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81『恐怖!ポルターガイストの館』

西新宿ギルドが休みの土曜日に引越しをすることになった。


手伝ってくれたのは五郎と久留里とルーシェル……マッチョとギャルとプリンセスという不思議な組み合わせだ。


レンタルしてきたトラックを免停明けの五郎が運転し、社用車のワンボックスバンは俺が運転する。

買い替えるものは粗大ゴミとして回収してもらったし、もともと荷物が少ないので車両は、これくらいで十分だった。


部屋の荷物は俺がすでに荷造りしておいたので、重たい荷物を男性陣が車に積み、軽い荷物を女性陣が積んで簡単に終わってしまった。


そして何もなくなった部屋を軽く掃除した。さあ、次は新居に移動だ。



「狭い狭いと思ってたけど、ものがなくなると意外と広かったのがわかるな」


「私がお泊まりしたときに寝たベッドが場所とってたもんねー」



久留里の何気なく言ったその一言に、休憩をしていた五郎と窓を拭いていたルーシェルの動きが止まる。



「おい、ちょっと待て……社長……あんた、まさか」


「ユウト様の住まいに……クルリ様がお泊まりに?」



五郎とルーシェルが俺に詰め寄ってきた。



「見損なったぜ社長。いくら簡単に騙されそうな頭がおかしい小娘だからってよぉ」


「ユウト様……そうですか、クルリ様とはそういうご関係だったのですね……」


「だぁぁ! 違うわ!」



探窟家(シーカー)をやめさせたがっていた父親と喧嘩してこの家に来た久留里のこと、その後に雪奈と一緒に父親の説得にいったことをふたりに説明した。

ルーシェルは少しほっとしたような顔をして久留里に話しかける。



「ところでクルリ様はこのお宅では何日ほどお過ごしになられたのですか?」


「えっとぉ……泊まった次の日の夜に雪奈さんが来て一緒に家に帰ったから、一泊二日になるのかなぁ? っていうかさっき五郎、私が頭おかしいとか言ってた!?」


「クルリ様は一泊二日……」



久留里が五郎にギャーギャー言って騒々しい中、ルーシェルは「私は三泊四日……よし」と小さくつぶやいて、胸の辺りで拳をグーに握っていた。


そして俺の荷物を積んだトラックと社用車は引越し先へ向かった。

到着して洋館を見た久留里と五郎は、その不気味な外観に若干ひいていた。



「こういうの私、どっかで見たことあるかも……」


「たぶんホラー映画か遊園地のホラーアトラクションだな」



荷物を全部新居に運び込み、引っ越しは終了した。

これまでのアパートより部屋が広いからスカスカだな。


悪魔っぽい装備に着替えた久留里のコスプレ撮影会が終わり、16畳くらいある1階のリビングで全員で出前の蕎麦を食べる。まだ箸になれていないルーシェルは苦戦していた。



「ねえねえ、ルーシェルちゃんってまだ記憶戻らないのー?」


「え? まあ……はい……」



ルーシェルが俺の方をちらっと見てきた。



「そっかー、はやく記憶戻ればいいね! そうだ! 今度一緒に原宿行って服買おうよー、ルーシェルちゃんを連れてきたいお店いっぱいあるんだー!」


「原宿……ですか? 楽しそうですね、よろしくお願いいたします!」 



久留里が服を選ぶとギャルっぽい感じになりそうな気もするが、久留里は久留里でけっこうルーシェルのことを気にかけてくれてるのかもしれないな。


キッチンスペースにいた五郎は何かを探しているようだった。



「社長、コップってどこにある?」


「あ〜まだダンボールから出してないかも。んっ? そこのキッチンカウンターの上に1個あるみたいだけど、あれ? でも俺そんなところに置いたかな?」


「キッチンカウンターの上? おお、本当だ」



パリン!

コップが地面に落ちて割れた。

 


「五郎! 何やってんのー!」


「いや……俺は……あれ?」



俺は見ていた。

コップが勝手にスーっと動いてカウンターから落ちたのを。


すると今度は、部屋に備え付けの本棚に入れた本が音も立てずに、まるで誰かが本棚から抜いたようにスーっと出てきて、宙を浮いたあとに地面に落ち、そして風もないのに勝手にページがパラパラとめくられていった。


これは俺だけじゃなく、全員が見ていた。

そして天井を見上げると、シャンデリアがゆらゆらと揺れて、電気が明滅している。



「え? え? これってポルターガイスト現象? マジ!?」


「おおおお……俺はこういうのが苦手だって前に言っただろぉぉぉ!」



久留里は腰を抜かして、五郎は部屋にあった毛布をかぶっている。

そういうことか……この洋館は相場よりも家賃がずっと安いのに入居した人が出ていくのは、これが原因か!


幽霊物件は事故物件とは違って借りる側に伝える義務はないのかもしれないが……あの魔女婆さんめ、知ってて黙っていたな。


まいったな……俺だって幽霊はちょっと……いや、かなり勘弁してほしい。


ルーシェルは少し離れた場所から、こっちこっちと手招きしてきた。

俺が近くにいくと、ルーシェルが小声で話す。



「ユウト様……魔素を感じます」


「魔素!?」


「漂っているのは微量ですが……どこかに強い魔素を発しているものがあって、それが部屋の中に漏れてきているのかもしれません」



俺の現在の肉体はこっちの世界で33年間生きてきた肉体だが、ルーシェルの肉体は魔素の多い異世界で20年間生きてきた肉体だ。だから俺よりも魔素に敏感なのかもしれない。


こっちの世界の空気中には魔素はない。

ダンジョンの中は異世界と同じように魔素が漂っているけれど、この洋館の近くにはダンジョンなんてない。



「この怪奇現象は魔素が原因だとして……その魔素を放出してるのは……」



顔面蒼白の久留里が「わ……私、もう帰ゆ……」と歩いたが、脚が震えているせいでよろけ、本棚にぶつかるようにして倒れてしまった。



「久留里! 大丈夫か!?」


「うん、大丈夫だけど……あれ? 本棚がズレてる」



久留里がぶつかった本棚は奥に押し込まれるように動いていた。

俺は本棚を強く押してみた……本棚は扉のようになっていてその奥に部屋がある。


隠し部屋か! そんなものが!


四畳半くらいの隠し部屋の中には、この家の所有者のコレクションなのだろうか、アフリカの仮面のようなものやアメリカ先住民の羽根冠が置かれていた。


────そして、そこにあった。


この怪奇現象を引き起こしていた魔素を発している──魔石が埋め込まれたブレスレットが。



「ユッピー、これって……」


「不動産屋が、この家を貸してる人の孫が探窟家(シーカー)だって言ってたから、お孫さんからプレゼントで貰ったんだろうな。そしてこの魔石には俺たちが富士山ダンジョンで戦ったボスのようにモノを動かす力が宿っていたんだろう」


「じゃあ、この魔石がなくなればポルターガイストはなくなるんだね!」


「そういうことだ、不動産屋にすぐに連絡しよう」



よかったよかった、これで一安心だ。

明後日の茨城のダンジョン攻略前に解決してよかった。




────とか思うと、だいたい次の怪奇現象が起こるのがお約束だから、思わないようにしよう。




次回

エピソード82『国内1位ギルドと遭遇』

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