ー第4節 翌朝の衝撃と変化。皇帝が居座るようになった翠微宮と、愛玩動物のような扱い
第4節 翌朝の衝撃と変化。皇帝が居座るようになった翠微宮と、愛玩動物のような扱い
翌朝。
蒼龍が目を覚ますと、そこは見たこともない天井……ではなく、東屋の柱だった。
小鳥のさえずりと、朝日の眩しさ。
彼は飛び起きた。
「私は……寝ていたのか!? 護衛もつけずに!?」
身体を探る。傷はない。毒も盛られていない。
それどころか、頭はかつてないほどすっきりとしており、身体が羽のように軽い。
長年の頭痛も消え失せている。
「おはようございます、陛下。よく眠れましたか?」
庭の向こうから、李花が籠を抱えて歩いてきた。
朝採れの野菜が入っている。
「……お前、私を一晩中ここに放置したのか」
「ええ。あまりに気持ちよさそうに寝ていらしたので、起こすのが忍びなくて。毛布はかけておきましたよ」
「無防備すぎる! もし刺客が来たらどうするつもりだ!」
「うちには刺客なんて来ませんよ。盗むものなんて野菜くらいですし」
李花はけろりと言ってのけた。
蒼龍は呆気にとられたが、同時に強烈な「快感」を覚えていた。
誰にも脅かされず、泥のように眠り、朝日と共に目覚める。
ただそれだけのことが、これほど贅沢で、得難い経験だったとは。
その日から、皇帝の「翠微宮通い」が始まった。
夕方になると、皇帝は書類の束を抱えてやってくる。
そして李花の部屋の長椅子を占領し、政務を片付け、出された粗食(と彼は呼ぶが、実は絶品)を食べ、酒を飲み、そして眠る。
性的な行為は一切ない。
ただ、「寝に来る」のだ。
「陛下、邪魔です。そこ、私が刺繍をする場所なんですけど」
「知らん。ここが一番風通しが良い」
「……あっちに行ってください。おつまみが潰れます」
李花は皇帝を敬うどころか、邪魔な同居人のように扱った。
だが蒼龍は、それを心地よく受け入れていた。
周りの者たちが腫れ物に触るように接する中で、李花だけが彼を「等身大の人間」として扱ってくれる。
ある日、李花は庭で採れた瓜をかじりながら、書類仕事をする蒼龍に言った。
「陛下って、まるで野良猫みたいですね」
「……不敬だぞ」
「だって、勝手に入ってきて、ご飯食べて、寝て、またいなくなるんですもの。懐いてるのか懐いてないのか分からないあたりもそっくり」
蒼龍は筆を止め、李花を見た。
逆光に照らされた彼女の横顔は、穏やかで、満ち足りていた。
彼女は自分を愛していない。
自分も彼女を愛しているわけではない……はずだ。
だが、この空間に流れる空気は、どんな甘い言葉よりも彼を癒やしていた。
「……猫で構わん。餌と寝床があるならな」
「餌代、高いですよ? 今度、最高級の茶葉を持ってきてください」
「……善処する」
蒼龍は微かに笑い、再び書類に目を落とした。
その背中には、以前のような殺伐とした気配はもうなかった。




