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70『ブートストラップ・パラドックス』

身体を起こしたルーシェルはそのままベッドの上に座った。


ここにいるのは間違いなく俺が魔王時代に数日間一緒に旅をしたルーシェルだが、あの時よりは少しだけ成長しているように感じた。

美しかった銀色の髪はさらに艶やかに、少女の面影が強かった顔にも少し大人の気品が漂っている。


あの時の服装は高級な旅用のドレスだったが、いま彼女が着ているのはひざ丈のチュニックに乗馬用のようなズボンで、ベッドに寝かせた際に脱がしたブーツは装飾のない無骨な形をしていた。



『まずはどうやってこっちの世界に来たのか、それを教えて欲しい』


『…………はい』



俺との旅のあとに大図書館で別世界(つまり俺が現在いるこの地球だ)について調べたこと、辺境の塔に住む「大賢者」のこと、太古の秘術である「試練の洞窟」のこと、「試練の洞窟」に入ったらボス水晶体に出会ってしまったことを丁寧に、ひとつづつ彼女は話していった。



『つまり君は……スキルで俺の過去を覗いたときに見た“試練の洞窟”を、後から自分が作ったことにしちゃったのか』


『はい! その通りです! 私の強い想いが神に届いたのです!』



ルーシェルの話が本当ならば古典的なSFのパラドックスだ。


例えば


俺が読んだ「有名な小説」を書き写し、過去に行って作者本人に渡す。

作者がその書き写したものを読んで原稿を作って発表する。

それが回り回って未来の俺が読む「有名な小説」になる。


じゃあ、この小説を最初に作った誰だ? ってやつだな。



タイムマシンのように過去に干渉したというよりは、こっちとあっちの世界の時間が並行ではなく、もっと立体的に流れているから、こんなことが可能になったのかもしれない。



『3年ぶりでございますねユウト様、私は20歳になりました……あっ! そうでした、ユウト様にとっては3年ぶりではないのですね』


『君と旅をしたあと俺は750年魔王として生きて、33歳の奥野勇人に戻ってきた。だから750年ぶりかな』


『それほど長い魔王の人生のあとに、無事に“しゃちく”に戻られたのですね。ああ、ユウト様がこちらの世界に戻られると信じて正解でした!』


『社畜…………いったい君はどこまで俺の過去を読んだんだ……まあ、もうサラリーマンは辞めてダンジョンを攻略するギルドを運営しているんだけどね』


『ダンジョン攻略ですか……そういえば、過去のユウト様が「ダンジョン」に「げえむ」というものを紐付けされていましたので、“試練の洞窟”をイメージするときにそのことも少し思い出しておりましたが、それの影響はございましたか?』


「そういうことか……思いっきり影響はあったよ……」



なるほど、それがダンジョンの妙な“ゲームっぽさ”の正体か。


聞きかじりのようなゲーム知識で作ったから「ステータスオープン」や「ログ」のようなものまでは実装できなかったってわけだな。


ダンジョンXから戻ってきてからネットで調べたけれど、世界中の他のダンジョンには特に異変は起きていないようだった。


俺は20年前世界中に大量に出現したダンジョンについてルーシェルに質問した。



『“試練の洞窟”ってのはひとつだけなんだよな? だけどこっちの世界には大量発生してるんだけど、それはなんでなんだ?』


『もしかしたら、私の想いが強すぎて秘術が暴走したのかも……意味はよくわからなかったのですが“多点共鳴”とか“歪みが生じている”とか大賢者は言っていました』



ダンジョンXは「制作者のテスト用」だと俺と雪奈は仮説を立てていたけれど、それは間違いだった。

ダンジョンXが本来「唯一あるべきだったダンジョン」で、他は「バグって増殖したようなもの」だったんだ。


世界中にダンジョンが発生したことで新しい産業も生まれたし、危険な目に会うのはそれを承知で潜る探洞家(シーカー)くらいだから、それはまあいい。


問題はオリジナルであるダンジョンXのどこかには異世界への扉があったはずということだ……だけど。



『さっき“試練の洞窟”は消滅しちゃったんだけどさ……』


『私もそれは薄目で見ておりました。おそらくですが私はユウト様に会うために“試練の洞窟”を作ったので、その願いが叶って必要なくなったからではないでしょうか?」


『本物のダンジョンが消えて無作為に作られたダンジョンだけが残った……じゃあ、もしかして君はもう向こうには戻れない?』


『私の願いはユウト様にまたお会いすることでしたし……別に戻れなくとも幸せですが……』



ルーシェルが強い瞳で俺を見つめてくるので、俺は何も言えなくなってしまった。



一応、疑問だったことがそれなりに理解できてきた。


だけどまだ、何かが《《ひっかかる》》んだ。ルーシェルは嘘はついてないと思うけど、彼女の話を聞いて妙な違和感がある……なんだろうこの感じは……。


あ〜だめだ! 


こっちの世界とか、あっちの世界とか、パラドックスとか、俺の脳みそはもう限界だよ!

神ゲー『十三機兵防衛圏』の製作者はすごいな……よくあんな複雑でこんがらがった設定のゲーム作ってて発狂しなかったな。

……いやまあ、発狂したのかもしれないけど。



とにかく彼女はこの世界の人間じゃないんだ。

すぐに異世界に帰した方がいいような気がする……でもどうやって?




────とりあえず明日から、この子はどうしよう?




次回

エピソード71『にほんごのおべんきょう』

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