騎士団団長:シーナ
十数年前、住んでいた町は国の内乱に巻き込まれ、あっという間に戦場と化して父親も母親もその場で殺された。
鋭い刃が両親の胸に突き刺さる景色を今でもよく覚えている。私はそれを見て、強くならなければ殺されるのだ。そう考えてしまった事を幼いながらに薄情だったなと思い出した。
両親が村の外へと上手く私を隠し、戦場から荒地と化した町に奇跡的に生き残った私は、幾人もの転がる死体の中から一人の兵士を見下した。
今となっては、その男に憎しみがあったのか、復讐がしたかったのかは覚えていない。けれど、何よりその時強く思ったのは、全てを失った私が生きるには、力が必要だと思った。
親を失った悲しみよりも、街を失った寂しさよりも、両親と同じ様に狂った兵に殺されるのが怖かったのだ。
焼けた男の死体から剣をもぎ取り、死にたくないの一心で、我武者羅に剣を振った。
体を鍛え、森で狩りをし、何とか命を繋げた私が出来る事はただ一つ。
“戦う事”
ひょんな事から知り合った友人が王都という都の軍に所属しており、そいつの伝で唯一の特技が活かせる軍に所属出来るようになった。
女だろうが、幼かろうが、私には軍に入るか、サバイバルを続けるか・・・この二択しかない。寝床があり、食料も用意される場所なんて、当時の私にとっては夢のような話だ。
そんな夢の生活にも、問題は山積みだった。
この国での女の地位は低い。いくら身分が高い女でも政に関わることなど無いし、役職に付くこともない。
それが、この国での女の地位。
そんな事情の中、女の私が軍に入るには渋られた。馬鹿にされ、邪魔にされるなど毎日。友人が良くしてくれる事は多かったが、甘えていれば私の環境は変わらない。
強くならなければ、その時も強く胸に誓っていたその言葉を今でも忘れはしない。
その決意が効いたのかはわからないが、邪険にされた日々は、長くは続かなかった。私の扱いは、剣を交えた日から変わっていく。馬鹿にした奴には恥をかかせ、殴ってきた奴には倍で返した。
森で生活をしていた私の実力は相当なものだったらしい。確かに、寝ていても襲ってくる獣を相手にしていたのだから、常識を破れない人間なんて可愛いものだと私も思っていた。
“女だから負けてやった”と顔を強ばらせて言う奴もいたが、本当かどうかは周りが見れば一目瞭然。いつしか馬鹿にされた言葉は賞賛へと代わり、邪魔にされていた日常が必要とされる日常へ変わっていった。
軍に入るまで人と関わる事が無い日々が多かったからか、必要とされる事が嬉しくて、友人と騒ぐのが楽しくて、毎日が一番の幸せだった。
手を貸そうとしてくれていた友人とは、共に手を取り合う様になり、任務で成功を収めていく私達に怖い物など何もない。
・・・そう思っていた。
このやっと手に出来た幸せが崩れるのは、両親が胸を刺された時の様に一瞬だった。
ある一族の一声が再び私を地へと落とす。
皇族という一族。
貴族の中でも王位に就き、昔からの約束事を重んじる一族と有名だった族長、言わばこの国の王。
当時の王が私を見て鼻で笑った。
女が騎士など、女に守られるなど、恥だと。
その一言で、皇族の人間共は私を毛嫌いし、おかげで貴族にも嫌われた。
護衛も、式典の警備すら与えてもらえなくなった私はついに、軍に席を置くことすら許されなくなった。良くしてくれた友人は反論示し皇族に楯突こうとまでしたが、大好きな仲間に、迷惑を掛けたくなかった。
もし大切な友人が、
私の様に家族を失ってしまったら。
私の様に仕事を失ってしまったら。
そしてなによりも、
私が、友人を失ってしまったら。
悲しい思いをして欲しくなかったし、もうこれ以上何も失いたくなかった。
そんな感情を悟らせないように、私は自ら表向き、長い遠征へと旅立つことにした。
あの森の生活に戻ろうと決めたのだ。けれど途中で私の意図に気づいてしまった友人が、ある騎士団を結成してくれた。
細々と設立された騎士団は誰に知られる事もなく、軍の友人が持ってくる任務を着実にこなす部隊となり、今ではまるで実態のない幽霊の様な噂がたっているらしい。
そんな部隊の正体は簡単だ。
口が悪い私――シーナと、厳つい筋肉質のマロン。女ったらしのアクリアとチビのヴィスタ。精鋭が連なり、確実に任務をこなす騎士団と言えば形は良いが、実際は軍のお払い箱となった合計4人。
今日は、そんな騎士団に新しい仲間を迎える珍しい日。
もしかしたら、この日を境に幽霊騎士団の実態が少しずつ変わっていくのかもしれない・・・