ー第2節 冷徹な審問会での対峙。哲学的ならぬ無気力な返答で、宰相の追及を暖簾に腕押す李花
第2節 冷徹な審問会での対峙。哲学的ならぬ無気力な返答で、宰相の追及を暖簾に腕押す李花
連れて行かれたのは、刑部の審問所だった。
薄暗い部屋。上座には王宰相がふんぞり返り、周囲を厳しい表情の官吏たちが囲んでいる。
そして、部屋の奥にある御簾の後ろには、皇帝・蒼龍の気配があった。彼は沈黙を守ったまま、事の成り行きを見守っている。
李花は広間の中央に跪かせられた。
だが、その表情には恐怖の色が微塵もない。むしろ「ここ、ちょっと寒いわね」と空調を気にしている風情だ。
「李花よ。この人形に見覚えがないとは言わせんぞ」
王宰相が人形を突きつける。
李花はほう、と息をついた。
「見覚えなどありません。そもそも、呪う理由がありませんもの」
「白々しい! 陛下の寵愛を独占しようと、他の妃を蹴落とし、あまつさえ陛下の心を操ろうとしたのだろう!」
「操る? まさか。陛下は私が操るまでもなく、勝手に私の部屋に来て、勝手に寝ていかれるだけです」
御簾の奥から、ブフォッという咳払いが聞こえた。
「それに、人を呪うというのは、とても力のいることです。憎しみを持続させるには、莫大な熱量が必要なのです。私にはそのような無駄遣いをする余裕はありません」
李花は淡々と語った。
それは彼女なりの真実だ。
怒りや憎しみは、美味しいご飯を不味くする。安眠を妨げる。
だから手放した。それだけのことだ。
「罪など、私の中には存在しません。あるのは、ただ流れる川のような出来事の連なりだけ。この人形が私の部屋にあったというのなら、それは誰かが置いたという事実があるだけのこと」
李花の言葉は、意図せずして深遠な哲学のように響いた。
「罪はない」「あるのは因果の流れだけ」。
周囲の官吏たちがざわつく。
「こ、この娘、死を前にしてなんと達観しているのだ……」
「俗世の執着を捨て去った、聖女のような……」
王宰相は焦った。
本来なら、恐怖に泣き叫び、見苦しく命乞いをするはずだった。そうすれば、「やはり卑しい女だ」と断罪できたのに。
これではまるで、高潔な賢者を無実の罪で裁こうとする悪代官ではないか。
「黙れ黙れ! 詭弁を弄するな! 貴様が魔女であることは明白だ! 拷問にかけてでも口を割らせてやる!」
王宰相が顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
その背後から、どす黒く、ネバネバとしたオーラが立ち上り始めた。
権力への渇望。
思い通りにならない苛立ち。
自己正当化のための歪んだ正義感。
李花の袖の中で、おつまみがゴクリと喉を鳴らした。
『……メインディッシュのお出ましじゃ』




