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不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?  作者: 木山楽斗
本編

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第26話 婚約者の家族

 私は、マグナード様とともにビルドリム公爵家までやって来た。

 ビルドリム公爵夫妻は、私のことを快く受け入れてくれた。息子のことをよろしくとまで言ってくれたし、私との婚約に関して、本当に反対はしてないようだ。

 しかしそんな両親と違って、ビルドリム公爵家の長男であるベルダー様は、鋭い視線を私に向けてきた。その視線の恐ろしさに、私は少し気圧されてしまう。


「兄上、納得していないからといって、明らかな敵意を向けるのはやめていただきたい。そんな鋭い視線を女性に向けるなんて、紳士としてどうかと思います」

「……鋭い視線を向けているつもりはない。この目つきは生まれつきだ。そんなことはお前もわかっているだろう」

「……そういえば、そうでしたか」


 視線に怯えていた私だったが、ベルダー様とマグナード様の和やかな会話に少し肩の力が抜けた。

 どうやらベルダー様は、私に特別鋭い視線を向けてきていた訳ではないらしい。それはとても、安心できることだった。

 既に敵意を向ける程であるというなら、婚約を認めてもらえる可能性が低かっただろう。そうでないということなら、まだ可能性が高そうだ。


「イルリア嬢、すみませんね。兄上は元々目つきが鋭い人で……僕もそろそろ慣れたい所なんですが、やっぱり怖いですよね?」

「マグナード、恋人の肩を持つなとは言わないが、その発言は少々不躾が過ぎるぞ」

「すみません。でも、兄上の視線は怖いんです」

「後ろを向いて話してやろうか」

「それは、相手に失礼ですよ」

「どうしろというのだ」


 ベルダー様とマグナード様は、とても楽しそうにやり取りをしていた。

 二人は仲が良いのだろう。それはその会話から伝わってきた。

 反対されているということもあって、兄弟の仲はそれ程良くないものだとばかり思っていた。だが、実際はそういう訳でもなかったようだ。


「さてと、マグナード。少しの間、イルリア嬢と二人で話させてもらうぞ」

「……兄上、それはどういうことですか?」

「心配するな。危害を加えるつもりはない。怖がらせないようにも心掛けるつもりだ。あくまでも腹を割って話したいというだけだ」


 しかしベルダー様の提案に、マグナード様の表情が強張った。

 恐らく、私のことを心配してくれているのだろう。二人きりで、ベルダー様が恐喝する。その可能性は低そうだが、心配してもらえるのはありがたい。


「イルリア嬢を、あまり男性と二人きりにさせたくありません」

「……お前は何を言っているんだ。俺が弟の恋人に手を出すとでも?」

「可能性はゼロではないでしょうが」


 どうやらマグナード様の心配は、別の方面のものであったようだ。

 それはそれで、嬉しく思う。それにしても、ベルダー様に対する信頼がないような気もしてしまうのだが。


「……使用人を同席させよう。メイド長なら信頼できるか。彼女には俺も父上も母上も頭が上がらないことは知っているだろう。先代からの重鎮だ」

「……仕方ありませんか。それで手を打ちましょう」

「こんなことで彼女の手を煩わせたくはないのだがな……」


 ベルダー様の提案で、話はまとまった。

 なんというか、不思議な感覚だ。やはりマグナード様も、兄弟の前では別の顔を見せるということなのだろうか。彼のいつもとは違う一面を垣間見て、私は笑顔を浮かべるのだった。




◇◇◇




「最初に言っておくが、俺は別に君達の婚約に反対している訳ではない」

「……え?」

「君に対して、敵意や反感などはない。マグナードが選んだ女性なら信頼できる」


 ベルダー様と二人きりで話すことになった私は、彼の言葉に驚いていた。

 私達の婚約に反対していない。それは今まで聞いていたことから考えると、信じられないことである。

 私はそもそも、ベルダー様に認めてもらうためにここに来たはずなのだが、その必要がなかったということだろうか。


「それでは一体どうして、ベルダー様は反対しているふりをしているのですか? いえ、ふりをしているということで、いいのですよね?」

「マグナードのことは信頼しているが、奴にはまだまだ未熟な所もある。いい機会だったからな。その辺りに関して、色々と刺激しておきたかったのだ」


 ベルダー様は、ただでさえ怖い顔を険しくしていた。

 しかしそれは、別にマグナード様に敵意があるとか、そういう訳ではないのだろう。二人の仲は良好だったのだから、それは間違いない。

 つまりこれは、愛故に試練を与えようとしているといった所だろうか。ベルダー様は、中々にスパルタなのかもしれない。


「それに体裁の面もある。今回のことが容易なことであると思われたくはないからな。君達はあくまでも、魔法学園で絆を深め合った結果、奇跡的に結ばれたということにしておきたい。これからビルドリム公爵家に、面倒な縁談を持ち込まれても困るからな」

