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[20年ぶりの再会]_1

4月4日(土)────


 ──ピンッ……ポーンッ……!!


 私、村岡(むらおか)紗莉花(さりか)は今年で33歳を迎える、現在32歳の人妻です。

 今年で結婚生活7年目になりますが、子供は居らず……しかも夫婦の夜の営みもレスなので、老後のことを考えた私は、ハウスキーパーをしています。


 現在住んでいる地域では、住民同士のみが利用できるWEBサイトがあり、そこの掲示板はかなり活発に投稿があり、様々な交流が行われております。

 その中で、困りごとの助け合いも行われており、庭木の手入れや、家事代行もあり、私はそこに目をつけて、ハウスキーパーのお仕事を始めました。


 地域の住民同士ですので、何か起きれば誰か分かるからなのでしょうか、今のところ……私は、利用者さんからのトラブルを幸い受けておりません。

 そして、今日……私の通算3人目となります、ハウスキーピング利用者さんのお宅の前まで、書面での契約を交わしておくために……来ておりました。


 ──「……はい」

 「こ、今月から……ハウスキーパーとしてお世話になります、村岡です!!」

 ──「あー!!ごめんなさい!!すっかり、忘れてました……。今、開けますね?」

 「こ、こちらこそ……すみませんでした。出る前に、ご連絡入れれば良かったですね……」


 最初は怪訝そうな声でしたが、ハウスキーパーと聞いて利用者さんはピンと来たようで、助かりました。

 この利用者さん、最初のやり取りから……なかなか連絡が取れないでいたので、契約はダメかなと思っていましたが、ただお仕事が忙しいだけでした。

 なので、それが分かってからは、私は必要最低限のご連絡だけするようにして、利用者さんから日にちの指定があったので、それで来てしまいました。


 ──ガチンッ……ガチンッ……

 ──ガチャッ……ギィィィィッ……


 「お、お待たせして……さ、紗莉花……か?!」

 「えっ?!」


 お住まいのお部屋の玄関ドアが開いて、私の顔を見た途端……利用者さんが、まだお伝えしていないはずの下の名前を呼んできたのです。

 急に……『紗莉花』と呼ばれた私は、ふと……ある事に気付いたのです。

 利用者さんの上の名前は『辻村(つじむら)』だったのですが、それは……私が良く知る人物の名字でしたが、特に気に留めてはいませんでした。


 「やっぱり……紗莉花なんだな?でも、名前が……田島(たじま)じゃないよね?」

 「啓吾(けいご)くん……だよね?本当に……ごめんなさい。私、結婚してるの……」

 「え!?で……でも、指輪……してないじゃん?」


 ハウスキーパーのお仕事をする際、意図せずにでも……結婚指輪で、依頼人さんのお宅の物を傷付けてしまう恐れがあるので、私は外しております。

 恐らくですが、啓吾くんは……私だと分かった瞬間、咄嗟に……左手の薬指を確認したのかもしれません。


 「お仕事の都合上、外してるだけなんだ……」

 「あー……金属で、家具とか擦ったりしちゃうから?」

 「うん、そういう理由なの……。本当……ごめんなさい……」


 この状況では、私は啓吾くんに謝ることくらいしか……出来ませんでした。

 それにしても、これは……何の神様のいたずらでしょうか……今日から、ハウスキーパーの契約を結ぶというのに、両手を挙げて喜べない状況です。


 「全く……困ったもんだな?紗莉花は、俺の彼女なのに……知らない男と浮気した挙句、結婚までしちゃってくれてさぁ?」

 「えっ?!」


─_─_─_─_


20年前、4月1日(土)────


 啓吾くんと私の関係性については、20年程前まで遡ります。


 20年程前の12月の冬休み、当時小学5年生で同級生だった、辻村啓吾くんに田島紗莉花こと私は……告白されたことで、付き合い始めました。

 その日からの私たちは、周囲から冷やかされる程に仲良しで……相思相愛な彼氏彼女でした。

