第1章 第1節 毒盃の苦味と、白き毛玉との契約。愛憎の果てに得た二度目の生と決意
第1章 回帰と月餅
第1節 毒盃の苦味と、白き毛玉との契約。愛憎の果てに得た二度目の生と決意
喉が焼けるようだった。
実際に焼けているのだろう。賜ったのは、皇帝陛下直々の毒酒なのだから。
視界が歪み、極彩色の天蓋が泥のような色に染まっていく。
私は、李花は、皇帝陛下を愛しすぎていた。
ただ、あの方の瞳に自分だけを映したかった。だから、他の妃を憎み、陥れ、喚き散らした。その結果がこれだ。「嫉妬に狂った悪婦」としての処刑。
冷徹な皇帝陛下は、最期まで私を見なかった。
「……ああ、馬鹿みたい」
薄れゆく意識の中で、李花は思った。
愛だの恋だの、そんな不確かな熱病に浮かされて、一生を棒に振るなんて。
次があるなら、もう誰も愛さない。期待もしない。ただ、静かな湖面のように生きたい。
『ほう、面白いのう』
不意に、頭の中に声が響いた。
死の淵だというのに、妙に間延びした、老人のような、それでいて子どものような声。
『お主のそのドロドロとした怨嗟、実に美味そうじゃが……おや? 今はまるで燃え尽きた灰のようじゃな』
視界の端に、白いものが映った。
掌サイズの、ふわふわとした毛玉。目も鼻もない、ただの白い毛の塊が、空中を漂っている。
「……何、これ。死神?」
『失敬な。儂は通りすがりの仙……いや、ただの美食家じゃよ。お主の魂、煮えたぎる愛憎で味付けされていたのに、死の間際で急に淡白になりおった』
毛玉は李花の頬にすり寄った。温かい。
『やり直したいか?』
「……やり直す?」
『うむ。今の「無」の境地、なかなか良い出汁が出そうじゃ。儂はお主の負の感情を糧とする。お主は儂に餌をやり、儂はお主の寿命を少しばかりいじる。契約じゃ』
もう一度、人生を?
あの苦しい恋を、また繰り返すのか。
いや、違う。
「……愛さないわ」
『ん?』
「もう、誰も愛さない。心穏やかに、ただ美味しいものを食べて、ぐっすり眠るの。そんな人生なら、悪くない」
李花の心は、奇妙なほど凪いでいた。
情熱は燃え尽きた。残ったのは、静寂への渇望だけ。
『よいよい、それでこそ極上の味変じゃ! では、契約成立といこうか』
毛玉がポンと弾けるように光り、李花の意識は白光に飲み込まれた。
最後に感じたのは、焼き尽くすような喉の痛みではなく、どこか懐かしいお茶の香りだった。




