第24話 通じ合う思い
騎士団の本拠地は王都にあるため、ロダルト様に会いに来た私達は、王都に訪れている。
王都と言えば、ブライト殿下の実家がある。まあ実家というか、王城なのだが。
その王城に、私達はブライト殿下のご厚意で泊まらせてもらえることになった。宿としては、これ以上ない程に豪華な場所だ。
「まあ、困ったことがあったら、そこら変にいる使用人の誰かに言ってくれ。俺の友人ということで、大抵のことは聞いてくれる」
「そ、そうですか……」
ブライト殿下の言葉に、私はかなり縮こまっていた。
王城なんて早々来られる場所ではない。増してやそこに泊まることになるなんて、少し前までは思ってもいなかったことだ。
「さてと、俺は父上や兄上と色々と話さなければならないことがある。まあ、一時間くらいしたら戻るから、それまで二人でゆっくりとしていてくれ」
「あ、はい」
ブライト殿下は、この後予定があるらしい。
王子である彼も、中々忙しい身であるのだろう。そのままブライト殿下は、足早にかけていってしまった。
ちなみに私とマグナード様は、現在は泊まるのとは別の客室にいる。ブライト殿下がいなくなったことで、二人きりになった。まあ、ここに来るまでの道中も二人きりの時はあったので、今更といえば今更なのだが。
「ふう……とりあえず、一段落ついたと考えても良さそうですね」
「ええ、そうですね」
マグナード様は、ゆっくりとため息をついた。
彼の言う通り、ロダルト様が起こした一連の事件は片付いたということでいいだろう。
なんというか、最近は本当に事件続きである。貴族であるのだから、敵を作ることも多くて当然なのだが、少し疲れてしまう。
とはいえ、私の場合はまだ恵まれている方だ。
マグナード様やブライト殿下といった権力者が、味方についてくれているのだから、文句なんていえる立場ではない。
「イルリア嬢は、大丈夫ですか? 色々とあった訳ですが……」
「ええ、私は大丈夫です」
「そうですか。それなら良かった」
マグナード様は、私の言葉に笑顔を浮かべてくれていた。
その笑顔に、私の心臓は少しだけ鼓動を早くした。なんというか、とても眩しい笑顔だ。
それを認識して、私は思い出す。
よく考えてみれば、事件ばかりであったため、このように憂いなく二人きりになるのは、久し振りなのかもしれない。
そう考えると、なんだか少し緊張してきた。
先程まではそうではなかったというのに、私はマグナード様のことを強く意識し始めていた。
「……」
「……」
私とマグナード様は、二人きりの客室で黙っていた。
どうしてなのだろうか。いつもなら何かしら話すことがあるはずなのに。
もしかして、私達は事件のことくらいしか話していなかったのだろうか。
そう思ってしまうくらいに、私達は静かになっていた。
ちなみに、私が黙っている理由は、マグナード様のことを強く意識しているからだ。
もしかして、彼も同じなのだろうか。もしもそうだとしたら、少し嬉しい。いや、かなり嬉しいかもしれない。
「……本当は、別荘に招いた時に言いたいことがあったんです」
「え?」
そこでマグナード様は、どこか自虐的な笑みを浮かべながら、話をし始めた。彼の顔は、少し強張っているような気がする。
「いや、本当はもっと前から言いたかったような気もしますね」
「マグナード様……」
「僕は臆病でしたから、結局言い出せずにいました。ですが、もう覚悟を決めることにします」
マグナード様は、真剣な顔をしていた。
その表情に、私は言葉を飲み込んだ。今は彼の言葉を待つべきだと、そう思ったのである。
「イルリア嬢、僕はあなたのことが好きです。あなたのことを愛している」
そしてマグナード様は、私が思っていた通りの言葉を口にしてくれた。
その言葉に、私は固まっていた。なぜならそれは、仮にそうだったとしても、聞けない言葉であると思っていたからだ。
「マグナード様……私も、気持ちは同じです。私も、マグナード様のことが好きです」
「イルリア嬢……そう思っていただけているなら、とても嬉しいです」
「しかし、マグナード様は公爵家のご令息です。子爵家の令嬢である私とは、釣り合いが取れません。同じ貴族であっても、差があります」
私とマグナード様は、貴族であっても地位が異なる。その差というものは、大きなものだと思うのだ。
もちろん、結ばれる手段が結婚だけという訳ではないのだが、それは不誠実極まりないものである。
