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ー第5節 極楽の庭で揺れる毛玉。因果の果てに辿り着いた、ただ在るだけで満ち足りる日々

第5節 極楽の庭で揺れる毛玉。因果の果てに辿り着いた、ただ在るだけで満ち足りる日々


 夜が更け、皇帝は長椅子ですやすやと眠り始めた。

 李花は彼に毛布をかけ、庭に出た。

 春の夜風が心地よい。

 

 袖の中から、おつまみが出てきて、李花の肩に乗った。


『どうじゃ、二度目の人生は』

「……うん。悪くないわ」


 李花は夜空を見上げた。

 一度目の人生は、炎のような恋だった。激しく燃え上がり、周囲を焼き尽くし、最後は自分自身も灰になった。

 二度目の人生は、凪いだ水面のようだ。

 何も求めず、ただ流れに身を任せ、日々の糧を味わう。


「『無』になるために始めた修行だったけど……」


 李花は振り返り、明かりの灯る部屋を見た。

 そこには、安心して眠る皇帝がいる。

 明日には、また賑やかな元妃たちがやってきて、料理や手芸に花を咲かせるだろう。


「空っぽになった器には、新しい幸せがたくさん入ってくるのね」


 欲を捨てたら、世界が満ちていた。

 なんという皮肉、なんという真理だろう。


『お主はもう、立派な仙人かもしれんのう』

「やめてよ。私はただの食いしん坊よ」

『クックッ、違いはないさ。執着を離れ、今この瞬間を味わい尽くす。それが真の自由というものじゃ』


 おつまみは満足げに体を震わせた。

 ここは心地よい。

 嫉妬も、憎悪も、ドロドロとした欲望もない。

 あるのは、美味しい匂いと、穏やかな寝息と、温かい灯火だけ。


 かつて「女の戦場」と呼ばれたこの場所は、今や地上の楽園となっていた。


「さあ、寝ましょうか、おつまみ。明日の朝は、フレンチトーストに挑戦してみようと思うの」

『ほう、異国の菓子か。楽しみじゃ』


 李花は伸びをして、部屋へと戻っていった。

 花は散り、また咲く。

 人は去り、また集う。

 

 すべては移ろいゆくけれど、今日のスープの温かさだけは、確かにここにある。

 それで十分だ。


 後宮の解脱者・李花と、その相棒・おつまみ。そして野良猫のような皇帝。

 彼らの平穏で美味しい日々は、これからも続いていく。

 満ち足りた月の光に見守られながら。


(完)

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