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ゴロツキ騎士団  作者: ころ太
第二章 不穏な風
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団長と屋敷の娘の共通点



 昨日と同じように屋敷へ帰るとオーリンが入口で出迎えてくれた。妙に警戒されたくないし、もしかするとオーリンが何も関係していない可能性だってゼロじゃない。という思いから、私の疑いは決定的なモノを掴んでからにしようと決めた。

 各々が部屋へと行き、明日の事はマロンが全員に伝えると言っていた。それに甘えて私も部屋へと戻り、一先ずは汗を流して身軽な格好に着替える事にした。

 さっぱりした体で髪を布で拭きながらベッドへ体重をかけて座ると同時に、扉からコンコン、と控えめな音が聞こえる。


(・・・誰だ?)


 ベッドから立ち上がって扉へ近づき、そっと開くと綺麗で長い金髪が見えた。


「リジュ。どうした?」


 私の顔が見えたのが安心出来たのだろうか、扉の外で胸の前に手を置いていたリジュが嬉しそうにニコッと笑う。


「あの、またお話したくて来たの。良かったら私のお部屋でお話しましょう?」


 手を引いて伝えてくる行動が可愛くて、私は笑いながら後へと続いた。


「引っ張らなくても行くよ」


 酒場へ歩く時に会話出来たのが良かったのか、随分懐いてくれたらしいリジュに引っ張られ、リジュの私室へと向かう。私が居た場所からは少し遠くにあったその部屋は、整頓された広めの綺麗な部屋だった。本棚には色鮮やかな背表紙が敷き詰められ、彼女が本を好んで読んでいるのだろうという事もわかる。

 そんな部屋の一角、机を挟んで置かれた椅子が二つ並んでいる場所へリジュは私を引っ張って行く。


「少し待っていて?美味しいお茶を入れてくるわ!」

「あぁ、慌てなくてもいいから」


 少し強引に連れてきた事が不安なのか、そわそわとしながら奥へと入っていったリジュに笑いながら返事を返し、導かれた椅子に座って部屋を観察しながら待っていた。

 可愛らしい色や物で埋まっているのかと思ったが、リジュの私室は私たちに貸してくれた部屋同様何も装飾はされていない。思えば服も貴族の娘達の様に華美でもなかった。

 いい好みしてるな、なんて呑気な事を思っていればリジュが奥から甘い香りのするお茶を持って出てくると、私の前にそっと置き、向かい側に座った。


「今日はお疲れ様、何かいい収穫はあったのかしら」


 ふわりと可愛い笑顔でそう告げるリジュは労ってくれているのだろう、この屋敷に住んでいるオーリンに疑惑が出来た、なんて言うのは口が裂けても言えそうにない。


「・・・まぁまぁだな。・・・あー・・・そういや、リジュってここの娘じゃないんだって?養女みたいだって聞いたんだが」


 何て言おうか、と考えながら、そう言えば酒場の女が気になることを言っていたのを思い出す。何気なく聞いてみればリジュは少し眉を下げて、お茶を一口含んだ。


「良く知ってるのね。・・・そうよ、私はここの娘ではないの。こんなに良いお屋敷に住んではいけない娘なのよ」


 言葉を続けていくほどリジュの顔が切なく、哀しく歪んでいく。


「・・・あなたと同じ。私もね・・・家族も、家も、住んでいた町すらも無くなった・・・何もかも内乱で無くした・・・孤児、なの」


 震える声で小さく告げたリジュの言葉に、驚いた。こんな綺麗で、無垢な娘も同じ境遇だった事が、信じられなかった。


「私も・・・一人だった。皆、皆居なくなって、町に独りぼっちだったのを昨日の様に覚えてる・・・。シーナさんは町を無くした人達を何も思わないって言ってたけれど、私は・・・私は・・何もかも奪っていった人達が憎いわ。・・・奪っていっても・・・何も心を傷めない一族が、憎い。・・・人の心を持たない皇族が私は憎い・・・!」


