ー第3節 後宮の解体と再生。女の戦場から美食と癒やしの楽園へ、李花を中心に変わりゆく世界
第3節 後宮の解体と再生。女の戦場から美食と癒やしの楽園へ、李花を中心に変わりゆく世界
それから数ヶ月後。
帝国に衝撃的な勅令が出された。
「後宮の大幅な縮小と改革」である。
蒼龍は、実家の権力欲のために送り込まれていた妃たちに、多額の持参金を持たせて帰郷を許した。
「皇帝の寵愛を得る見込みがないなら、新しい人生を歩め」という温情である。
多くの妃が涙を流して感謝し、あるいは解放感に浸って宮廷を去った。
残ったのは、帰る場所のない者や、李花の人柄に惹かれて仕えたいと願う者たちだった。
その中には、かつての天敵・周妃の姿もあった。
「あら、李花さん。今日の漬物の塩加減、少し薄くない?」
「周妃様、これは減塩仕様です。健康第一ですから」
かつて派閥争いの頂点にいた周妃は、今では「発酵食品研究会」の会長として、李花と共に味噌作りに励んでいた。
あの「賢者タイム事件」以来、彼女は憑き物が落ちたように穏やかになり、意外にも食通としての才能を開花させていたのだ。
翠微宮を中心に、後宮は様変わりした。
陰湿ないじめや足の引っ張り合いはない。
代わりに聞こえてくるのは、琴の音色、詩を吟じる声、そして厨房から漂う美味しそうな匂い。
空いた宮殿は、書庫や工房、茶室へと改装された。
そこは、皇帝の愛を争う戦場から、女性たちが特技を活かして生活を楽しむ「文化と癒やしの園」へと変貌を遂げたのである。
「李花様、南国からマンゴーが届きました!」
「李花様、新しい茶葉の試飲をお願いします!」
李花は、以前にも増して忙しくなっていた。
だが、それは「心の磨耗」ではなく、「充実した疲労」だった。
「はいはい、順番よ。喧嘩しないの。お菓子は逃げないわ」
庭の長椅子に寝転がりながら、李花は指示を飛ばす。
その膝の上には、丸々と太ったおつまみが乗っている。
『……平和じゃのう』
「そうね。ちょっと騒がしいけど」
かつて李花を陥れ、処刑した世界。
それが今、こんなにも温かく、優しい色をしている。
変わったのは世界だろうか。それとも、李花自身の心のありようだろうか。
『嫉妬や憎悪が減って、儂の食事は減ったが……まあ、皆が作る「幸福感」というのも、たまには悪くない味じゃ』
おつまみは、空中を漂うピンク色の甘い気配をパクっと食べた。
どうやら、彼は雑食に進化したらしい。




