88『異世界の古代人・2』
私は中野Cダンジョンに魔素を浴びにきていた。
暇つぶし用の漫画をまた持ち込んだけれど、モモ様がお持ちの漫画は「恋愛」を主題にしたものが多い。恋愛にご興味があるのでしょうか?
それと最近漫画を読むときに、あの「人をダメにするソファー」があればいいのにとつい思ってしまう。
気を引き締めないといけない……呪物に心を奪われている。
そして漫画をしばらく読んでいると、また《追憶眼》が勝手に発動した。
ああ、そうだった……これだ。思い出した。
魔族によって師匠を殺された女性が「別世界から人を呼ぶ」研究を引き継ぐところで終わっていた……あの記憶の続き。
私の中に入ってくる太古の誰かの記憶。
でも、また何もかも忘れてしまうのでしょうか?
◆
アルサバード師は誰もが天才と認める人物だった。
けれど私にはお師様のような発想も知識も経験もない。
────別の世界から────勇者を呼ぶための方法。
そのような途方もない術を、私ごときが完成させられるのだろうか。
お師様が残した(とても字が汚い)研究資料をまとめてみた。
私は学問に関してはとても優秀だった。だから弟子として認められたのだけれど資料の半分以上は理解できなかった。
そこで資料を携えて国内の名のある学者たちに知恵を借りに行った。
しかし学者たちも、そのあまりの難解さに困惑した。
私は人間族領内のいくつもの国をまわり、昼は学者たちと意見をぶつけあい、夜はひとりでの研究に没頭した。
そしてお師様が残したものを理解するだけで──6年の歳月を費やした。
別の世界から人を呼ぶには神の手助けが必要で、お師様の作った魔法陣や呪文は魔法によって神と繋がるためのものだと判明した。
だけどその魔法陣と呪文だけでは何も起きない。もうひとつ何かが必要だった。
お師様はその「答え」を見つける前に殺されてしまった。
私は「答え」を求めて、また旅をした。
この旅はきっと、お師様が完成させるためにやりたかったことだと思う。
まるで敬虔な巡礼者のように、私は教会や聖地、神の奇跡があったと伝承のある場所をまわり続けた。
神の手助けが必要ならば、神に関係した場所に「答え」があるはず。
──そしてまた3年の歳月が流れた。
お師様がお亡くなりになって、もう9年。
その間に魔族による侵攻は進み、土地は奪われ続けていた。急がねばならなかったが……正直、私は疲れ切っていた。
諦めかけそうになっていたとき、人間族はとある土地を100年ぶりに魔族から奪還することができた。
まだ調べていない場所────私はそこに向かった。
荒れ果てたその土地には“試練の洞窟”と呼ばれるものがあった。
それは洞窟を抜けた者にのみ、神が力を授けるというものだった。
その瞬間、私は理解した。
この9年間探し求めていた、ずっと欠けていたのは“これ”だったのだと。
神は試練を超えてきた者を喜ばれる。
それは別世界の人間でも例外ではない。ただ呼ぶだけでは駄目なのだ。
神は“門”を開くだけ。誰を通すかは試練が決める。
──ついに「答え」が見つかった。
私はそれから1年を費やして研究を完成させ、辺境の浜から日に焼けた老人が漕ぐ小舟で海を渡った。
「それにしてもご婦人さん、あんな何もない島に行ってどうするんだい?」
「いまは何もないですが……これから特別な場所になるんです」
10年ぶりに戻ってきた。私ももうご婦人と言われてしまう年齢だ。
ここがふさわしい。
ここに別世界の者が挑む“試練の洞窟”の出口が出現するようにしよう。
かつてはお師様の研究所があり、現在はお師様のお墓がある。
────海を隔てた南の方角には建設中の「大賢者の塔」が見えるこの小さい島に。
第六章・完
次章『第七章 魔王軍、世界に恐怖を与える』
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次章では西新宿ギルドが地球上最大のダンジョンに挑み、魔王軍の存在が世界中に知られていきます。
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