 一緒に初詣に行ったり、バレンタインデーやホワイトデーは……お互いの部屋で過ごしあったり、春休み期間に関しては……お泊まりしたりしました。

 とは言っても、まだ小学5年生でしたので、一緒にお風呂に入ったり、抱き締め合ったり……キスしたり、一緒に寝たりするくらいでした。


 そして、4月に入り……新学期が始まる直前、春休みも終盤に差し掛かったところで、ラブラブな関係の私たちにとって……大事件が起こりました。


 土曜日なので、私の家族は食卓を囲んで、朝食を摂っていた時でした。


 ──ピンッ……ポーンッ……!!


 「おや?こんな朝早く誰かな?」


 ──ドンドンドンドン!!


 「紗莉花!!大変なことになった!!」


 「ああ、この声は……啓吾くんか?紗莉花、何だか……急ぎの用かもしれないよ?」

 「そうよ?啓吾くんが、ドア叩くなんて……よっぽどのことよ?」


 突然、玄関のインターホンの呼び鈴が鳴ったかと思ったら、ドアを叩く音がし始めて……啓吾くんの声が聞こえて来たのです。


 「うん、ちょっと……行ってくるね?」


 朝食中のパパとママに見送られて、私は玄関に向かったのですが、そこで啓吾くんの口から語られたのは、本当に……衝撃的な内容だったのです。


 単身赴任していた、啓吾くんのお父さんから急遽連絡があったようで……残してきている妻子を、自分の元へと呼び、一緒に暮らす話になったのです。

 奇しくも、この日はエイプリルフールでしたので、啓吾くんはお父さんが悪い冗談を言っていると思っていたそうですが、本当だったのです。


 その話を聞いた啓吾くんは、自分は残ると伝えたようですが、無論聞き入れられる事はなく……引っ越しの準備を始めるように言われたそうです。


 「お……俺、引っ越しなんかで……紗莉花と別れたくない!!」

 「うん、私も……啓吾くんと、同じ気持ち!!付き合ったばかりなのに……ラブラブなのに、別れるなんて嫌だよ!!」

 「そうだ、これ……引っ越し先の住所と電話番号だから!!」

 「ありがとう……!!手紙とか電話とか……しようね?」

 「あのさ……?俺、小遣いとか……お年玉とか貯めて、紗莉花に逢いに来るからさ?」

 「うん!!私も……啓吾くんの所へ行ってみたいから、頑張ってお金貯めるね?」


 そして、啓吾くんは新6年生としての新学期を待たず、当時の私のお小遣いでは……とても行けない遠い地域へと、引っ越して行ってしまいました。


 そこからは、啓吾くんと私は……主に手紙での文通が始まりました。

 たまに……啓吾くんから、私の家へと電話が掛かってくる事もありました。

 ですが、この頃はスマホなどはなく、『かけ放題』プランもない時代でしたので、電話代で怒られないように……数分お話しするのが限界でした。


─_─_─_─_


20年前、7月21(金)────


 「やっと、引っ越し終わったわね……」

 「それじゃあ、今夜は……パパのよく行ってた店で、夕飯にしようか!!」

 「ない……!!啓吾くんの連絡先が書いてあった……お手紙がないの!!」


 啓吾くんが引っ越して行ってから、3ヶ月程経った夏休み……私たち家族は、パパの地元へと……引っ越しすることになりました。

 その際、引っ越し業者を使ったのですが、そのせいで……私と啓吾くんが、やり取りしていた手紙の全てが……廃棄されてしまっていたのです。

 悪いことに、私の方から引っ越し先から……啓吾くんに連絡すると、手紙を送ってしまっていたせいで、それっきり音信不通になってしまったのです。


 だから……啓吾くんのように、都合良く解釈したなら……私たち二人は、別れの言葉を告げても告げられてもいない為、恋人同士のままなのでしょう。

 ただ、私が啓吾くんという彼氏がいるのに、浮気した上に……結婚してしまった。

 それだけなのでしょう。

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