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不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?  作者: 木山楽斗
本編

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第11話 新たな問題

 ナルネア嬢がマグナード様に詰められた次の日、彼女は教室に来なかった。

 体調不良で登校することができないらしい。その状態は、しばらく続きそうだ。もしかしたら、マグナード様と同じクラスの間は、登校できないかもしれない。


 ロダルト様に続き、クラスメイトがまた一人減ることになった。

 その事実に、クラスは少なからず動揺している。


 その二人に、私が関わっていることは明らかだった。

 ロダルト様は言うまでもなく婚約者だった訳だし、ナルネア嬢が私に詰め寄っていたのは周知の事実だ。


 なんというか、私の立場がまた一つ悪くなったような気がする。

 ただこれに関しては、仕方ないことだろう。あの二人については、なんとかしなければならない問題だったのだから。


「願わくは、これ以上火の粉が降りませんように……」


 ナルネア嬢の取り巻き達が私を害することは、まずないだろう。

 彼女達に、そんな覇気がある訳がない。ナルネア嬢をそこまで狂信的に慕っていた人はいないだろうし、マグナード様のことも怖いだろう。


 エムリーについても、多分大丈夫だ。

 ことが終わってからも、彼女の情報は仕入れているが、特に動きはない。

 彼女は基本的には、合理的である。恐らく今は、ルヴィード子爵家の一員として利益を得ることしか考えていないのだろう。


「イルリア嬢、大丈夫ですか?」

「あ、はい。私は、大丈夫です」

「そうですか」


 そんな風に考えていると、マグナード様が声をかけてくれた。

 正直な所、私は自体をそんなに重たく考えているという訳でもない。はっきりと言って、人からこういった目を向けられる環境には、なれているからだ。


 エムリーのせいで、私は白い目で見られていた。今の状況は、それとほとんど変わらない。

 というか、マグナード様という心強い味方がいることもあって、気は楽だ。


 まあ少し経てば、この状況も改善されていくだろう。

 結局の所、貴族社会は生き残った者が認められる。今の状況は、勝者である私が一目置かれていると、捉えてもいいかもしれない。


「……イルリア嬢、少しよろしいでしょうか?」

「え?」


 そこで私は、少し驚くことになった。

 見慣れない令嬢に、話しかけられたからだ。

 彼女は一体、誰なのだろうか。このクラスの人ではないと思うのだが。


「な、なんですか?」

「あなたと少し話したいのです」


 その人物が発した言葉に、私は少し気が重くなった。

 また私に問題が降りかかってくるかもしれない。マグナード様と仲良くしていることへの嫉妬だったりするのだろうか。何にせよ、気が進まない。


「マグナード様も、よろしいでしょうか?」

「え? 僕もですか?」

「ええ、私はお二人と話したいのです」


 令嬢の言葉に、私とマグナード様は顔を見合わせることになった。

 私と彼と話したい。その提案は予想外である。一体彼女は何者で、何を考えているのだろうか。




◇◇◇




「まず自己紹介からしましょうか。私は、ミレリア。アークウィル伯爵家の長女です」

「えっと、私はルヴィード子爵家の長女イルリアです」

「僕は、ビルドリム公爵家のマグナードです」


 ミレリア嬢は、私とマグナード様を校舎裏まで連れて来ていた。

 こんな所に連れて来るということは、これから行われるのは人に聞かれたくないような話であるということなのだろう。

 ただ、彼女自身からは不穏な気配は感じない。私の勘違いでなければ、ミレリア嬢が私達に危害を加えるということはなさそうだ。


 そもそもの話、彼女はナルネア嬢と違って一人でこの場に立っている。しかも、私とマグナード様の二人を相手に、だ。

 この状況で、彼女から危害を加えるなんて至難の業だ。まず無理であるだろう。


「それで、ミレリア嬢は一体どうして僕達をこんな所まで?」

「言っていた通り、あなた方と話したいことがあったからです。具体的にはそうですね……ナルネア嬢の関係というと、お二人にはわかりやすいでしょうか」

「ナルネア嬢?」


 ミレリア嬢の口から出た言葉に、私とマグナード様は驚いた。

 彼女は、あのナルネア嬢の関係者なのだろうか。しかし、取り巻きの中にはいなかったはずである。

 それなら、友達とかだろうか。でも、報復に来たという雰囲気でもないし、よくわからない。


「ミレリア嬢は、ナルネア嬢とどういう関係なのでしょうか?」

「それは少々難しい質問ですね……ややこしい話ではありますが、私自身が関係しているという訳ではないのです」

「おや、それは一体どういうことですか?」

「ナルネア嬢と関係があるのは、私の婚約者と弟です。ヴォルダン・ガンドル伯爵令息とムドラス・アークウィル伯爵令息、その二人です」


 そこでミレリア嬢は、ゆっくりとため息をついた。

 それは恐らく、婚約者と弟に向けたものだろう。とても呆れていることが、伝わってくる。


「彼らは、ナルネア嬢の信奉者です」

「信奉者?」

「彼女の従順なる僕といった所でしょうか。あの二人は、彼女の言うことにはなんでも従っていました。気持ちが悪くなる程に」


 ミレリア嬢の発言には、嫌悪感が籠っていた。

 あのナルネア嬢に従っていたというのは、確かに良いことではない。そう思えるミレリア嬢は、まともな感性をしているということだろう。


「そして何より、あの二人は危険なのです。私は、それをお二人に知らせに来ました」

「ミレリア嬢? 何を……」