「なるほど……」


 ベルダー様は、今後のことについてよく考えているようだ。

 そういった所は、流石次期公爵といった所だろうか。


「しかし、君には余計な心配をさせてしまったな。申し訳ないと思っている」

「いえ、お気になさらないでください。そもそも私にとっては、身に余る幸福である訳ですし……」

「……ふむ」


 そこでベルダー様は、少しだけその表情を緩めた。

 彼は、私の顔をじっくりと見ている。そんな風に見られると、少し恥ずかしい。


「これは、純粋な興味でしかないのだが、君はマグナードのどこに惹かれたのだ?」

「え?」

「兄である俺は、奴の良い所も悪い所も知っている……つもりだ。だからこそ気になっている。答えたくないならそれでも構わない」


 ベルダー様は、本当に軽い感じで質問をしてきていた。

 この会話は既に、雑談しかないということだろう。答えなくても、今後の関係に差支えはなさそうだ。

 ただ、私は答えたいと思った。それに答えることは、私の気持ちを改めて整理することにも、繋がると思ったのだ。


「……」

「……やはり答えにくいことだったか?」

「あ、いえ……」


 私は、マグナード様のどこに惹かれたかを考えていた。

 そのための沈黙が長かったからか、ベルダー様が声をかけてきた。

 それに対して、私は少し焦る。この場で考え込むのは、良くなかった。目の前に人がいるのだから、きちんと対話をしなければならない。


「その、正直に言ってしまうと、難しい質問です」

「そうか。それはすまなかったな」

「ああいえ、不快な質問だったという訳ではないです。ただなんというか、一言で言い表せることではないと言いますか……」

「そういうものか……」


 ベルダー様は、私の言葉にゆっくりとため息をついた。

 そういえば、彼も婚約は結んでいる。相手は確か、王国の第一王女だ。

 親戚同士の婚約であるため、私達のような恋愛的な感情などというものは、恐らくないのだろう。私の気持ちに対して、ある種感心しているようだ。


「ありきたりにはなってしまいますが、優しい所に惹かれたというのもあります。マグナード様には、色々な面で助けてもらいましたから。その辺りについて、ベルダー様はご存知ですか?」

「ああ、奴の周りで起きた問題に関しては、俺の耳にも入っている。そのことで色々と動いたりもした」

「そうだったのですね……それは、ありがとうございます」


 エムリーとの件から、私はマグナード様に何度も助けてもらった。

 彼には、感謝しても仕切れない程の恩がある。私はその恩について、まだ返し切れていない。それはこれから彼を支えることによって、返していくとしよう。


「礼を言われるようなことはしていない。マグナードの敵は、我々の敵だ。ロダルト子爵令息は堂々と敵対を宣言した。ナルネア嬢の行いは、マグナードに何の利益ももたらさない。ヴォルダン伯爵令息やムドラス伯爵令息は犯罪者だ。上に立つ者として、それらを見逃す理由はない。直近でおきたロダルト伯爵令息の事件も同じだ」


 ベルダー様は、マグナード様の周りで起きたことをよく覚えていた。

 そこからは、彼の弟に対する愛情が伝わってくる。

 それに対して、私は少しだけ共感を覚えていた。以前までの私ならそんなことは思わなかっただろうが、今の私なら下の子に対する愛情がある程度理解できる。


「マグナード様は、良きお兄様をお持ちですね……」

「む……」

「お二人のような兄弟関係は、素晴らしいものだと思います」


 思えば、私もミレリア嬢も下の子と良好な関係ではなかった。

 二人のような兄弟関係こそ、望ましいものだ。私はそんなことを思うのだった。


「えっと、それでマグナード様のどこに惹かれていたか、でしたよね……」

「む……」


 私は、それていた話を元に戻した。

 ベルダー様が知りたがっているのは、私がマグナード様を好きになった理由だ。本当に雑談でしかないのだろうが、私はそれに答えるつもりである。


「こう言ってしまうのは良くないのかもしれませんが、外見に惚れたという面もあるのかもしれませんね……」

「良くないことという訳ではないさ。外見も重要な要素であるだろう」


 マグナード様は、容姿も端麗だ。個人の趣向はあるかもしれないが、少なくとも私はそう思っているし、クラスでもそう言われている。

 そこが関係なかったといえば、嘘になるだろう。もっとも、それはきっかけに過ぎない。今となっては、そこは重要な点ではないだろう。


「お兄様の前で言うのは気が引けますが、私はマグナード様の不器用な所も愛おしく思っています」

「ほう……」

「そういう所も含めて、包み込んであげたいというか……少し上から目線になってしまいましたね。すみません」

「いや、気にする必要はない。奴がそう思える奴であるということは、俺にも理解できる」


 マグナード様は、完璧な人間ではない。今の私は、それについてもよく知っている。

 それも含めて、彼なのだ。私は改めてそう思っていた。

 長所も短所も、全てが今は愛おしい。私は思っていた以上に、マグナード様に惹かれていたようだ。


「なんだか、少し恥ずかしくなってきました……」

「む、そうか……いや、そうだろうな。すまなかったな、変なことを聞いて」

「いいえ、お陰で自分の気持ちと改めて向き合うこともできましたから……今まではずっと、押さえつけてきた思いでしたから」


 私はずっと、マグナード様と自分が結ばれることなどないと思っていた。

 故に、思いに蓋をしてきた節がある。だが、ベルダー様のお陰で、その思いの蓋をきちんと開けられたような気がする。

 ただ、この思いを自覚した状態でマグナード様に会ったらどうなるかが心配だ。変な感じに、ならなければいいのだが。


「さてと、それではそろそろ戻るとするか。悪いが、少し気を引き締めてもらえるか。ここからはマグナードに、ある程度プレッシャーをかけなければならない」

「あ、そういえばそうでしたね……」


 ベルダー様の言葉を聞いて、私は思い出した。

 よく考えてみれば、マグナード様はこれから試練を与えられるのだ。惚気ている場合ではない。しっかりと気を引き締めておかなければならないのだ。

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