 ガタッ


 音を立てて、私は椅子から立ち上がっていた。リジュから出てきたその一族の名前に上手く自分の反応を隠すことは出来ないらしい。


「皇・・・族・・・?」


 思わず聞き返してしまう。何故、村を無くした事が、皇族に繋がるのか、ここでその名前を聞くとは、夢にも思わなかった。

 椅子を引きずって向かい合わせだった場所から隣へと移動したリジュは立ち上がっていた私の手を引いて座らせてくれた。そして、手を握ったまま語りかける様に過去の話を聞かせてくれる。


「皇族にはロード家、ライア家、有名なのはその二つだけれど・・・他にも一つ二つあるのは知っているかしら?」


 ロード家、その名前にも反応しそうになったが何とか無表情を貫いて頷く事が出来た。皇族はそれだけではない、とは知っていたもののライア家という名前は初めて耳にする。


「独りぼっちになってしまった時ね・・・・声をかけてくれた人がいるの。・・・それがライア家の人。とっても優しい人だった・・・でも、ある日・・・何もかも忘れなさいって言われていても、どうしても町がどうなったか気になってその人の書斎を調べて・・・数枚の紙を見つけてしまったわ。いくつかの町、村の立地条件や仮定した被害の条件、そして・・・使用武器の量や特性・・・どこの勢力を消して、どこの勢力を補助するか、どれだけの軍を動かすかまで・・ね。詳しく書いてあった・・・」


 リジュの綺麗な瞳が鋭く光り、別人の様な表情に私の息がクッと詰まった。


「それを見て・・・・背筋が凍る程の憎悪を感じたわ」


 続いた言葉になんとか唾をゴクリと飲み込んで止まりかけていた酸素を体内へ送りこむ。少し漏れた息に、リジュは口の端を上げて笑った。


「全て、仕組まれたことだったのよ?内乱を押さえつけ過ぎれば自国にその暴行が及ぶと思った皇族達は・・・関係のない村や町を・・・殺したんだわ・・!」


 ギリッ、そんな音が鳴る程リジュの爪や指先が白くなるまで握り締められていた。軽くその拳が震えるのは恐怖でも哀しみでもない、怒りと憎悪だろうと顔を見ただけで分かる。


「許せない・・・許せない・・・」


 呪文の様に呟くリジュに、私は何も言えなかった。何か言わなければ、と思っていたがリジュの憎悪は、刺激してはいけないものだと感じる。


「・・・・・ずっとね、ずっと、そう思ってた」


 数秒置いて、やっと手の力を抜いたリジュは指先に血を巡らせて自分を落ち着かせる様にお茶をもう一口含んだ。


「思っていたのに、私はまだ・・・・ライア家の人にお世話になっているの。笑っちゃうでしょ?・・・声をかけてくれた人とは違うけれど、このお屋敷を紹介してくれた人もライア家の人・・・・・・結局、何も・・・何も、出来ないのね」


 そう眉を歪めて涙を堪えるリジュは、辛そうだった。私はそんなリジュの背中を片手でそっと撫でる。


「ごめんなさい。驚かせてしまったわよね。・・・黙っているつもりだったのだけれど・・・シーナさんの境遇が余りにも似ていて・・・それで、私の気持ち、わかってくれるかもしれないって思ったの」


 私は手を付けていなかったお茶をもう一方の手でごくっと一口飲み、背中に当てていた手で次はリジュの頭を撫でた。


「いや、話してくれありがとう。辛かったよな、リジュ」


 大きな瞳を滲ませて笑う小さい体を少しでも暖めてやりたいと、両手を伸ばそうとした時、視界がぐらりと歪んだ。


「・・・っ、」


 椅子から転げ落ち、倒れ込んだ私に駆け寄るリジュの顔がぼんやりとしか映らない。瞼が降りようとするこの症状は眠気・・・だろうか。


「シーナさん・・・?大丈夫?シーナさ・・・・」


遠くでリジュの声が聞こえる・・・綺麗な唇が弧を描いていくのを薄れゆく視界が途切れるまで、見ていることしか出来なかった・・・・







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