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「シーナ、新しい野郎が来たぞ」
待ち合わせとは違う部屋で、椅子にダラリと座っていた私に報告してきたのは数少ない幽霊騎士団・・・名を改め、総司令官直属、特別騎士団の一人。
体の大きさからは想像出来ない、几帳面なマロンだった。
「あぁ、わかった。今行く」
待つのが苦手な私は時間が経った事で重くなった腰を上げ、机に置いていた剣を腰に戻せば特別騎士団と呼ばれても違和感のない風貌だろう。違和感がないのは当然、私が女には見えないから。
この国の女は髪が長いのが主流だが、鬱陶しさを疎んだ私は短く後ろを刈り上げたショートヘアを好んでいる。そしてこの口調だ。体格が良い訳ではない私がよく男と間違われるのはその二つの理由が大きい。
「シーナ、今回はいつもと違う。頼むから注意してくれ」
いつもより大げさに言うマロンに首をかしげながら私は前を歩き始めた。
「今回も前回も無ぇよ。いつだって一緒だろ?」
「シーナっ!今回は皇族の坊っちゃんを預かるんだぞ!!怪我でもあってみろ、今度こそ首が飛ぶ!!!」
そういえば、懐かしの友人もそんなことを言っていたかもしれない。私の所に皇族を寄越した友人にも苛立ちはするが、一番はこの騎士団に何の用で来るのか、妙な皇族に苛立ちを通り越して呆れてくる。
(皇族か・・・・・喧嘩売りに来てんじゃねぇんだろうな)
その坊っちゃんとやらは遠くの国境を拠点にしていたらしく、私という存在が軍から消えた後この王都へ来たらしい。私を嘲笑った連中とは関係ない人物・・・とわかっているが、皇族と聞けば私は今でも心を掻き乱される。
「はっ、・・・笑わせてくれるな・・・入団で無傷だと?バカにしているにも程がある。坊っちゃん結構じゃねぇか、誰がなんと言おうと私はそいつを特別視するつもりはねぇぞ」
私の言葉はわかっていたのだろう、マロンが強く言い返してくることは無くなったが顔を青くして頭を抑えた姿には少し悪い気になる。
おそらくマロンは、そいつの機嫌次第でこの騎士団がなくなってしまうかもしれないという不安があるのだろう。
それをわかっていても、私は皇族に媚を売るなんて真似、誓っても良いほど出来ない。
強さだけでは何にもならないとは身をもって教えて貰った相手だ。結局は周りを従わせる力がなければ、自分の持っているものは少しも光はしない。
そんな奴等の一族、皇族の坊っちゃんが何故こんな騎士団に入団などと言い出したのかは知らないが、預かる形になった現王の弟、ロード=ラル・シアンに、どうやら騎士団の未来はかかっているらしい。
(まったく・・・ロード=ラル・シアン?どこが名前かわからん。)
この国で=を持つ者は少ない。ロード家、ライア家、フィアリア家、家という称が付く限られた貴族、皇族だけだ。今はもう代替わりをしていて、昔の当主達は役をもっていないらしい。
言わば、私に関与したものももう居ないのだと友人は言っていた。
けれど、私の傷はそう直ぐに癒えるものでもなかった。関係ない?本当に?何故言い切れる。同じ一族だぞ、同じ事を考えるかも・・・しれないだろう?
そう考えてしまう自分にもうんざりしてくるが、もう何かを奪われるのは怖くて堪らない。そんな不安で苛立ちをどんどん膨らませながら、私はゆっくりと約束をしていた部屋の扉を開いた。