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ー第4節 周妃の激昂と毛玉の食事。負の感情を吸い尽くされた妃たちの、あまりにも急激な賢者化

第4節 周妃の激昂と毛玉の食事。負の感情を吸い尽くされた妃たちの、あまりにも急激な賢者化


 周妃の怒りは頂点に達していた。

 彼女の取り巻きたちも、主人の怒りに呼応するように、李花を睨みつける。

 会場の空気は張り詰め、今にも爆発しそうだった。


「田舎娘が! 皇帝陛下の気まぐれで入宮できたからといって、いい気にならないでちょうだい! そのふざけた衣装を引き裂いてやるわ!」


 周妃が手を振り上げた、その瞬間。


『いただきまーす!』


 誰にも聞こえない声と共に、李花の袖から白い影が飛び出した。

 おつまみだ。

 彼は目に見えない速さで、周妃たちの周りを飛び回った。


 ジュボッ! ジュボボボボッ!

 まるで麺をすするような音が、おつまみの体内から響く。

 彼は、周妃たちから立ち上るどす黒いオーラを、猛烈な勢いで吸い込んでいった。


『うまい! この熟成された嫉妬の味! プライドの高さが隠し味になっておる! こっちの娘の劣等感もコクがあって最高じゃ!』


 おつまみは歓喜の舞を踊りながら、ありとあらゆる負の感情を掃除機のように吸引していく。

 李花は、何食わぬ顔で茶を啜っていた。

 (あら、風が止んだかしら?)


 数秒後。

 おつまみが満腹でげっぷをして、李花の袖に戻った時、奇妙な現象が起きた。


 振り上げていた周妃の手が、だらりと下がった。

 鬼の形相だった顔から、険しさが消え失せた。

 瞳から光が消え、代わりに底なしの「虚無」が宿る。


「……あれ?」


 周妃は空を見上げた。

 そこには、抜けるような青空が広がっていた。


「空が……青いわ」


 彼女は夢見るように呟いた。


「私、なんでこんなに怒っていたのかしら。衣装なんて、ただの布切れじゃない。誰が何を着ようと、宇宙の営みに比べれば些末なこと……」

「周妃様?」

 取り巻きの妃たちも同様だった。

「そうね……争いなんて虚しいわ。私たちは皆、同じ空の下で生きる姉妹……」

「お菓子、美味しいですね……」


 彼女たちは憑き物が落ちたように穏やかになり、地面に座り込んで、ぼんやりと雲を眺め始めた。

 毒気も、競争心も、すべて吸い取られてしまったのだ。残ったのは、悟りを開いた高僧のような、あるいは湯上りのおじいちゃんのような、圧倒的な「どうでもよさ」だけだった。


 これを俗に「強制賢者時間きょうせいけんじゃたいむ」と呼ぶ。

 おつまみの食事の副作用であり、被害者は一時的に、あらゆる世俗の欲求から解放されてしまうのだ。


「……平和ね」


 李花は、すっかり静かになった周妃たちの横で、二つ目の桃饅頭に手を伸ばした。

 彼女自身は何もしていない。ただ美味しくお菓子を食べていただけだ。

 しかし、その結果として、後宮を牛耳っていた最大派閥が、一夜にして「お花畑平和主義集団」へと変貌してしまったのである。

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