91『はじめての海外』
アメリカ合衆国ニューヨーク市マンハッタン区にあるセントラルパーク。
南北4 km、東西0.8kmの巨大な公園内に出現したダンジョンは「世界最大規模」と言われている。
世界最大という称号が世界中から多くの探窟家を惹きつけてしまいダンジョン内が渋滞のような状態になってしまうので、このダンジョンを管理しているニューヨーク市が参加ギルドの審査を行い、それに通過したギルドのみが挑戦を許されていた。
2ヶ月ほど前、俺は鯨山さんにお願いして審査の書類を出して貰っていた。
その挑戦の許可がおりたのだ。
「ニューヨークダンジョンのことはすっかり忘れていたよ、そっか連絡がきたのか」
「はい! 管理局からのメールにはこちらが選択できる挑戦候補日と、いくつかの注意事項が書いてあります」
鯨山さんはニューヨークダンジョンに挑戦するにあたってのいくつかのルールを読み上げた。その中で特筆すべきなのは「パーティーの人数」に関することだろう。
「普通のダンジョンに潜るときは、パーティーは4人プラス記録員までと決まっていますけど、ニューヨークダンジョンは特例で5人パーティーと記憶員の計6名までOKだそうです!」
「へえー、なんでだろ?」
俺と鯨山さんのやりとりを聞いていた雪菜が会話に入ってきた。
「ニューヨークダンジョンは長い日数潜るのが前提だから、戦力はないけど荷物をたくさん運べる運搬係を連れていけるようになってるの。でも西新宿ギルドには勇人くんの《幻界収蔵》があるから、その分のアドバンテージがあるわね」
「そっか……じゃあもうひとりは誰にしようかな?」
「私を西新宿ギルドのメンバーにして! 臨時で!」
雪奈は一歩前に出てきて、俺の顔の近くに目を大きく開いた顔をもってきた。
「1回潜ってみたかったの! でもさすがにひとりじゃ厳しすぎるし諦めてたんだけど……世界最大のダンジョンだから異世界への扉があるかも!」
「いいけど、でも“魔王軍”に入るとまたネットで色々書かれると思うぞ」
正直いって魔王軍のメンバーはかなりレベルが高い。そして普通なら運搬係の枠になる5人目がダンジョンマスターである三法師雪奈。
さらに久留里が転移魔法を覚えてくれたおかげで、帰路のことは考えないでダンジョンに挑むことができる。
────これってもしかすると、新記録いけるんじゃないのか?
ルーシェルが遠慮がちに話しかけてくる。
「あ、あの……ユウト様。私はダンジョンには参加しませんが一緒について行っても構いませんか? せめてダンジョンのお近くから応援でもできたら……」
「ルーシェルはパスポートが発行できないから海外には出られないんだ。気持ちは嬉しいけど日本で留守番していてくれ」
「そうですか……はい……じゃあご無事に戻られましたら……」
こればっかりは無国籍・無戸籍の彼女にはどうしようもなかった。
一旦落ち込んだ顔になったルーシェルはすぐに表情を変え、フルートを後ろ手で持って、少しだけ前屈みになって上目遣いで見てきた。
「またデートしてくださいね! センパイ!」
こういう「天然距離近ヒロイン」をしてくるのがもし漫画の影響ならば、ついでに漫画のお約束である「死亡フラグ」というものも教えておいたほうがいいかもしれないな。
その後全員で話し合いをし、2週間後にニューヨークダンジョンに挑戦することになった。時差ぼけを治すために挑戦日の数日前に現地入りをする。
武器の国外持ち出しには税関への申請に加えて、各国の許可も必要になる。
けれどダンジョン関連については、世界ダンジョン機構の承認があれば大半の手続きが簡略化される。
ダンジョン機構に提出する書類を大急ぎで作らないとな。
他にやっておかないといけないことは……あれ……?
────俺、初海外じゃん。パスポート持ってないじゃん。
メンバーに確認すると、鯨山さんもパスポートを持っていなかった。
五郎は前ギルドで海外遠征があったし、久留里は幼少期から親と一緒に世界中を旅行していたし、真希は時々ひとりでふらっと飯を食いに台湾に行っていたから、パスポートは所持していた。
この西新宿のオフィスビル43階の窓から見える巨大な東京都庁舎に俺と鯨山さんはパスポートを申請しに行かないといけない。それを一番先にやっとかないと。
申請に向かった俺と鯨山さんは、番号札を手に旅券課のベンチに座っている。
「はじめての海外がダンジョン攻略になるなんて思わなかったよ」
「私もです。でも、すごく楽しみです。良い念写が撮れるように頑張ります」
「そうだ! この機会に鯨山さんも装備を作りませんか? まがまがしい魔王軍装備になっちゃうとは思いますけど。できれば防御力を上げてもらいたいです」
「いいんですか!?」
「もちろんですよ。パスポートの手続きが終わったら素材を探しに“ハズレ穴”に行きましょう」
そして“ハズレ穴”で倒した巨大カラスの死骸を素材にして出来上がったのは、パッと見は修道女っぽいのだが、黒衣にアクセントとして入っている鮮血のような赤色が不気味で、死神……あるいは異端審問官を連想させるような服だった。
「これで私もみなさんの本当に仲間になれたようで……嬉しいです」
エグい拷問をしてきそうなキャラに見える……。
優しい鯨山さんが着るには、あまりにも無慈悲で冷酷そうな印象のものが出来てしまったけど、本人は喜んでいるし……ま、いいか。
────それから10日後。
ジョン・F・ケネディ国際空港に到着した国際線から降りて、やる気のなさそうな入国審査官の前に立った。
「sightseeing?(観光ですか?)」
「no……Combat!(戦うために!)」
かっこよくサングラスをはずしながら言ってみたかったセリフだ。
別室に連行されたけど。
────そして我々西新宿ギルドはこの後、「悪役」として全米で知られる存在となってしまう。
次回
エピソード92『魔王軍、アメリカに降臨す』




