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ゴロツキ騎士団  作者: ころ太
第二章 不穏な風
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甘く香る不思議な花



 酒場から屋敷に帰ると、オーリンが律儀に出迎えてくれた。


「遅くなったのに、悪いな」


 隣でずっと喋っているラルは途中から流し続けて、屋敷に到着したのは人が寝静まってるだろう時刻だ。来たばかりの奴が勝手に屋敷に出入りするのが嫌なのかもしれないが、オーリンが待っていたのは驚いた。


「いえ、私もやる事がございましたので。さぁ皆様お疲れでしょう、お部屋に簡易ではありますが体を洗う所もございます、準備もしておりますのでどうぞゆっくりとお休みください」


 使用人とは、こんなにすごいものなのか。準備をしたり、出迎えたり、そりゃあラルみたいな奴が育つってのも納得がいくな、なんて失礼な事を考えながらチラッと横目でブツブツと喋り続けるラルを見たが、今のコイツには何も言わないほうが得策だ。


「何から何まですまねぇな。オーリンは休んでくれよ」


 私の言葉にオーリンはニコリと変わらない優しい顔で笑う。


「お気遣いいただき、ありがとうございます。では、お言葉に甘えまして皆様をお部屋にご案内した後、お水を一杯お部屋にお届けしてから休ませていただきます」


(・・・・全然、甘えてねぇ・・)


 これ以上反対するのは、逆に仕事を増やしてしまうだけなのだろうと理解して、私は何も言わずに部屋に案内された。途中でラルの足取りが覚束無くなってきたので、マロンに担がせて文句を言うラルの頭を思いっきり叩くと反応が無くなった。


・・・・死んではいないと、思う。


 ラルはマロンに任せて、各々が部屋に戻った後、私も部屋へと戻った。一番に水場へと行き、簡単に体を洗い、布で体を拭いてベッドや机が置いてある場所に戻ると、オーリンが言っていた様に水と、甘ったるい香りがする花が机の上に置いてあった。


(・・・この匂い・・・)


 今までそこまで気にならなかったが、この屋敷の色々な所から微かに匂う甘ったるい匂い。一輪で部屋いっぱいに充満しているこの花が原因だったのか、とやっと知ることが出来た。元から貴族令嬢がつけている香水という香りも好まない私にとっては、この甘ったるい匂いに少し気分が悪くなりそうだった。

 悪いな、と思いつつもせっかく用意してくれた花を水場へと移し、窓を開けて換気した。外から入ってくる空気の方がよっぽど吸いやすくて新鮮な気がする。窓の側で私は大きく深呼吸をした。


(・・・・・・ん?)


 部屋の明かりは付けておらず月明かりしか無かった為、外の景色も案外よく見渡せる。それだけなら何も疑問には思わなかったが、袋を抱えた黒い服の男・・・恐らくオーリンだろう男がどこかへ出かけて行くのが見えた。


(まだ仕事か?ご苦労なこった)


 寝る時間があるのだろうか、と思うくらい働くオーリンに感心しながら私は窓際からベッドに移動し、勢い良く体重を預けて転がり天井へと視線を投げた。それと同時に、マロンと酒場の外で交わした話を思い出した。


・・・・数年前、あの事件が起こった直後。

怒りが自身を支配して、どこかにぶつけないと自分を保っていられなかった日々を覚えている。頭に血が昇ると私は何も考えれなくなるんだろう。


(馬鹿だよな・・・・本当・・・)


 大会の時に現れた王に感じていた服従を拒否した憎しみ。けれど、今思うと私は怖かったのかもしれない。力では敵うことが出来ない権力、それが怖くて、怖くてたまらないのかもしれない。


(・・・あの王を殺したら、満足するのだろうか・・・)


 ほんの少しだけ、物騒な想像をしてみた。けれど、剣を向け、恐怖に染まる王の顔に“ざまーみろ”とは思えるかもしれない。けれど、きっと悲しむラル、私を憎むラル、そして居場所を取り戻してくれようとしたクレスタが哀しそうに心を傷める顔が浮かんだ。

 

(私がしたい事は・・・そんなことじゃ・・ない・・・か)


 違うとわかってはいるが、他にどうしたら良いのかわからない。ラルは嫌いじゃない。素直なところは好きだし、強くなってくれたら教える私としても嬉しいと思う。それなのに、きっとラルが皇族の立場に立つと私はその存在に恐怖を感じるのだろう。


(不思議な・・・感情だ)


 色んな事を考えてしまいながら、一向に眠気がやってこない私は片手を伸ばして、掌を広げてみる。視界に映る手は騎士団の誰よりも小さくて、剣が一本やっと握れる大きさ。逞しさの欠片もないその掌に今日は何故か一層不安を感じた。握って拳を作っても、その手に剣を握ってみても、私の心が満たされる事はない。


(・・・今は考えても同じ・・・か)


 伸ばしていた手の力を抜いて、肌触りの良いシーツの上へと落とした。その感触と気を抜いた事もあって一気に疲労と眠気が襲ってくる。今はもう何も考えず、このまま寝てしまおう。

 瞼をゆっくり閉じ、月明かりで薄らと見えていた視界を遮り、睡魔に何一つ抵抗する事なく眠りに堕ちていった。





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