第8話 報復実行
《登場人物》
ジェイソン・リー (34) 合衆国政府公認消去人
ロバート・サランドン(37) 元合衆国陸軍中佐
イル・マーレー (31) 同 サランドン中隊 軍曹
アンドリュー・クレイ(58) 合衆国大統領
ポール・マーサン (48) CIA長官
9月11日 大統領式典演説まで、あと、30分・・・
グラウンド・ゼロの巨大野外ホールでは、《9・11テロ》の被害者遺族がステージに登壇し、亡くなった被害者に対するメッセージやコメントを述べていた。
警察官に扮装したイルは、ホールの観覧席のステージ前から三列目に座り、《行動》を起こすまで待機していた。
建設中のフライヤービルの建設関係者用エレベーターが、18階を目指し、上昇する。エレベーター内は、両手にアタッシェケースを持った、ロバートが立っていた。エレベーターが十八階にたどり着き、狭い空間から降り、野外ホールが見えるポイントまで行き、アタッシェケースを床に置いた。
ロバートは、近くに置いてあった作業用の木机を、持って来てから、アタッシェケースを置き、鍵を開けてケースを開く。その中には、レーザーサイトと遠距離スコープが付いたミサイルガンが入っており、それを取出し机の上に置く。そしてもう一つのアタッシェケースから、一つの支柱を取り出した。その支柱を両手で持ち、窓ガラスが設置されてない窓の前に設置する。
ミサイルガンに、弾丸を詰めて、設置した支柱をよく固定してからミサイルガンを支柱のところにセットする。
ロバートは、イルに無線で連絡する。
「こっちの準備はいいぞ! いつでもいい大統領が現れて演説を始めたら言うんだ!」
「了解・・・」
イルは、耳で無線を聞きながら、応答した。
ロバートは、ミサイルガンのスコープで、大統領が野外ホールまで到着したかどうかを確認する。
(どうやら、今、ステージで演説しているのは、ニューヨーク市長のようだな・・・)と確認している時に、背後から、拳銃を突きつけられる。
ロバートは、とっさに腰の拳銃を取り出そうとしたが、男の低い声で止められる。
「おっと・・・手をあげろ! 動くなよ・・・銃を捨てな・・・」
ロバートは、ゆっくり腰のホルスターから、拳銃を取り出して下にゆっくり置いた。
ジェイソンは、置かれた拳銃を足で後ろに蹴飛ばした。ジェイソンは、ロバートに銃を構えたまま淡々と話しかける。
「やっと話すことができるな・・・どこかで見た顔だな・・・前どこかで会った顔だな・・・」
「ああ、その様だな」
ロバートは、手を挙げたままジェイソンのいる方向に体を向ける。
「お前は、ジェイソンか?」
「ああ、久しぶりだな。ロバート・・・こんな形で再開したくなかったよ・・・俺はてっきり、イラクで死んだかと思っていた」
「俺が、死んでいただと? 悪いがその思いは見事散ったわけだ・・・悪いが俺も忙しいのでね・・・せっかくの再開だが早めに切り上げさせてもらうよ・・・」
ジェイソンは、ロバートに何故、こんなことをしてしまったのかを訊く。
「なぜ、こんな事を・・・?」
その問いについて、ロバートは冷静に淡々と喋りだした。
「何故だって? いいか、俺達は変わったんだ・・・それまで、毎日、政府の椅子に座ってデスクワークしている老いぼれ共が犯した過ちを俺たち軍人が尻拭いしていたわけだ・・・それが、ただただ嫌になっただけだよ・・・」
「そこまでして、この国が憎いのか?」
ロバートは、ジェイソンに激昂した。
「ああ、憎いさ、お前にだって分かるだろう? お国のために働いてきた俺たち軍人は、使えなくなったら、ゴミ屑のように捨てられる・・・貴様に分かるか! その気持ちを・・・だから今までの気持ちをこれでぶつけてやるのさ・・・これを大統領に向かって、打ち込めばこの国は、変わる!」
ジェイソンは、ロバートの意見に首を横に振り否定する。
「お前は、分かっちゃいない・・・結局、大統領を暗殺したって変わる話なんてない! 結局はお国の手駒でしかいられないんだよ・・・」
