66『ひらめき』
「ゆ……雪奈……」
「社長! 逃げるぞ! 階段だ!」
西新宿ギルドのメンバーはこの40階層につながっていた階段まで全力疾走した。
階段に戻り、少し上に行く。ここならプリズム攻撃は大丈夫そうだ。
この場所から真希は弓をひいて矢をボス結晶体に当てた……が、矢は結晶体の中に吸い込まれていった。
「……駄目。魔素でできた私の矢は効かないみたい」
ボス結晶体は回転はするが、その場にじっとしたままだ。
その近くで雪奈とルーシェルが入った結晶体はただ静かに浮かんでいる。
「雪奈には即死攻撃を1回だけなかったことにできる《影身転位》がある。だけどそれが発動しなかったということは……」
「三法師雪奈は生きているということね。あの結晶体の中で」
「ああ、そうだ……」
──そして、もしかしたらルーシェルもあの結晶体の中でまだ生きているのかもしれない。
どうすればいいんだ。
雪奈を置いて帰って、対策を練ってから再挑戦するか?
だけどもし、あの結晶体の中でゆっくり時間をかけて命が奪われているとしたら?
助けるチャンスはいましかないとしたら?
階段に座っていた五郎が腰を上げた。
「このメンバーの中で一番攻撃力があるのは俺だ。俺が剣でぶっ叩くしかねぇだろ。なあにダイヤモンドだって意外と脆く砕けるんだから、やってやれないことはねぇさ」
「じゃあ、一番俊敏さのある私がオトリになるわね。どうせ弓は役に立たないから」
「う〜ん、じゃあ一番可愛い私もオトリかなぁ、きっとボスも私に注目しちゃうし!」
そんなのは策じゃない、自殺行為だ。
その先に待っているのは全員が結晶体の中に閉じ込められて……全滅だ。
俺はそんなことをメンバーにやらせちゃいけない。
大事な仲間にそんなことをさせたくない。
俺が魔法の“ひらめき”を得られていたら、こんなことにはならなかったのかもしれないのに。
魔法……か。
あの正二十面体ボスはプリズム攻撃の出力を自在に変化させていた。つまり周囲の光を屈折させているんじゃなくて、内部に光を溜め込んでいる。
光属性エネルギーが集まってできた結晶体なのだろう。
火と対になるのは水、風と対になるのは土。
そして光と対になるのは……。
俺はフロアの中央を見つめた。
雪奈の結晶体には、虹の光が反射していた。
「!」
────それは突然だった。
気づいてしまえば「ああ、なんだ、こういうことなのか」というような単純さだ。
だけどそれは、頭で考えても簡単には気づけなかったりする。
「みんなはここに残ってくれ……俺ひとりに任せてくれ」
「おいおい、社長! なに言ってんだよ!」
「ユッピー?」
「勇人……何をするつもりなの?」
階段部分からフロアに足を踏み入れた俺はケルベロスのローブをひるがえして、指をひらいた両手を前に突き出した。
「あの光は……もう通じない」
なにしろ俺は、魔王時代の究極魔法の“ひらめき”を────得たんだから。




