決勝
「っててて・・・痛いなぁ。シーナってば本当手加減がないよね」
腰を付けたクレスタに頭上から一発ぶち込んでやれば、持っていた剣で弾かれてしまう。立ち上がって尻を摩りながら文句をグチグチ言うこの男も、変わりないようだ。
いや、経験は以前より増えその力も増している事だろう。それについていける自分に、少し嬉しく思った。
「うるせぇな。お前に手加減なんてしてたら命がいくつあっても足りねぇよ」
口を動かしながらも、まずは一発右から撃ち込む。
ガンッ!
防がれた剣から競り合いに持ち込ませないように直ぐに弾き、次は左、右下、頭上と次々に乱れ撃つ。
「っ、ほら、守らねぇと、首が、飛ぶぞっ、」
キンッ、金属がぶつかり合い音をどんどん響かせていけば迎え撃つクレスタの顔が必死になってきた。
「ッ、僕だって、やられてばっかじゃ、ないんだ、よっ!」
言葉と同時に込められた渾身の一撃に、剣と共に腕が後ろへもっていかれてしまう。
「くそっ、」
剣がなければ私などクレスタの前じゃ何も出来ない屑だ。次を撃たれる前に腕を戻そうと力を入れるが、それよりも速く腹に一発食らってしまった。
「ぁがッ・・!!!」
鎧など無意味だと思い知らされる激痛に顔が歪む。これを好機だとクレスタは覚束無い足取りの私を柵へと追い詰め、再び強烈な一発をお見舞いしてくれた。思いっきり柵に背中をぶつけ、腹に走る激痛に加えて背中の衝撃も合わせればもう体は悲鳴をあげていた。
(・・っ、女の体が弱いのか・・・私が弱いのか・・・チッ、)
次が来る前に、剣を支えにしながら力を振って絞り立ち上がる。攻撃はこれでもか、というほど磨きをかけた。しかし当たってしまう攻撃にはどうしても限界があるのだ。
(とっとと・・決める・・・!!)
長引かせるのは賢明ではない。振り上げた剣を再びクレスタに向ければ、真剣な眼差しをしているのは相手も同じの様だ。
「・・・終わらせるぞ・・・!」
にやり、と口端を歪めた私はクレスタに向かって勢い良く走り込めば、クレスタも同じように笑う。
「こっちの台詞だよ!」
ひと振り、二振りと振り始めた剣はクレスタの頬を掠め、体を掠め、傷を作る。それは私の体にも同じことだった。時にはぶつかり合い、そして空気を斬り、必死に相手の隙を狙う。右から来たクレスタの刃を躱せば下から蹴りが飛んでくる。
それも後ろに避け、お返しとばかりに低い姿勢から得意の足払いをしてやった。少しバランスを崩したクレスタの右腕に隙が出来る。
(・・・・もらったっ!!)
そこを目がけ、骨まで衝撃を与えてやるという勢いでひじ打ちをぶち込む。
「ッ・・!」
痛みが表情に現れたクレスタに効果を確認し、剣を落とさせる様に剣の柄を使って手首を叩く。力が入らない手で剣を構え直すクレスタの手首を、もう一度容赦なく弾いた。
ガンッガンッッ!!!
衝撃は骨まで響いてクレスタは手と腕を痙攣させ、ついに剣を落とさせた。その勢いのままクレスタの胸を肘で押さえつけ、地面に転がせば右腕が支えれない為、安易に倒れてくれる。クレスタの胸の上に乗りあげ、左手首を片足で抑え、刃を首筋にピタリと当てる。
「・・っ、はぁ・・・はぁ、・・わたしの、・・・勝ちだ・・・!!」
クレスタ相手ではどの状態から覆されるかわからない。
剣を持つことが出来ない様に。
体を動かす事が出来ない様に。
すべての可能性を潰して、やっと手に入れることができる勝利なのだ。
見下ろすクレスタの顔はまだ勝負は終わっていないと案の定諦めていないが、私の言葉を聞いたのか、場内のアナウンスが音声を響かせた。
〔き、騎士団が・・・!!〕
(・・・・騎士団が、どうした)
もはや何のアナウンスだかわからないが、それを聞いたクレスタは肩の力を抜いてくれた。
「・・・はっ、・・・あーあぁ・・・また・・・負けちゃった」
負けを認めたクレスタから足を退かして、痺れて動かせないだろう腕に変わって立ち上がらせようと引っ張り上げる。クレスタは痛みで顔を歪めたが、久しぶりの交戦は楽しめたのだろう、直ぐにふわりと優しい顔をした。
「シーナは変わらないなぁ・・君に勝つのは本当に難しいね」
「・・人のこと言えねぇぞ。お前も容赦なかったじゃねぇか。柵に背中ぶつけた時は息が止まるかと思ったんだからな」
穏やかな顔に安心して、試合の事を省みて笑い合う。ゆっくりと肩を抱いて立ち上がらせれば、クレスタはしっかりと自分の足で歩いてくれた。
さすがに抱えるのは無理だ。
救護隊が控えてるであろうフィールドの入口に向かおうとすれば、会場からぱちぱち、と手を叩く音が聞こえてくる。何の音か確認する為に顔を上げれば、それが拍手なのだと知った。
思わず足が止まってしまう。
「・・・・なんだ、これ」
何かあったのか、と思うぐらい会場総立ちで拍手している。その意図を友人は理解しているらしい、クスリと笑った。
「まさか、軍の奴等は僕が負けるなんて思ってなかったんだよ。しかも、文句なしの強さに彼らは胸を打たれたんだろうね。・・・・まぁ、僕らの戦いが素晴らしかったって事だよ」
へらへらと笑うクレスタの言葉は果たして私を褒めているのか、自分を褒めているのかは見極めずらいがこの拍手が良いものなのは理解できた。
「そうか。・・・・・・昔・・・見たいだな。初めて認められた時は嬉しかった。また、認められてるみたいだ」
「認められてるよ」
昔の思い出に浸っていれば、クレスタは首を動かして高台を指した。そこには、いつの間にいたのか、拍手してる王の姿があった。
わかってはいる。
あの高台に居る王は、あの頃とは別人。
だが、植え付けられた私の心の醜さは、それさえも喜べなかった。
「ふん、いつ気が変わる事だろうな。私はもう、何をされても喜べねぇよ」
そう自嘲した私に、クレスタは少しだけ悲しい顔をした。