「動くな!」
遠くから聞き覚えのある声が、警告した。ジェイソンは、警告を発した者に話しかける。
「おいおい、随分と来るのが早い事で・・・」
「黙りたまえ・・・」
ジェイソンの後ろには、拳銃の銃口をジェイソンに向けて構えて立っているポールの姿が鏡越しで見えた。
ロバートは、ポールの登場に驚きを隠せなかった。
「何であんたがいるんだ? ここに・・・」
ポールは、ロバートに向かって不敵な笑みを浮かべ、その質問に答える。
「当初の予定を大幅に狂っているのでね・・・特に、ジェイソン、君にはおおいに困ったよ。困るんだよ! 邪魔をされると・・・私の計画は完璧だった・・・まぁいい、計画を完遂したら私は次期大統領の椅子を目指すことができるわけだよ。こんな事にもさよならできるようになる・・・と言うわけだよ。ジェイソン君、銃を捨てたまえ!」
ジェイソンは、ロバートに構えている拳銃を置くしか方法は無かった。ジェイソンは拳銃を下に置き、自ら手を上げて、ロバートの立ち位置から変わった。
ロバートは、ジェイソンの拳銃を拾い上げ、ジェイソンの腹を殴る。
「ぐふぅぅ・・・」
「すまんな・・・これは死んだ部下のぶんだ・・・」
ジェイソンは、みぞに入り激痛が腹に入るのが分かり、思わずひざまずいた。
ポールは、拳銃を左のホルスターにしまい、ロバートに命令する。
「さぁ、ロバート君、彼を始末しろ!」
ロバートは、拳銃の引金をジェイソンに向けて、引こうとする。
ジェイソンは、後ろ首と、防弾スーツの間に挟んだ閃光弾に、手を伸ばし閃光弾のピンを左親指にはめ込み、両手で包み込んだ。
引金を引こうとしようと瞬間と同時に、ピンを引き、閃光弾を投げ、光が目に来ないように、壁に避難して目を伏せる。
「すまないな・・・」
ロバートの真下に、閃光弾が転がり、引金を引こうとした瞬間に閃光弾の眩しい光と耳をつんざくような破裂音が、ロバートとポールを襲う。
「ちっ・・・閃光弾か!」
ジェイソンは、目くらましにあって目が見えていないロバートにめがけて、腹にストレートパンチを一発くらわせてから、ロバートが構えている拳銃を目くらましにあっているポールに向けて、何発も撃ち込んだ。心臓、頭、胸、それぞれに当たって、ポールは、「ぐはっ・・・」と苦しみながら、弾丸の攻撃を浴びて、鮮血を流しながら倒れて、息絶える。
ロバートも何とか、白くなっていた視界から元の景色を取り戻し、拳銃の取り合いをする。
ジェイソンは、ロバートと共に拳銃を上の天井に向けて、引金を何発も撃ち込み、マガジンに入っている弾を撃ち尽くすまで、天井に向けて撃った。拳銃が弾切れになった後で、銃の取り合いを止めた後に、ロバートの回し蹴りが、ジェイソンの脇腹に当たる。少し後ずさりしてしまうが、果敢にロバートと格闘戦に持ち込む。ジェイソンは、ロバートに向かって、左ブローと右ストレート、と膝蹴りをくらわす。左ブローと膝蹴りがロバートの腹と脇腹に当たる。
ロバートもジェイソンの格闘に結構効いているようで、膝蹴りを腹でくらった時は、少しふらふらしそうだった。ロバートは体制を取り直して、ジェイソンに挑む。
ジェイソンは左ボディーブローと右ボディーで狙う。だが、ロバートに、体をひねって避けられる。ロバートも足技でジェイソンを攻撃する。右回し蹴りから足払いをするが、回し蹴りは、距離を取られ当たらず、足払いをすると同時に、ジェイソンは、飛び回し蹴りで反撃し、蹴りがロバートの左の頭部に直撃する。右に横転しながらも体制を取り直すが、それと同時に、左耳に激痛が走る。どうやら鼓膜が破けたらしい。唾液が少しおかしい、ロバートは唾を吐く。その唾は、少し赤みがかっていた。ジェイソンは、ロバートの歯を見ると白い歯が血で染まっているのが分かった。
ロバートは、腰の右ポケットのサバイバルナイフを取出し、軍隊仕込みの近接格闘術を駆使して、ジェイソンを襲うが、ジェイソンもナイフを取出して、近接格闘をする。
