第4章 第1節 宰相の陰謀と庭からの連行。漬物作りの最中に突きつけられた呪詛の罪と、動じぬ李花
第4章 虚空の賢者
第1節 宰相の陰謀と庭からの連行。漬物作りの最中に突きつけられた呪詛の罪と、動じぬ李花
後宮の平和な日常は、唐突に破られるものだ。
その日の朝、李花は翠微宮の庭で、収穫したばかりの白菜を塩漬けにする作業に没頭していた。
大きな甕に白菜を敷き詰め、塩を振り、唐辛子を散らす。この単純作業こそが、心の安寧をもたらすのだ。
「美味しくなぁれ、美味しくなぁれ」
呪文のように呟きながら重石を乗せようとしたその時、ドカドカと乱暴な足音が響き渡った。
現れたのは、武装した近衛兵たちと、その後ろで冷たい笑みを浮かべる一人の男――宰相の王であった。
「李花。貴様を皇帝陛下暗殺未遂の容疑で拘束する!」
王宰相の声が庭に轟く。
前世の記憶が蘇る。彼こそが、かつて李花を「嫉妬に狂った悪女」に仕立て上げ、毒殺刑に追い込んだ黒幕だ。
王宰相は、自らの姪を皇后に据えるため、皇帝の寵愛を受ける者を片端から排除してきた冷酷な策士である。
李花が皇帝と親密(※ただの睡眠仲間)になったことが、彼の逆鱗に触れたのだ。
兵士たちが李花を取り囲み、槍を向ける。
侍女の春蘭が悲鳴を上げて腰を抜かす中、李花はゆっくりと立ち上がり、汚れた手を布で拭った。
「……あの、今ちょうど漬け込みが終わるところだったのですが」
「黙れ! 証拠は挙がっている!」
王宰相が合図すると、兵士の一人が李花の部屋から布に包まれた物体を持ってきた。
中から転がり出たのは、無数の針が突き刺さった、皇帝の名が書かれた藁人形だった。
いかにもな「呪いのアイテム」である。
「貴様の寝台の下から発見された。陛下を呪い殺そうとした動かぬ証拠だ!」
「あらまあ」
李花は人形をしげしげと眺めた。
作りが粗い。生地も安物だ。
「私の趣味ではありませんね。どうせ作るなら、もっと可愛らしい刺繍を施しますし、針ではなくかんざしを使いますわ」
「ふざけるな! 連行せよ!」
荒々しく腕を掴まれる。
普通ならここで「無実です!」と泣き叫ぶところだ。
だが李花は、抵抗する素振りも見せず、ただ残念そうに甕を振り返った。
「春蘭、重石をずらさないようにね。カビが生えたら台無しだから」
「り、李花様……!?」
連行されていく主人の背中は、処刑台に向かう罪人には見えなかった。
まるで、ちょっと散歩に行ってくると言わんばかりの軽やかさだったのだ。
その袖の中で、白い毛玉がチロリと赤い舌を出したのを、誰も見てはいなかった。




