82『国内1位ギルドと遭遇』
2月3日、西新宿ギルドAチームは茨城県の「つくば学園都市ダンジョン」に潜っていた。
目的はレアアイテムの回収だ……知床ダンジョンで(脚と腰を痛めて)手に入れたアイテムがハズレだったからね。
つくば学園都市ダンジョンは“ハズレ穴”ではないけれど、出現モンスターのレベルが高いわりに魔石の産出量が少ないので探窟家にあまり人気がなかった。
なのでまだ最下層までは攻略されてなく、レアアイテムがあるかもしれないのだ。
地下27階層に《闇築因子》で毎度おなじみの野営用の建物を作り、その中で夕食をとる……いまが夕食の時間かどうかは不明だけど。
真希はご飯を炊き、味噌汁を作った。かまどの煙が建物の穴から外に出ていく。
サービスエリアで購入した茨城名物・水戸納豆を親の仇のように掻き回しながら久留里がとなりに座る真希に話しかけた。
「ダンジョンでスマホが使えないのはなんとなくわかるけどー、なんで時計も使えないのかな? くるくるって回すのなら電気とか使ってないのに」
「機械式時計は電子機器ほどは魔素の影響を受けないけれど、それでも精密なゼンマイや歯車や振り子が狂わされて数時間単位でズレてしまうのよ。他にも火薬もダンジョンの中では爆発が不規則になったりするから使えないわね」
もし火薬、というか銃火器の類が使えていたらダンジョン攻略の歴史は全然違ったものになっていたかもしれないな。
20年前にまず最初にダンジョンに入っていったのは各国の軍隊だったが、その状況がそのまま続いていたかもしれないし、民間軍事会社なんかが中心になって攻略していったかもしれない。
そして、飯のあとはオフィスの掃除当番を賭けてのトランプ大会になった。
ちなみに大貧民(五郎は大富豪だ!と言って譲らない)はもう二度とやらないぞ!
「4止め」とか「クイーンボンバー」って何だよ!?
俺にとってはダンジョン内の物理ルールなんかよりも、大貧民のローカルルールの方が意味がわからない。
翌日、地下29階層から30階層につながる階段を降りる途中で下のフロアからの音が聞こえてきた。それは、あきらかに激しい戦闘が行われているというのがわかる金属の打撃音や魔法の発動音だった。
俺たちが寝ている間に追い越したギルドがいたのか……。
30階層ではクリスタルでできた巨人と探窟家たちが交戦中だった。
巨人は愚鈍だったが、敵のすぐ近くにいるふたりの戦士たちは苦戦しているようだ。
階段近くにいる俺たちのすぐ目の前には交戦中のギルドのメンバーと思われるふたりの男がいた。
そのうちのひとり……魔導師の男が火属性魔法と水属性魔法で巨人を攻撃したがクリスタルに跳ね返り、ダメージは与えられなかった。
「西新宿ギルドでーす! 加勢しますかー?!」
俺が声をかけると、真っ白なローブを羽織って、黄金色に輝く(仮面舞踏会のマスクのような、赤い彗星のような)目の周辺を覆う仮面の男が俺の方を向いた。
「いえ、結構。我々だけで倒せますのでそこで見学なさっていてください」
今回のようにボスモンスター戦で複数のギルドがかち合ってしまうケースがある。
その場合の「加勢するか、しないか」は先に交戦しているギルドに選択権があった。
このようなルールがないと、報酬の取り分、横取り、事故の責任など様々な問題が発生してしまうのだ。
ただし生命の危険がある場合は、あとからやってきたギルドの判断による介入が正当化されている。
俺たち西新宿ギルドのメンバーがそのまま待機していると、仮面の男は床に置かれた箱のようなものを指差して魔導士の男に指示を出した。
「Kドライブ106の準備を」
「しかし、他のギルドが見ていますが……」
「構いませんよ。どうせ近日中に正式発表をするのですから……それに……」
仮面の男は俺を見て一瞬口元に笑みを浮かべてから、また魔導師の方を向いた。
「ぜひ“魔王軍”さんには見ていただきたいですしね」
何をするつもりだ? Kドライブ106ってなんだ?
指示を受けた魔導師はギターケースくらいの大きさの箱から何かを取り出して、組み立てはじめた。
「どうぞ、すぐ使えます」
「……うむ」
仮面の男は“それ”を構えた。
“それ”は、表面は戦士が着る鋼鉄の鎧をツギハギしたような感じでファンタジー的というかスチームパンクな見た目ではあったが……。
誰がどう見ても、間違いなく、銃器だった。
ライフル銃というよりは、肩にかついでいるのでバズーカ砲のようだ。
次の瞬間。
────ヒューン。
レーザー光線のように一直線に紫色の光が伸びてクリスタルの巨人を貫いた。
そしてレーザーは消え、また発射しては消えを何回か繰り返し、ついにクリスタルの巨人は地面に倒れて、砕け散った。
とてつもない威力だ。
しかし火器類がまともに動かないダンジョンに何故あんなレーザー兵器が?
「いかがでしたか? 我らのKドライブ106は素晴らしい威力でしょう」
仮面の男は俺のすぐ前まで歩み寄ってきた。
この距離ならば彼の切長の目の形がよくわかった。
「申し遅れました。私は神威連合の代表、東宮華山といいます。どうぞよろしくお願いいたします」
そうか……彼らが「神威連合」
────国内ランキング1位のギルドか……そしてあの武器はいったい?
次回
エピソード83『幻想を殺す科学』




