ー第5節 騒動の終結と、静寂を愛する李花の日常回帰。すべてを見透かす皇帝の視線と新たな波紋
第5節 騒動の終結と、静寂を愛する李花の日常回帰。すべてを見透かす皇帝の視線と新たな波紋
百花園の宴は、奇妙なほど穏やかに幕を閉じた。
周妃とその一派は、宴の間中、ニコニコと微笑みながら「風が気持ちいい」「鳥の声が美しい」と語り合い、最後には李花の手を取って「あなたも良い一日を」と言い残して去っていった。
周囲の妃たちは狐につままれたような顔をしていたが、李花にとっては好都合だった。
その夜、翠微宮にて。
李花は収穫したばかりの蕪を使ったスープを前に、至福の時を過ごしていた。
「んー、甘い! やっぱり採れたては違うわね」
『ふぅ……儂も満腹じゃ。あやつの嫉妬は脂が乗っておったわ』
おつまみは卓の上で丸くなり、満足そうに転がっている。
彼の毛艶がいつもより良くなっている気がする。
「あなたが食べてくれたおかげで、面倒ごとにならなくて済んだわ。ありがとう」
『礼には及ばん。これも共存共栄じゃ。しかし、あやつら、明日には正気に戻るじゃろうが、今日の虚無感はトラウマになるかもしれんのう』
「そう? 一度くらい肩の力を抜くのも、体に良くてよ」
李花は楽天的に笑った。
だが、この一件が皇帝の耳に入らないはずがなかった。
正殿の執務室。
皇帝・蒼龍は、影の者からの報告を聞き、低い声で笑った。
「……周妃が、空の青さを讃えて帰っただと?」
「はっ。まるで別人のように穏やかになり、李花様への敵意も消え失せた様子でした」
蒼龍は窓の外、北の方角を見やった。
あの「欲のない目」をした妃。
彼女がいる場所だけ、理がねじ曲がっているようだ。
彼女は何もしていないように見える。だが、彼女に関わった者は、毒気を抜かれ、牙を折られていく。
「李花……。お前は一体、何者だ?」
冷徹な皇帝の胸に、かつてないほどの好奇心が渦巻いていた。
それは、恋情と呼ぶにはまだ冷たく、警戒と呼ぶにはあまりに熱い感情だった。
「私の庭が、面白くなってきたな」
蒼龍は指先で机を叩いた。
李花がいくら平穏を望もうとも、彼女の存在そのものが、この後宮という淀んだ池に波紋を広げ続けている。
そしてその波紋は、やがて国全体を揺るがす大きなうねりとなることを、まだ誰も――李花自身さえも、知る由はなかった。
李花はただ、明日の朝食の献立を考えながら、ふかふかの布団に潜り込むだけである。
「明日は晴れるといいわね、おつまみ」
『うむ、洗濯日和じゃな』
嵐の前の静けさの中で、一人と一匹の寝息だけが、安らかに響いていた。




