65『正二十面体のボス』
西新宿のオフィスビル地下にある非公開ダンジョン・ダンジョンX。
その40階層に、なぜルーシェルが……わからない。何がなんだかわからない。
ここにいる中で探窟家歴が圧倒的に長いのは五郎と雪奈だ。
五郎は雪奈の近くに移動した。
「ダンジョンの中に人が迷いこんじまうってケースは、まぁなくもないよな」
「うん。私も数回ダンジョンの中で遭難している人を救助したことある。でもそれは浅い階層の話でこんな深くまで……ワイバーンやモンスターハウスのフロアをひとりで通過してきたってのは、ちょっと考えられない……」
立ったまま眠るルーシェルが閉じ込められている結晶体を、真希は冷静に観察しながら一周歩いた。
「死体? 人形? それとも立体ホログラムかしら? とりあえず触らないほうが良さそうね」
「すっごい綺麗な人ー! でも日本人じゃないのかな? 服装はダンジョン装備っぽいけど。ねえねえユッピーはこの女の人ってなんだと思う?」
「え? いや……その……よくわからない……」
俺が知っているルーシェルの服は旅用のドレスだったが、このルーシェルの服はもっと冒険者的だった。
ダンジョンXで冒険をしてたってことか? なにを探していたんだ?
その時だ──とてつもない量の白い光が、全方向から放たれる。
光が消えてフロアの明かるさが元に戻ると、巨大な結晶体がいつの間にか宙に浮いていた。
「あ……あれは……」
「勇人くん、私の《境界感知》がMAXの反応を示してる。間違いなくこの40階層のボスよ」
ルーシェルが中に入っている青い結晶体は、2つのピラミッドの底と底をくっつけたような正八面体だが、突如現れた結晶体は正二十面体ぐらいだろうか。
テーブルトークRPG用のサイコロによく似た形状だった。
ボス結晶体はゆっくりと軸回転している。
キーンという不快で不気味な高周波が耳にうるさい。
こいつはどんな攻撃をしてくるんだ? どう倒せばいいんだ?
魔素を利用した魔法的な攻撃をしてくるんだとは思うけど、もしかしてこっちの攻撃も魔法しか効かないってことか?
西新宿ギルドには攻撃魔法を使える探窟家はいない。
この中で唯一使えるのは……雪奈だけだ。
キィィィン! 高周波が一気にそのヴォリュームを上げる。
正二十面体の1つの面から虹色の光が出てきた。まるでプリズムで分けたような光の帯だ。
どう考えたって、当たったら絶対にマズいやつだ……このボスは光属性魔法のような攻撃をするのか!
ボス結晶体は回転の軸を変える。雪奈は動く光の帯を避けた。
「そこまで動きは早くないから、なんとかなりそう!」
キィィィィィィィン! 高周波がさらに大きくなった。
虹の出力が上がり、白い大理石のような床を反射した虹が斜め下から雪奈を襲う。
予想外の角度からの光に彼女は対処なんてできなかった。
虹が当たって、光に包まれていく雪奈が俺に手を伸ばす。
「……ゆ……勇人……く…………ん」
「雪奈!」
雪奈を包んだ光が消えると、その場所には正八面体の結晶体が出現していた。
────そしてルーシェルと同じように、彼女はその中で眠っていた。




