64『光る結晶体』
五郎は回転するように斬って、一振りで複数のモンスターを撃破していく。
真希の矢はまるで射的場で風船を割るみたいに、気持ち良く飛行タイプの敵を射落としていく。
雑魚モンスターたちが五郎に群がっている隙をついて久留里が俺たちのところまで走ってきた。
久留里は満身創痍の俺と雪奈に回復魔法をかける。
「久留里……なんでみんながここに!?」
「心配になっちゃったから後から追っかけたんだよー。でもユッピーいなくて寝るときは交代で見張りしないといけないし、食事もショボいし……マジつらかった!」
「そ……そうか……まあ、回復係も遠距離攻撃できるのもいないのに、無理しすぎたかもな……ありがとう」
「えへへ! 終わったらもっと褒めてねー! それと何か食べさせてねー!」
久留里は俺と雪奈に向けている癒しの光が出ている手をピースサインにした。
はじめて彼女に回復してもらった頃と比べて傷が癒えるスピードが段違いになっているのを、こんなときに気がついた。
「ああ、終わらせよう。モンスターたちは混乱してる……雪奈、いけるか!?」
「うん! もう大丈夫!」
俺と雪奈は久留里を守るように立って、モンスターを斬っていく。
そして、モンスターは徐々に減っていき……ついに最後の1体に雪奈が俺から貰った黒光りする剣を突き刺すと、31階層へと降りるための階段の前にあった結界板が消えた。
「来ないでいいって言われたのに勝手に来ちまったからな、始末書が必要なら書くぜ、社長」
五郎は親指を立て、俺も同じようにサムズアップを返す。
少し遠くにいる真希は無言で俺のことをじっと見つめていた。
31階層におりて、そこで野営用の建物を作って休憩をした。
軽い食事や水分補給をしながら冗談まじりの話で盛り上がる。
外を見てくると言って出て行った真希が戻ってきた。
「ここの階層からは魔素を利用するモンスターが出るみたいよ」
「ってことは魔素が濃いのか……」
真希が言ったように31階層からは、ほぼ魔法のようなものを使ってくるモンスターと戦うことになった。
雷を出す浮遊クラゲ、怒らせると周囲の湿気を凍らせる空を泳ぐ魚、青白い炎をまとった狼。
クラゲですら器用に魔素を操れるのに、なんで俺には魔法の“ひらめき”がまだきてないんだよ……。
そして、ついにこれまでのパターンならばボスモンスターがいるであろう40階層まで来た俺たちは、その空間の異様さに言葉を失う。
これまでボスフロアは全てゴツゴツとした岩壁の広い空間だったが、ここは床も壁も天井も大理石のような白く美しい石で作られた巨大な四角い空間だった。
音が吸われるような、平衡感覚と時間感覚が歪むような、魔素が極端に濃いのだろうか?
部屋の中央になにかがある。
雪奈の《境界感知》で警戒してもらいながら、その“なにか”に近づいていった。
それは上下に尖ったダイヤモンドのような形をした、宙に浮かぶ正八面体の結晶体だった。
青い結晶体はクリスタルでできているようにも見えたが、ちょっと違う……微かな鼓動があって光でできているように感じた。
影だけが床に縫い付けられていた結晶体に近づくほどに胸の奥がざわつき、激しい鼓動に変わっていく。
記憶の中に沈んでいた何かが、ゆっくりと浮かび上がってきた。
雪奈が困惑した顔で独り言のようにつぶやく。
「こ……これって……人……よね……」
だけどきっと、俺の顔の方がもっと困惑していたに違いない。
そんな……なんでだ?
ど、どうしてだ?
理由はわからない。ただ、否定できなかった。
光る結晶体の中に閉じ込められていたのは────
魔王に転生して
二百五十年後。
たった四日の旅。
夢の中の
存在になっていた。
異世界の人間族のお姫様────
ルーシェルだった。




