67『魔王の大魔法』
俺が魔王をしていた異世界での魔法も基本的には“ひらめき”で得られるものではあったが、あっちは魔法の歴史が数千年あったので習得のための体系的な方法──つまりメソッドはできあがっていた。
けれど、その複雑なメソッドはこっちにはない。
自分は異世界で多くの魔法を扱えてはいたので、それらの効果は熟知していたが、魔法そのものはいつくるか分からない“ひらめき”を待つしかなかった。
この空間に魔素が多いから“ひらめき”を得た?
そうじゃない。
必要だったからだ。心から必要だと思ったからだ。
だけど、いまの俺じゃ一発が限界だな。
なにしろ、いま必要だったのは……
光と対になる闇属性の──魔王のみが扱える最大級・究極魔法。
低級魔法は全部すっ飛ばしてしまった。
俺は掲げた両腕にありったけの魔力を流し込んだ。
黒いオーラが腕から漏れ出すように漂い、まとわりつく。
「──《天蝕む虚無の柱》」
次の瞬間、天井の虚空が裂けた。
闇の光が柱となって落ちる。ボス結晶体を闇が包む。
それは黒よりも黒い、光を殺す圧倒的な闇。
闇は静かだ。
だから俺は静かに暴走させた。
──もっと深く。
もっと絶対的な闇を。
闇の光の柱は太さを増して、フロア全体に広がり、そして光はすべて失われた。
音さえも闇に消されたような完全な静寂。
闇は徐々に薄くなり……正二十面体の結晶体の姿が見えてくる。
…………パキッ
パリンッ!
光のエネルギーを失った宙に浮かぶ正二十面体の結晶体は粉々に砕け散った。
闇で光に勝利した。
階段部分にいた西新宿ギルドのメンバーが俺の近くに集まってくる。
「勝ったんだな……しかしなんだよ、いまの……」
「勇人の……魔法……なの?」
「ちょっとエグすぎ……」
チカチカする光の点滅を感じた。
雪奈が閉じ込められている結晶体が発光していた。
俺たちは結晶体のところに急いだ。
点滅はどんどん早くなり、その光はどんどん弱くなり、結晶体は薄くなっていく。
そして完全に結晶体は消え、雪奈は眠ったまま宙に浮いていた。
ゆっくりと雪奈の身体は下降し、足が床につくと彼女は目を開いた。
「雪奈! 大丈夫か?」
「うん。特に問題は……ないみたい」
「そっか、よかった……本当によかった……」
「勇人くん! あれ!」
ルーシェルが入っている結晶体が同じようにチカチカと点滅をしている。
その点滅は終わり、結晶体も消える。
俺はルーシェルの目の前に立った。
床に足をつけたルーシェルの瞳がゆっくりと開いた……ルーシェルは生きていた。
俺と目が合ったルーシェルは、小刻みに全身を震わせている。
彼女のエメラルド色の瞳には涙が溜まり、ついに溢れ出る。
ルーシェルは小鳥が囁くような美しい声を出した。
それは、この世界では俺以外には理解できない言語。
向こうでの記憶が薄れていってしまっても、聞けば思い出す言語。
『ユウト様──またお会いできましたね──とても嬉しいです』
小さく愛らしい唇を笑顔の形にしてから、倒れるように俺に寄りかかってきた。
そして続けた彼女の言葉は、予想していなかった言葉だった。
『お会いするために────あなた様の世界にダンジョンを作ったんですよ』




