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79『ギルドコンサルタント』

1月の最終週、西新宿ギルドのオフィスには「元巡窟教団教祖」で「現魔王様♡ファンクラブ代表」の龍洞様=姫里由衣が来ていた。


池袋のダンジョンで会ったときの龍洞様は白装束だったけれど、今日の彼女は薄緑のニットを上品に着こなしている。


龍洞様が来社した理由は、魔王様♡ファンクラブで春から扱う商品の確認だった。

どうせスペースは余りまくっているんだし、と新しく購入した大きなオフィステーブルの上に龍洞様の部下が次々とグッズを並べていく。


Tシャツに、マグカップに、ステッカーに、ぬいぐるみ。

「魔王様の香り」なんて香水まであるのか……どんな匂いだよ……。



「なんか凄いね……うん、問題はないよ。ちなみにこのイラストはどっかで見たことある絵柄だけど有名な人?」


「はい! 大人気漫画の作者さんなんです! 元々は巡窟教団の一般信徒さんで、そのままファンクラブ会員になってただいたんです!」



まさかスキル使って洗脳とかしてないだろうな……この人は自分でも“信じたものに一直線”って言ってたけど、どうにも心配だ。

とりあえずファングッズの確認は終了し、龍洞様は「魔王様」ではなく「魔王軍」の方で困っていることはないかと尋ねてきた。



「強いていえば魔王軍の世間的なイメージがあまりよくないことかなぁ。怖いとか呪われそうってヒソヒソ言われてるからね」


「なるほどですね! 実はこれからご紹介したい人がいるんです。教団時代からの付き合いがあるお方なのですが、きっとそのお悩みも解決してくれますよ!」 


「紹介したい人?」



するとしばらくしてオフィスに、大きめの体で長髪にサングラス、白いダブルのスーツの怪しい男が入ってきた。

男は俺と龍洞様のところまで来て名刺を取り出す。



「世界32カ国でブランディング・アーキテクトを任されてきたハイパーコンサルタントの私が、西新宿ギルドさんのお力にならせていただきます」



名刺には「ギルドコンサルタント ディビッド・K・光崎」の文字がある。

仮名……だよな、きっと。



「え〜、私が思うにですね、魔王軍のアイデンティティとは人に与える嫌悪感、不快感、忌避感なんですよね。これは「恐怖の三感」というものです。あっ、これは私が作った言葉なんですけどね、結構他でも使われちゃってまして、まいったなぁ、あはははっ!」



なんでしょう……このロバート秋山がやりそうなキャラは。

本当にこの人って大丈夫なんでしょうか?



「その怖いイメージを払拭するにはどうすればいいんでしょうかね?」


「ノンノン、怖さを消す必要はありません。むしろ“合法的に怖く”しましょう。イベージアップではなくブランド強化です」


「ブランド強化……ですか?」


「正義は飽きられます。悪は長く売れます。恐怖をマネタイズするのです」



何を言ってるのかよくわからないけど、つまりはもっと怖いイメージを押し出していった方が良いという話らしい。



「ちなみに先ほどから気になっていたのですが、あの銀髪の美しいレィディーは?」



人差し指だけで必死にキーボードをタッチしているルーシェルにディビッド光崎は興味があるようだった。俺はルーシェルを手招きして呼んだ。



「この子はルーシェルです。うちの事務員……の補佐ですね」


「素晴らしい! 恐怖の魔王にさらわれた美しき姫が強制労働させられているという設定でいきましょう。これは話題になること間違いなしです! ヘイトが集まりまくります!」


「わ、私はユウト様にさらわれてなどおりません!」


「ルーシェルは表には出したくないんで……それはちょっと……」



そのあともディビッド光崎氏のトークは続き、さすがに疲れてきたのでお引き取りいただいた。



「ユウト様……あのお方は何だったんですか?」


「……何だったんだろうね」



ルーシェルは周りに誰もいないのを確認してから小声で話してきた。



「そういえば先日、魔素を浴びに行った中野Cダンジョンで私の《追憶眼(エコーズアイ)》が勝手に発動して……それで何かを見た気がするですが……何を見たのか覚えてないんです」


「なんだそりゃ? 気のせいじゃなくて?」


「う〜ん。触れて見た記憶じゃないから忘れてしまうのかもしれません」


「そっか……また見たら教えてよ、また忘れるかもだけど」


「はい! また忘れるかもですが!」



それから数日後。

専門クリーニング業者に預けていたケロベロスのローブを引き取りにいった帰り道。

上野公園内にあるダンジョンの前で慌てた様子のディビッド光崎の姿が見えたので声をかけた。光崎氏の横ではひとりの若い女性探窟家(シーカー)が息を切らせている。



「こんにちは光崎さん、何かあったんですか?」


「ああ! 奥野さん! 実は私がコンサルしている“ギルドル”というアイドルグループがあるのですが、彼女達とスポンサー企業の社長がダンジョンの中でモンスターに囲まれて取り残されてしまいまして……」



ここにいる擦り傷だらけの女性探窟家(シーカー)もそのメンバーで、ひとりだけうまく逃げてきたらしい。

俺は光崎氏に近づいて小声で耳打ちした。



「見過ごして帰るのもアレなんで助けますけど、助けたらすぐに消えますね。この女性にも俺が“魔王”だってのは黙っておいてください。素顔がバレると色々と面倒ですから……なにしろ“魔王”は怖がられてますんで……」


「は、はい! よろしくお願いいたします!」



俺は上野公園ダンジョンにこっそり入ってボストンバッグに詰め込んであったクリーニング済のローブを羽織ってフードをかぶり、救助に向かった。


取り残されてしまった連中は地下三階層にいた。

3人の若い女性とひとりの中年男がワームタイプのモンスター数匹に囲まれている。女性のひとりが足を負傷していて逃げることができないようだ。


剣を持っていなかった俺は“ギルドル”のひとりから剣を借りて、ワームと戦ったが1匹を斬っただけで折れてしまった……なんて脆い剣なんだ。


しかたないので出力を最小限にまで抑えた《天蝕む虚無の柱(イクリプス・ヴォイド)》でモンスターを殲滅した。


闇の魔法をはじめて見て震える彼女達を残して俺は何も言わずに去り、またこっそりとダンジョンを出て光崎氏に「もう大丈夫ですよ」と耳打ちしてから高円寺の自分のアパートに帰宅した。



翌日の朝、テレビを見ていると昨日助けた“ギルドル”たちとスポンサー企業社長がインタビューを受けていた。

突然現れた魔王が世にも恐ろしい呪術でモンスターをなぶり殺しにしていたとレポーターに話している。


しかも「こいつらはァ、俺の獲物だァ、剣をよこせィ」「嘆きィ叫びながらァ滅ぶ姿はァ、実にィ美しいィィ」と聞き覚えのある声優さんのねちっこい低音ボイスが流れて、おどろおどろしいフォントのテロップが画面に出ていた。



言ってねー。俺そんなセリフ言ってねー。


テレビを消して出社の準備をしていると、龍洞様から着信があったので出る。



(魔王様! テレビはご覧になりましたか!? 放送直後から注文が殺到しています! やっぱり世間は悪や恐怖を求めているんですね! 西新宿ギルドにもかなりのロイヤリティをお支払いできるのでご期待ください!)


恐怖をマネタイズ……か。

はい、いいですよ……もうそれで。



それよりも俺は引越しのことで頭がいっぱいだ。

このアパートともついにサヨナラだ! さてどんな家にしようかなぁ。



次回

エピソード80『不動産屋の魔女』

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