任務
ドンッドンッドンッ!!
ラルから振り切った勢いで荒々しく扉を叩けば、中にいる人物は慌てて顔を出してくれた。
「な、何事ッ!?」
勢い良く出てきた馴染みある顔に片手を上げてニンマリと笑ってやる。
「よう、クレスタ。怪我の具合はどうだ?」
「シーナ・・。確かに来てとは言ったけど・・・その元気さにはいつもびっくりするよ。」
「悪い、悪い。次は気をつけるから」
大会後に一度謝りに行った時以来会っていなかった為、クレスタの怪我の調子がどうか気になってしまう。いつも優しく迎えてくれるクレスタに甘えて部屋へと入れば、大きなソファーに座らせてくれた。向かいに座ったクレスタも私と同じ質問を投げかけてくる。
「シーナこそ怪我の具合はどうだい?僕はもうすっかり大丈夫だよ。シーナは女の子なんだから、痛いところ残しちゃだめだよ」
何食わぬ顔で言ってくるもんだから、思わず咳き込みそうになってしまった。私を女扱いする奴なんて、クレスタぐらいじゃないだろうか。
「・・っ、痛ぇところなんて・・・ねぇよ。女の子って・・・久しぶりに聞いたぞ」
喉の調子を整えながら聞き返していれば、リリアが温かいお茶を奥から煎れてきてくれた。礼を伝えて、お茶に口を付ければ、クレスタの代わりにリリアは話をし始める。
「シーナ様は確かに中身が男前ですけれど、貴女を知ってる人から見れば、十分可愛らしいレディですよ。クレスタ様はいつだって「わああああああああああああああああああああああああ!!!!!!何を言い出すんだい!?リリア!そういうのはさ、っていうか本当、何を言い出すの!!!」
リリアの言葉を遮ってまで慌て始めたクレスタにポカンとしながらも、続きが気になってしまった。
「いつだって・・・何だよ?お前、私の事いっつもどう思ってやがんだ」
ここまで大げさに遮るということは聞かれたくないことなんだろうか。にこにこしてる癖に、内心は別のこと思ってるのか、と不機嫌になればクレスタは面白いほど動揺した。
「ああぁぁ、もう!リリアが余計なこと言うからだよ!僕にだってタイミングってものがあるんだよ!色々・・・色々あるの!もう!リリアのバカバカ!シーナのセッカチ!僕って天才!」
もう何を言いたいのかわからないが、どさくさに紛れて悪口の他にもおかしい言葉が紛れている。それが面白くなって、私とリリアは声をだして笑ってしまった。
「くっ、ははは、悪かったよ。しかしお前、自分は天才ってずるいじゃねぇか」
「本当ですね。天才と仰るなら、あまり仕事は溜め込まないでくださいよ」
くすくすと笑えば、ムッとしていたクレスタも一緒に笑い始めてくれる。こいつが大人か子供か、よくわからなくなるのはいつもの事だ。
「で、今回は何の用だ?また大会か?」
当初の目的を果たす為に話を本筋に戻せば、クレスタはリリアに書類をとりに行かせた。
「違うよ。今回は任務さ」
「・・・久々だな、平和な世の中で馬鹿する奴がいたか?それとも猛獣でも出たか?」
数枚の書類を持ってきたリリアからそれを受け取り、目を通していく。書いてあることは、いつもとは違い・・・・不可解なことばかりだった。
「・・・・・・珍しい調査書だな・・。」
普段の調査書なら、起こった事件の数、起こった事件の内容が事細かに書いてあるのに今回はほとんど埋まっていない。
「神隠しって言うのかな。全力で調べてるんだけど・・・・何もわからないんだよ。村の人が突然ポツリポツリといなくなってるんだ」
「クレスタが詰まるなんてな。・・・・原因を探れ・・・か」
ラルが初任務な分、少し悩む所だが。
(・・・・まぁ、何事も経験の内っていうしな・・)
書類をがさっと纏めて、机の上に叩きつけた。
「よし、任せろ。明日出発だ。後はこっちでなんとかするからクレスタは頑張って書類を片付けてろよ」
「もう行くの?・・・せめてもう少し情報が入るのをここで待ってもいい気がするんだけれど」
クレスタが言う事も一理あるが、どうにかなる事なのに間に合わなくなってしまう事だってある。
「任務はとっとと終わらせるに限る。お前もいつも言ってたじゃねぇか、早く終わらせて来いってな」
私は叩きつけた書類を持って立ち上がった。そうすれば、リリアが書類を纏める道具を持ってきてくれる。
「シーナ様、気を付けてくださいね。何が起こるかわからないのが現状なのですから」
纏めた書類を受け取った私は、心配してくれているリリアに。恐らく、口にはしてないがそう思っているのだろう、クレスタに笑っておいた。
「あぁ、準備は万全にしておく。慢心するのは何事にも良くねぇ。クレスタ、悪いが飛竜を5匹貸してくれねぇか?」
今回の任務地は遠い。山も川も超えなければいけない。近場なら馬と荷台で行くが、今回陸で移動すれば何日かかるかわからない。その点、飛竜は空を飛べて速度も早い。3日はかかるこの村も半日でいけるだろう。
「・・それは構わないけど」
「・・・・・?どうした?」
歯切れ悪いクレスタを不思議に思って問いかけるが、ぶんぶんと首を横に振ってニコリと笑顔を見せられた。
「いや・・・・絶対に、無事に帰ってきてよ、シーナ」
その問いかけに、本当にクレスタは優しい奴だと再認識する。
「当たり前だ。私だけじゃない、騎士団全員無事で帰る。約束だ」
ぐっと握った拳を体の前に持っていけばクレスタも立ち上がってゴツン、とぶつけてくれた。
「じゃあな、いい報告を待っててくれよ」
「十分、お気を付けて」
「・・・・早く帰ってきてね」
そう言葉を交わして、私は任務の作戦をたてる為に屯所へと戻ることにした。
部屋の中で、
「今回はそんなに危険なのですか?えらく渋られましたね、クレスタ様」
「・・・・どうしてだろうね、すごく・・・嫌な予感がするんだ」
そんな会話が交わされているとは知らずに・・・・。