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8『ダンジョンの向こう側』

三法師雪奈が“ダンジョンの向こう側”にあるとされている異世界を目指しているのは、ダンジョンに興味があれば誰でも知っている。

そして彼女が“ひとりギルド”でそれを目指していることも有名だ。



「私は死なないためのスキルをいくつも持ってる。でもどうしても長旅には限界があるの。あなたの《闇築因子(アンダービルド)》で安全な野営ベースを作れそうだし、《幻界収蔵(アストラルホールド)》を使えば水や食料をいくらでも持っていける」


「まあ……たしかに。ところで雪奈には同じ目標の仲間はいないのか?」


「いたけど、18年の間にどんどん減っていっちゃった。そもそも“ダンジョンの向こう側”を信じている探窟家(シーカー)も限られてるしね……お願い! 私の夢には勇人くんの助けが必要なの!」



誰がこっちの世界にダンジョンを作ったのかは、俺にもわからない。


──試練の深淵を越えし者よ、我らが界に至る扉は汝を待つ。


ただ、すべてのダンジョンの入り口に彫られている文字から、ダンジョンが異世界にいくための“試練”だということだけはわかる。


試練を越えられるほどの者を異世界に来させたがっているのは誰だ?


人間族か? 魔族か? それとも神か?


そして、何をしようとしているんだ? なにが“狙い”なんだ?


それは俺の知ってるヤツか? たしかに気にはなるけれど……しかし。



「ごめん……俺は興味ないや」


「そ……そんなぁ……」



俺は“ダンジョンの向こう側”から戻ってきたんだから、またそこを目指す気なんてないし、第一こっちの世界とあっちの世界がつながっても混乱が起こるだけな気がしていた。



けれど自分も今日はじめて入ってみて──偶然では説明できない“意図”はたしかに感じた。説明できないけれど何かが“変”なんだ。



「ところで勇人くんって、いまは何をしてるの? もしかして結婚してたりする?」


「いわゆるサラリーマンやってる、安月給の。結婚どころか恋人もいないよ。出会いなんてないし休日は寝て体力回復するしかなかったしな」


「そっか……そっか、うんうん」



雪奈は深くうなずいた。


地上へ戻る階段の前にあった扉はいつの間にかなくなっていたので、全員はダンジョンから出た。


俺と西新宿ギルドのふたりは着替えたが、すぐ近くに住んでいる雪奈はそのままの剣士の格好で帰るらしい。


彼女の腰には俺が作った剣が下がっている。ギルドに所属していると銃刀法に関して特例が適用されるから別に問題ないそうだ。

もしかしたら、それもギルドの新規設立が厳しくなった理由かもしれない。



「勇人くんの連絡先って教えてもらえる?」


「いいよ、じゃあこれQRコード」



雪奈は俺が表示させたQRコードを読み込み、そして数秒後メッセージがきた。



((私は……諦めないからね!))



雪奈が異世界に執着する理由はわからないが、彼女はその美貌でかなりモテそうなのに浮いた話ひとつも聞かない。青春時代から“ダンジョンの向こう側”にすべてを捧げているのだとしたら、たいしたものだ。



翌日会社と話し合い、現在自分が任されているプロジェクトと様々な引き継ぎ業務が終わってから退職する流れになった。

退職金があるわけでもないし、ぶっちゃけバックれても良かったのだが……自分でもつくづく社畜気質だとは思う。


そして1ヶ月後、10年以上勤めた会社を辞めた俺は株式譲渡や登記変更などの手続きを終え、「西新宿ギルド」の代表取締役社長となった。


午後の事務所には俺と五郎と真希がいた。

今日はギルドメンバーが全員集合して、今後の方針などを決めることになっている。

全員とはいっても、あとひとり来たらそれですべての……四人しかいないギルドだけど。



「終業式終わったよ〜! 明日から夏休み〜!」



なんか……うるさそうな女子高生が入ってきたぞ。

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