目では追うことができない速さで二人はナイフを振り回す。ロバートのナイフが、ジェイソンの右頬をかすり、ジェイソンは一歩、後ろに下がる。ロバートもどうジェイソンが攻撃してくるかを警戒している。
ジェイソンは、ロバートに襲いかかる。ジェイソンのナイフがロバートの革ジャケットの袖を大きく裂いた。
ロバートは、裂かれた袖を見て、激しく憤怒した。
「俺のお気に入りを、よくも・・・」
「悪いね・・・」
ジェイソンは、ロバートを皮肉った様な笑みを浮かべて挑発する。
ロバートは、挑発にのり、ジェイソンに向かって三段蹴りをする。蹴りは、ジェイソンの腹とナイフに当たり、ナイフは、吹っ飛び、横のベニヤ板の角材に刺さった。
ロバートは、再びジェイソンに襲い掛かるが、ジェイソンはロバートの右腕をつかみ、ケースが置いてある机の上に、体ごと突っ込んだ。ロバートの体は、机の上を滑り、ケースを落としながら、ジェイソンの対面側に落ちた。
ロバートは、立ち上がり、ジェイソンを睨み、憤怒する。
「この野郎・・・ぶっ殺してやる!」
ジェイソンは、憤怒するロバートに向かって、言葉を放つ。
「俺を殺せるものか・・・」
その頃・・・グラウンド・ゼロでは、市長演説が終了し、市長が次の演説者を紹介する。
「では、私の昔からの友人である。アンドリューに大事なことを話してもらいましょう。我が合衆国、第47代大統領・・・アンドリュー・クレイ・・・」
大統領の名前と同時に、観客や被害者遺族は立ち上がり、大きな拍手が鳴りやむ事はなく、大統領は、遺族に向かって、左手を上げる。
市長は、ステージに上がる大統領と握手してから、ステージに降りる。観客などに手を振ると同時に歓声と野次が飛ぶ。大統領がステージに登壇したと同時に、遺族やホールの観客は椅子に座る。
「ありがとう・・・ありがとう・・・さて、《9・11テロ》から、20年以上経ちますが・・・まだ、我々の悲しみは、消え去っておらず、悔しさも消え去ってはいません。だからと言って、戦争しても変わりなどないのです・・・」
イルは、演説が始まったと同時に無線で連絡する。
「標的が位置に着いた。いつでも、狙撃準備は完了です。応答、どうぞ・・・」
格闘中のロバートの無線からは、イルの連絡が届くが応答する事ができず、ジェイソンとの死闘に必死だった。
イルは、ロバートからの応答が来ない事に、おかしく感じたが、命令が来るまで動くなと言われていたから安易に動く事は出来なかった。
イルはただ、ホールのベンチに座り、大統領の動向を監視しながら、命令を待つしかなかった・・・
ジェイソンは、ロバートのナイフを蹴っ飛ばし、ナイフをビルから落とした。ジェイソンは極め付きに、ストレートをロバートの腹にくらわした後で、飛び回し蹴りをロバートの頭部に直撃させる。
ロバートは、横転し、視界が合わない状態になったが。そこに捨ててあった、自分の拳銃を見つけて拾い、少しずつ立ち上がりながら、ジェイソンに構える。
「悪いな・・・これで、ゲームセットだな・・・」
ジェイソンはベニヤ板に刺さったナイフを見て、それを抜き差して、回転しながら、ナイフをロバートにめがけて、投げる。
同時にジェイソンにめがけて、拳銃は弾丸を轟音と共に発射した。ロバートはナイフがスローモーションのように見える。しかし気付いた時には、激痛が走っていた・・・
「ぐふっ・・・何・・・」
ロバートは胸を見てみる。ナイフの柄が見える、そこから鮮血がドクドクと流れる。赤い・・・口からも鮮血が垂れていた。
ロバートは、そのまま後ろに崩れるように倒れる。意識が遠ざかっていく・・・そのまま目を閉ざした。
ジェイソンは、防弾スーツを見る。丁度、心臓の部分に弾丸が突き刺さっていた。
「防弾スーツが無ければ死んでいたところだった・・・」
ジェイソンは立ち上がり、ロバートに近づき、持っている拳銃を奪う。ロバートは息をしていない。鮮血が流れているところに、無線が置いてあるのが分かり、それを取り、耳を近づける。すると無線からはイルの声が聞こえる。
