68『異世界のお姫様・4』
辺境の地に高くそびえ立つ、円柱型の塔の最上階。
私の目の前には、床まで届く長い白髭の大賢者・ソルティス卿がいた。
ソルティス卿はおびただしい数の本が詰められているこの部屋の本棚から一冊の古書を取り出して、ホコリを払った。
「ハイナスタリ王家の若き姫、ルーシェル・ハイナスタリよ。つまりお主は別の世界から人を召喚する“試練の洞窟”を作りたいと申すのだな? あれは太古の秘法じゃ、そんなものをよく知っておったのぉ。それでお主は“誰を”呼ぶつもりじゃ?」
「……人間族が忌まわしき魔族に打ち勝つためには勇者が必要です。別世界から勇者を呼ぶためにぜひソルティス卿のお力をお借りしたいのです」
「ふうむ……同じことをわしに頼みにくる者は過去に何人もおった。しかしこの秘法は神の領域に踏み込むほどの代物じゃ、強い想いがなければ作れず、全て失敗しておる。まあ、試してみるのは止めんが期待せぬことじゃな」
私は嘘をついた。
もしかしたら大賢者はそれを知っているのかもしれない。
けれど、何も問われなかった。
私は《追憶眼》でユウト様の過去を見た。
そのときに魂の流れも読み取れた。
それは断ち切られたのではなく、ただ別の場所へ流れただけの魂だった。
ユウト様は別の世界で死んで、こちらの世界で魔王になったのではなかった。
ユウト様は向こうの世界で生きている。だから魔王としての生涯を終えたら、向こうの世界の人生の続きがはじまる……はず。
絶対という確証はないけれど私はそれに“賭ける”しかない。
「わしが呪文を唱えたら、お主はこの水晶玉に手を乗せなされ。どのような“試練の洞窟”を作って勇者を呼びたいのか、神に訴えるように想いを込めるのじゃ」
ユウト様が転生前にいた別の世界には“試練の洞窟”があった。
でもこちらの世界にはそれとつながる洞窟はどこにもない。
だから、私が因果を完成させる。
それを“そうだったこと”にする。
あの世界にダンジョンがあるのなら
──それはこちらでいつ作られたのか、誰も知らない。
ならば
───その始まりを───私にしてしまえばいい。
眩しい。
水晶玉から部屋全体を真っ白にしてしまうほどの光が出ている。
「な……なんと! 信じられん、成功したのか? これで別世界に“試練の洞窟”が出現するはず……しかし多点共鳴が……向こう側に複数の“歪み”が生じておるようじゃが……いや、まさかな」
ソルティス卿は「別世界から勇者が現れる洞窟」がこの塔の北にある小島に出現しているはずだと言った。
これから私はそこに行く。
勇者を待つためじゃない。自分が洞窟に入って、別世界を目指すために。
こっちの世界と向こうの世界は時の流れ方が違う。
もしかしたらすれ違ってしまうかもしれない……それでも信じて行く。
──いつか魔王の人生を終えてから別世界での人生を再開させるユウト様。
いいえ。
奥野勇人様と──────必ずお会いするために。
第四章・完
次章『第五章 魔王の苦悩』
ここまでお読みいただきありがとうございました。
これまでは「短めの文字数で一日2回更新」していましたが、なるべく一度に多く読んでいただきたいと思い、これまでよりも「文字数を多くして一日1回」の夜の更新に変更いたします。
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