92『魔王軍、アメリカに降臨す』
西新宿ギルドのメンバーはセントラルパークのすぐ近くのホテルに泊まった。
噂には聞いていたが宿泊代には驚いた。日本なら一泊1万円程度のコンパクトな部屋が4万5000円だ。
時差ぼけを治しながら2日間のニューヨーク観光楽しみ、ついにダンジョン挑戦日の朝を迎えると、ホテルにひとりの男性がやってきた。
男性はニシムラさんという20代後半の陽気な日系人で、日本語が堪能な彼がダンジョンまで案内してくれるのだそうだ。
セントラルパーク内は自動車は入れないが、ダンジョンに挑むギルドに関しては8人乗りの大型電動カートの使用が許されていた。
西新宿ギルドのメンバー6人と装備品を乗せたカートを運転するニシムラさんに「こんな感じなのははじめてで驚いた」と伝えると彼は大笑いした。
「あはは、会場についたら、もっと驚きますよー」
「会場?」
会場とはどういうことなんだろうと思っていると、ダンジョンの巨石が見えてきた。
「うわー! 見て見てユッピー! でかすぎ! エグすぎ!」
「ああ、久留里。すごい迫力だな、これが世界最大なのか……あの巨石は、富士山ダンジョンよりも大きいかもしれない」
巨石の大きさに驚いたが、それよりも驚いたのは「会場」の雰囲気だった。
ダンジョンの前には左右に大きなスクリーンがあるステージがあって、そこまで花道が続いている。
スピーカーから爆音が流れるステージ前には観客が……5000人以上はいるのだろうか? 多すぎてよくわからなかったが、とにかく沢山の人たちが集まっていた。
会場の周りにはキッチンカーが並び、ビールやホットドッグが売られている。
ステージの上でターンテーブルを回していたDJが曲を止めた瞬間、観客の大歓声が怒号のようにパーク全体に響き渡る。
花道の奥からダンジョン装備を身につけた男たちが出てくると床から白いスモークが噴出し、熱狂はピークに達した。
どうやら彼らは「ダンジョン・アベンジャーズ」という地元のギルドらしい。
ステージの左右にある巨大スクリーンには彼らのアップ映像と紹介文が映し出されている。
実はニューヨークダンジョンは「ちょっとイベント化している」とは聞いていたのだが、これはちょっとどころではない。
これほどまでとは思わなかった。
俺たちは電動カートを降りて会場に入ってみた。
すると雪奈に気がついた人たちが集まり出してサイン会がはじまってしまった。
ここに来るようなマニアにとっては雪奈はかなりの有名人のようだ。
ちなみに雪奈が海外では「クレイジー・イセカイ・ガール」と呼ばれていることを今ここではじめて知った。
ニシムラさんの話ではこの登場シーンとダンジョンに入っていくギルドの姿は全米中継され、さらに何階層まで到達できたのかが賭けの対象にもなっているらしい。
これがエンタメ大国アメリカか……色々とカルチャーショックだ。
「だけどニシムラさん、このあとダンジョンの中で何をしているのかは出てきて念写を公開するまでわからないわけですよね。ただ登場してダンジョンに入っていくだけなのに、何故こんなに盛り上がるんですか?」
「オクノさんはアメリカンプロレスをご覧になったことは? プロレスで一番盛り上がるのは選手の登場シーンなんですよ」
「そ……そういうもんですか……」
また電動カートに乗り込んだ我々はステージ裏の控え室に通され、そこで装備に着替えた。
西新宿ギルドについてはイベント主催者はすでに調査済みで、ステージに上がった際の選曲などはしてあるから、俺たちはただ登場してステージまで歩けばいいらしい。
そして「ダンジョン・アベンジャーズ」がダンジョンに入ってから1時間後……ついに我々の出番となった。
なんだろう……ある意味人生で一番ドキドキしているかも。
DJの音楽が止まり、さっきと同じように大歓声が巻き起こる。
俺たちが指定された場所に立つとその床がせり上がり、花道の奥に「出現」させられた。
するとさっきまでの大歓声が嘘のように消えた。
DJが流す不協和音にしか聴こえない不気味なBGMの音だけが会場を包む。
俺たちは控え室で言われた通りにステージまでの花道を歩いた。
黒き破滅の狂剣士──黒波五郎
魂を射抜く弓使い──蛇沢真希
命を弄ぶ小悪魔──今居久留里
異端処刑記録人──鯨山桃
闇に堕ちた伝説──三法師雪奈
絶望を喰らい、恐怖を支配する魔王
スクリーンには西新宿ギルドメンバーを紹介する(勝手に作られた)文字が表示されていて、英語が得意な雪奈が翻訳をしてくれた。
会場に目を向けると、観客たちはおどろおどろしい我々の姿に恐怖を感じているようだ。
ステージについた俺はマイクを渡された。
これに向かって何かをしゃべればいいんだな?
「Hel…lo…(こんにち……は)」
「Hell?(地獄?)」「He… low…(あいつ…落ちる?)」
観客がざわついている。
そのざわめきは、すぐには収まらなかった。子供を守っている親の姿も見える。
俺は自分の声が彼らにどう聞こえたのかよくわからないが、まさか例の「発声法」を使ってたのか?
1時間前にダンジョンに入っていった「ダンジョン・アベンジャーズ」がヒーローだとすると我々はあきらかにヴィランやヒールのような扱いだ。
そうか、これが俺たちの全米デビューか。
さっさとダンジョンに入ろう────結果を出せば印象も変わるはずだし、うん。
次回
エピソード93『ニューヨークダンジョン』




