表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/25

ー第4節 翌朝の衝撃と変化。皇帝が居座るようになった翠微宮と、愛玩動物のような扱い

第4節 翌朝の衝撃と変化。皇帝が居座るようになった翠微宮と、愛玩動物のような扱い


 翌朝。

 蒼龍が目を覚ますと、そこは見たこともない天井……ではなく、東屋の柱だった。

 小鳥のさえずりと、朝日の眩しさ。

 彼は飛び起きた。


「私は……寝ていたのか!? 護衛もつけずに!?」


 身体を探る。傷はない。毒も盛られていない。

 それどころか、頭はかつてないほどすっきりとしており、身体が羽のように軽い。

 長年の頭痛も消え失せている。


「おはようございます、陛下。よく眠れましたか?」


 庭の向こうから、李花が籠を抱えて歩いてきた。

 朝採れの野菜が入っている。


「……お前、私を一晩中ここに放置したのか」

「ええ。あまりに気持ちよさそうに寝ていらしたので、起こすのが忍びなくて。毛布はかけておきましたよ」

「無防備すぎる! もし刺客が来たらどうするつもりだ!」

「うちには刺客なんて来ませんよ。盗むものなんて野菜くらいですし」


 李花はけろりと言ってのけた。

 蒼龍は呆気にとられたが、同時に強烈な「快感」を覚えていた。

 誰にも脅かされず、泥のように眠り、朝日と共に目覚める。

 ただそれだけのことが、これほど贅沢で、得難い経験だったとは。


 その日から、皇帝の「翠微宮通い」が始まった。

 夕方になると、皇帝は書類の束を抱えてやってくる。

 そして李花の部屋の長椅子を占領し、政務を片付け、出された粗食(と彼は呼ぶが、実は絶品)を食べ、酒を飲み、そして眠る。

 性的な行為は一切ない。

 ただ、「寝に来る」のだ。


「陛下、邪魔です。そこ、私が刺繍をする場所なんですけど」

「知らん。ここが一番風通しが良い」

「……あっちに行ってください。おつまみが潰れます」


 李花は皇帝を敬うどころか、邪魔な同居人のように扱った。

 だが蒼龍は、それを心地よく受け入れていた。

 周りの者たちが腫れ物に触るように接する中で、李花だけが彼を「等身大の人間」として扱ってくれる。


 ある日、李花は庭で採れた瓜をかじりながら、書類仕事をする蒼龍に言った。


「陛下って、まるで野良猫みたいですね」

「……不敬だぞ」

「だって、勝手に入ってきて、ご飯食べて、寝て、またいなくなるんですもの。懐いてるのか懐いてないのか分からないあたりもそっくり」


 蒼龍は筆を止め、李花を見た。

 逆光に照らされた彼女の横顔は、穏やかで、満ち足りていた。

 彼女は自分を愛していない。

 自分も彼女を愛しているわけではない……はずだ。

 だが、この空間に流れる空気は、どんな甘い言葉よりも彼を癒やしていた。


「……猫で構わん。餌と寝床があるならな」

「餌代、高いですよ? 今度、最高級の茶葉を持ってきてください」

「……善処する」


 蒼龍は微かに笑い、再び書類に目を落とした。

 その背中には、以前のような殺伐とした気配はもうなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