いて自分の服へと忍ばせる。本に挟んであった紙も一枚づつ挟まれていたところへと戻していくと最後のページに、手描きで一つの絵が書いてあるのを偶然見つけた。どこにでもあるような花の絵だ。


(・・・落書き?・・・引っかかるな)


 花の絵を指で一撫でして、考えてみるが何一つ思い浮かばない。本当、マロンの起点が効いた頭が欲しいものだ。

 本を元通りの場所に戻し、他の場所も調べてみたが特に気になるところは見当たらなかった。どうするかな、と一息着こうと大きく息を吸うと、クラリと再び目眩を起こしそうなほど香る甘い匂いに我慢できなくなり、私はそれを気に部屋を出る事を決意をした。


 痕跡を残さないよう、注意を払いながらそっと扉を閉め、何事も無かった様に注意して私はその部屋を後にした。








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