そういった関係を、マグナード様は好まない。だからこそ、仮に好かれているとしても、告白なんてあり得ないと思っていたのだが。
「……父上には話を通してあります。あなたと結ばれることに、特に反対はしていません」
「え?」
「僕は公爵家を継ぐ立場ではありませんからね。兄上と比べれば、自由にしていいと思っているのでしょう。縁談なども考えていたようですが、良い人を見つけたらそれでいいと言われています。最低限、貴族であることは求められましたが」
マグナード様の言葉に、私は目を丸くすることになった。
つまり私は、余計な心配をしていた、ということだろうか。彼と結ばれることにおいて、地位の差というものは、問題なかったようだ。
「そうなのですか? それなら……」
「ええ、ですが、何も問題ないという訳でもないのです」
「え?」
「父上は納得してくれました。しかし、兄上が納得していません。ビルドリム公爵家の次期当主として、兄上はあなたのことを見極めたいと言っています。ですからイルリア嬢には、兄上に会っていただきたいのです」
少し申し訳なさそうにしながら、マグナード様はそう切り出してきた。
現在の家長は納得しているが、次期当主が納得していない。その状況は、中々に微妙なものであるといえる。
しかしながら、そういうことなら特に迷う必要があるという訳でもない。私の道は、定まった。
「わかりました。それなら私が、ビルドリム公爵家に行きます。私は、マグナード様と結ばれたいですから」
「ありがとうございます、イルリア嬢。その言葉が、僕には何よりも嬉しいものです」
私は、マグナード様の言葉に力強く頷いた。
こうして、私達のこれからの方針が決まったのである。
◇◇◇
「ほう……まさか、俺がいない間にそんな面白いことになっているとは思っていなかったな」
用事を終えたブライト殿下は、にやにやしながらそのようなことを言ってきた。
なんというか、少し恥ずかしい。ただ、伝えないという選択肢はなかった。ブライト殿下は、私達の共通の友人であるからだ。
「まあ、無事に思いが通じて良かったといった所か……」
「まだ無事という訳ではありません。兄上に認められなければなりませんからね」
「ああ、そうだったか。しかし、その辺りはなんとかなるだろう。叔父上が認めているというなら、大抵のことはなんとかなるはずだ」
私とマグナード様は、微妙な状況だった。
お互いに気持ちは通じ合っているが、まだどうなるかはわからない。もちろん認めてもらうつもりではあるが、楽観的に考えることはできなかった。
しかし、ブライト殿下の言葉はとてもありがたい。彼がそう言ってくれるだけで、少しだけ肩の荷が軽くなったような気がする。
「……大体、お前もイルリア嬢のことを手放すつもりはないだろう。そんな風に寄り添っている時点で、俺はそのように思えるぞ?」
「え? いや、それは……」
そこでブライト殿下は、私達の距離感について指摘してきた。
現在私達は、並んでブライト殿下と対面している。その距離は、かなり近い。肩が触れ合うくらいの距離感である。
よく考えてみれば、それは思いが通じ合っているからこその距離感だ。自然とそうしていたため、私達自身は気付いていなかった。
「ああいや、別に距離を取れと言っている訳じゃない」
「いえ、ブライト殿下のご指摘はもっともです。いけませんね。まだ婚約が決まったという訳でもないのに……」
「別に俺はそれを批判するつもりはないが……というか、イルリア嬢の家の方は問題ないのか? 当然、そっちにも話は通していないのだろう?」
「え? ああ……言われてみれば、そうですね」
ブライト殿下は、とても冷静な指摘をしていた。
それを聞いて、私達はお互いが舞い上がっていたという事実を認識する。なんというか、浮かれ過ぎて色々なことを見逃しているのかもしれない。
「おいおい、大丈夫なのかよ? なんだか心配になってきたぞ?」
「えっと、すみません」
「……まあ、謝るようなことではないさ。そういう経験は俺にはないからな。お前のようになるのが普通なのかもしれない」
ブライト殿下は、嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
それは私達の思いがとりあえず通じ合ったことを、喜んでくれているということだろう。
それは私達にとっても、ありがたいことだった。しかし、浮かれ過ぎてはいけない。これからもきちんと、気を引き締めていくべきだろう。