 そこでミレリア嬢は、唐突に服をはだけさせた。

 校舎裏であるため、人気は少ないが、この場にはマグナード様がいる。大胆な行動だ。

 しかし私は、その行動の意味をすぐに理解した。彼女の肌には、痣があるのだ。暴力が振るわれたであろう痣が。


「マグナード様は紳士な方ですね……」

「……」

「ですが、目を開けてください。あなたにも、見てもらわなければならないものですから」

「……わかりました」


 ミレリア嬢が服をはだけさせた瞬間、マグナード様は目を瞑って顔をそらしていた。

 それは、女性の肌を見ないようにするための配慮であるだろう。

 ただ、本人に促されたことで、彼はミレリア嬢の体を目にした。そしてその表情は歪む。


「これは……」

「ええ、これは私の婚約者であるヴォルダンによってできた痣です」

「ひどい話ですね。こんなのは許せません」

「イルリア嬢、あなたの気持ちはありがたく思います。しかしながら、重要なのはそこではないのです。この痣はあくまで、彼の恐ろしさを知ってもらうために見せたもの……」


 マグナード様が確認したのを見た後、ミレリア嬢は服装を正した。

 自らの体に刻まれたものによって恐ろしさを伝えるというのは、かなり勇気がいることだっただろう。それでも見せてくれたということに、私は敬意を覚えていた。

 彼女に対する警戒は、もう解いていいだろう。私はそう判断した。あの痣を見せられた今、彼女に対して疑念を抱くことなんて、できる訳がない。


「弟のムドラスも、ヴォルダンに影響されています。つまり彼らは、危険なコンビとなっているのです。そんな彼らは、お二人を狙ってくるかもしれません」

「それは、私達がナルネア嬢を追い詰めたから、ということですか?」

「ええ、少なくともナルネア嬢が体調を崩したのが、イルリア嬢が関係していることは掴んでいるでしょう。何をしてくるか、わかりません」


 ミレリア嬢は、私達に危機が訪れていることを知らせてくれた。

 今回の呼び出しの目的とは、そういうことなのだろう。となると彼女は、とてもいい人ということになる。

 そんな彼女が不幸な境遇にあることは悲しい。なんというか、心が痛くなってくる。


「ご忠告ありがとうございます。私、気をつけます。その二人に危害を加えられないように」

「……あなたの意図が、それだけであるとは思えませんが」

「え?」


 そんな風に思っていた私に対して、マグナード様は鋭い目をしていた。

 それは、ロダルト様やナルネア嬢に向けていたものよりは柔らかいものだ。ただ、彼が目の前にいるミレリア嬢を完全に信頼していないということは、なんとなく理解できた。


「ミレリア嬢、全てをお話してください。その方があなたにとっても、いいでしょうから」

「……流石ですね、マグナード様」


 ミレリア嬢は、苦笑いを浮かべていた。

 つまり、彼女には何か隠していることがあるということなのだろう。

 ただ私は、ミレリア嬢が悪い人であるとは思えなかった。事情が隠れているとしても、それはきっと仕方ないことなのではないだろうか。


「マグナード様は、一体私のどこに違和感を抱かれたのですか?」

「その痣、ですよ。見た所、新しい痣であるようですが、一体いつどのようにしてついたのか、疑問に思いましてね」

「え?」


 マグナード様の言葉に、ミレリア嬢は少し驚いたような顔をしていた。

 それからすぐに、彼女は笑みを浮かべる。それは諦めたような笑みだ。


「この魔法学園では、男女で寮がわかれていますからね。その位置にそのような痣がつくということは、少々おかしいと思いまして。服の上からなら、そこまでひどいことにはならないでしょう。それで少しだけ、かまをかけてみたのです」

「ご名答、実の所この痣は自分でつけたものです」

「なるほど、ご自分で、ですか……」


 ミレリア嬢の言葉に、マグナード様は悲しそうな笑みを浮かべていた。

 それは当然のことだろう。彼女の体に刻まれた痣は、生半可な覚悟でつけられるものではない。そうしたということには、意味があるはずだ。


「演出だとしても、もう少しご自愛した方が良いと思いますが……」

「そうですね。今思えば、必要がないものだったと思っています。そんなことをしなくても、お二人は私に協力してくれたと、思いますから」

「私達を煽るために、そんなことを……」

「ええ……イルリア嬢、覚悟してのことですから、そんなに悲しい目をしないでください」


 ミレリア嬢は、目を潤ませながら首を横に振っていた。

 私は先程から色々と間違っているので、あまり自信はないが、流石にこれは演技ではないと思う。

 いや、最早それが演技かどうかなんてどうでもいいことだ。問題は、彼女がどうしてそこまでするのかということにある。


「私が何故こんなことをしたのか、その理由は先程話した通りです」

「……婚約者と弟に困っており、暴力を振るわれていると?」

「魔法学園に入ってから、そこまで関わる機会がありませんでしたから、説得力がないと思いました。まあ、痣がないという訳でもありませんが」


 ミレリア嬢が何を望んでいるのか、それは大体わかった。

 それは恐らく、私が力になれることという訳でもない。できることはもちろんやるが、これはどちらかというと、マグナード様に向けたお願いだ。


「あなたの望みは?」

「婚約者と弟の失脚です」

「なるほど、わかりました。そういうことなら、僕が動くとしましょう」

「いいのですか? 私は、あなたを利用しようとしているのに……」

「構いませんよ。困っている女性を助けるのは、紳士として当然のことですから」


 マグナード様の目つきが、以前にも増して鋭くなっていた。

 その気持ちは、よく理解することができる。本当に、彼が善良な人間で良かった。彼が動いてくれるのなら、きっと大丈夫だ。

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