83『幻想を殺す科学』
国内ランキング1位ギルド、「神威連合」代表の東宮華山は両手で“バズーカ砲のようなもの”を持って俺に見せてきた。
それはかなりの重量感ある見た目だったが、細身の彼が軽々と持っているということは五郎の武器のようにダンジョン内では軽いのかもしれない。
「開発ネーム・Kドライブ106。この武器は神威連合と筑波にある研究所が共同で開発しました。日本が世界よりリードしている小型レールガンの技術が応用されています」
「でも……ダンジョンの中じゃ機械や火薬は使えないはずだけど」
「魔石を使っているんですよ。簡単に言えば魔石のエネルギーをそのままレーザー兵器のように発射しているのです。不安定な存在である魔石がある程度扱えるようになったので可能になりました。ちなみにさっきの一発で300万円分くらいの魔石は消費していますがね」
「魔石を……最新科学で武器に……」
歯車程度の動きですら狂わせてしまうほどの魔素に満ちたこのダンジョン内で使える兵器を開発してしまったのか。信じられない……正直、驚きだ。
「一発でハーレーダビッドソン1台分かよ……」
「一発で特上鰻重が500回以上食べられる……」
五郎と真希は消費する魔石の金額の方が気になっているようだった。
自分たちが興味あるもので換算しているな……なんて、わかりやすいんだ。
まぁ俺も、金かかるなぁとは思ったけど。
「はははっ、そうですね、安くはないですね……《《今のところ》》はね」
東宮華山は白い歯を見せて笑い、「しかし、ですね……」と続けた。
「この新兵器が数あるダンジョン武器の中で最強だというのは紛れも無い事実なんですよ。なにしろ属性も無視ですからね」
最強か……あのレーザー攻撃を見せられれば、彼が自信満々なのも納得できる。
東宮華山は銃を少し持ち上げ、切長の瞳の奥を光らせた。
「……科学が幻想に勝利したのです」
経験も人材も資金も豊富にある世界三大ギルドのうちのひとつの「神威連合」ならばいくらコスパが悪くても効率的に運用できるのかもしれないな。
「ドロップアイテム確認しました! こちらにお越しください!」
クリスタルの巨人が倒れたあたりで「神威連合」のメンバーが叫び、東宮華山はそこに向かった。
「つくば学園都市ダンジョン」はこの地下30階層が最下層のようだった。フロアを制圧した彼らにはそのフロアのアイテムを回収する権利がある。
東宮はメンバーから軽くそれを受け取り、興味なさそうにポケットにしまった。
「Kドライブ106」をケースに戻した彼らはダンジョンから出るために階段を上がっていく。一番最後までフロアに残っていた東宮華山は俺のところにきた。
「西新宿ギルドの異常なほどの上昇速度……あれはあなたの手腕だと認識しています。いずれあなたは厄介になるでしょうね。ですが、その前に手を打ちます」
そして「ではまた《《近いうち》》に」と言い残して東宮華山は去っていった。
なんだろう……なんか苦手な男だ。
「しかしあの新兵器には驚いたな、やっぱ神威連合はとんでもねぇ」
「私たちも帰りましょう。アイテムは手に入らなかったど……こういう日もあるわ」
そうだな、真希の言うとおりだ、こういう日もある。
科学が幻想に勝利か……本当に今後はそうなっていくのだろうか?
ともあれダンジョン攻略のブレイクスルーが起きようとしているのは間違いない。
ただ、あの武器は────なんとなく嫌な予感がするけれど。
「ルーシェルちゃーん! 茨城のお土産あるよー!」
「まあ! ありがとうございますクルリ様!」
「つくば学園都市ダンジョン」から出た我々は西新宿ギルドオフィスに帰ってきた。
そのお土産って絶対に水戸納豆だろ。ルーシェルは嫌がらせで腐った豆を渡されたと勘違いするぞ。
オフィスにいた雪奈は自分のデスクでなにか作業をしているようだった。
ダンジョンXは消滅したけれど彼女は前と変わらず「ギルド内ギルド」としてオフィスの隅っこに自分のスペースを確保していた。
「雪奈、忙しいか?」
「ううん、いま終わったところ。どうしたの?」
俺は雪奈に「神威連合」と「Kドライブ106」について見たままを伝えた。
真剣な顔で聞いていた雪奈は「そっか……うん」と納得するようにうなずいた。
「私ね、神威連合の創立メンバーのひとりなの」
「え? そうだったの!?」
「すぐに抜けたからプロフィールからは消してるんだけどね。神威連合ってまだギルド間のルールとかが定まってなかった時代に探窟家が情報交換をする……寄り合い所みたいな感じではじまったのよ」
「じゃあ東宮華山は仲間だったのか」
「彼は良くも悪くも合理的な野心家だから、ダンジョン内で使える兵器を開発してたっていうのも納得できる」
「そっか。神威連合や東宮華山をよく知っている雪奈からしたら、ランキングで勝とうなんていうのは夢物語に聞こえるかもしれないな」
「……勇人くん」
雪奈はにこっと笑った。
「一緒に潜ってみて、勇人くんならやれるんじゃないかなって思ったよ。根拠はまーったくない直感だけどね。幻想で科学に勝っちゃおうよ!」
たしかに雪奈の言ってることは、まーーーーったく何の根拠もない。
だけど、俺も何故だか勝てる気はしていた。雪奈の直感が「やっぱ正しかった」になるという根拠のない自信があった。
そして今日の業務は終了し、中野坂上のマンション前で鯨山さんとルーシェルと別れ、俺と雪奈は一緒に歩いた。
中野Cダンジョンの近くに住んでいる雪奈はギルドオフィスまではちょっと距離があったが、今日はなんとなく歩いて帰りたくなったらしい。
気のせいかもしれないが、雪奈はときどき後ろを振り返って、何かを警戒しているようだった。
話しながら並んで歩いていると、途中で俺たちを通り過ぎた同世代の女性が「あーー!」と大きな声をあげる。
「雪奈!? 雪奈じゃない!?」
「え? もしかして、キッコ?」
「ひさしぶりー! 凄いよね雪奈、超有名人になっちゃうんだもん!」
どうやら雪奈の知り合いのようだ。その女性は俺の顔を見たあとに、ハッと驚いたような顔をした。
「もしかして奥野勇人? だよね? うわー! うわー!」
「そうですけど……すいません、どこかでお会いしましたっけ?」
「あー、君は引き篭もってたし、覚えてないかー。中学の同級生の佐渡山紀子よ。君の家の一番すぐ近くに住んでたんだよ」
ということは小学校も一緒だったのか。
佐渡山紀子……記憶にあるような、ないような。
「だから私が奥野くんに学校のプリントを持っていくはずだったんだよ」
「へえ、そうだったんだ。じゃあなんでいつも雪奈が?」
「あ……キッコ……」
雪奈が小さく声を出した。
次回
エピソード84『ストーカー』