「応答どうぞ・・・中佐、応答どうぞ・・・」
ジェイソンは、危機を察知した。
「まさか・・・」
ジェイソンは、ミサイルガンに近づき、見てみる。トリガーが無いのが、見てわかる。ジェイソンはこのミサイルガンは遠隔装置で発射される仕組みだと分かった。
「遠隔装置か・・・ロバートはリモコンを持っていなかった。まさか、ホールにイルが・・・まずいぞ!」
ジェイソンは、急いで、エレベーターに向かい、エレベーター前にある細長いアタッシェケースを取りに行き、ケースをミサイルガンの前まで持っていき、ケースを開け、スナイパーライフルの部品を取出し、ライフルを作り上げる。
ジェイソンはスコープで野外ホールを確認する。大統領が演説しているのが分かるがイルがどこにいるのか分からず、位置を確認する。
「どこだ・・・どこにいる・・・出てこい・・・出てくるんだ・・・」
すると、後ろから、
「今だ! 発射しろ!」の声が聞こえる。
ジェイソンが後ろに振り返るとロバートが無線で、叫んでいるのが分かる。
ロバートは、ジェイソンに向かって不敵な笑みを浮かべながら力尽きる。
「わ、悪いな・・・俺は、しぶとい性質でね・・・」
ジェイソンは、ホールの方向をライフルのスコープで凝視する。
すると、ホールの真中のカーペットを歩く警察の制服を着た男が、大統領がいるステージに近づくが、一定の距離を保っている。
「イルだ!」 ジェイソンは確信した。
アンドリューは何が起きているのか全く状況把握できておらず、演説を普通に行っている。
イルがどんどん近づいているが途中で止まり、大統領に向かって両手を挙げながら叫ぶ。
「合衆国は、腐っている・・・ならば今、変わるべきなのだ! 合衆国よ、懺悔せよ・・・お許しください。神よ!」
イルの左手には、ミサイルガンの発射リモコンを握っていた。イルの親指が、リモコンのスイッチを押そうとする。
ジェイソンは、ライフルで、イルを見つめる。ここからホールの距離は約1キロメートル・・・ジェイソンはイルに向けてライフルの銃口を向けて照準を合わせる。
イルはボタンを押す瞬間、遠くで、ライフルの弾丸の炸裂音が鳴る。
「あっ・・・」
イルは、後頭部から鮮血が飛び散り、一メートルぐらい後ろに吹っ飛んだ。倒れているイルの額からは穴が開いているところから、鮮血がダラダラと額から、目、鼻、口元へと流れていく。ミサイルガンのリモコンは、押す事もなく左手から崩れ落ちる。
シークレットサービス達が、大統領の盾になりかばっている。観客や遺族達は悲鳴を上げ、銃声と共に自分が座っていたところから逃げ出す。
数名の警察官が、死体と化したイルを囲み、拳銃を構える。大統領は、シークレットサービスのボディーガードと一緒に避難し、ステージから離れる。
式典に来ていた各国のメディアが、式典のニュースから一転、式典の大統領演説乱入者の射殺事件に切り替える。
ジェイソンは、スコープからイルの死亡を確認した後、ライフルを片付け、地べたに座り込んだ。
防弾チョッキを脱いで、シャツの胸ポケットに入れていた。煙草を一本、取り出して口にくわえたまま、煙草の先端に、ライターで火をつけ、一服する。煙草を手に持ち息を吐く白い息が周りに充満する。
式典の野外ホールは、パトカーの音と、救急車の音しか聞こえなかった。
ジェイソンは、ホールを見つめながら煙草を吸う。
「今日は、久しぶりに合衆国内が騒がしくなりそうだな・・・」そう、呟きながらホールに手を挙げる。
国旗掲揚台に掲げられた星条旗は太陽の光によって、眩しく輝いていた・・・
この8話で、完結です。
下手でしたが、最後まで読んでいただいた方はありがとうございました。
感想、批評などいただければ幸いです。
誤字脱字のご指摘があれば宜しくお願いします。
次も頑張って書いていきたいなと思います。
ありがとうございました。




