62『動機』
寝袋に潜り込み、ロウソクの炎に照らされた天井を見ながら雪奈の「仮説」について考えていた。
我々が暮らすこっちの世界から異世界に行ったゲームが好きな人間が────ダンジョンを作った。
かなりありえる話だ。
それに該当する人間は俺しかいない気もするけど、だが俺には作った記憶がない。
俺は33歳の残業中に仮眠を取り、その5分間に「異世界で魔王として1000年」を生きた。
世界中にダンジョンが発生したのは今から20年前だが、たった5分の間に1000年の経験をしているのだから、そもそも2つの世界の時間の関係は歪んでいる。
……ということは異世界で俺が作ったダンジョンがこっちの世界で過去の出来事だったとしてもおかしくない。
だけど、やっぱり自分が作ったような気がしない。
作ったけど忘れている? さすがにそんなことはないと思うけど……。
俺が作るんだったら「ステータスオープン」は標準装備にするし、「スキルツリー」とか「ドロップはログに残す」とかもっと色々やると思うんだよな。
それに一番決定的なことは、俺には作る「動機」がないんだ。
それが最大の違和感だ。
もしかして異世界には俺とは別に転生者がいた? しかも人間族側に?
その可能性が一番高い気がする。
────だめだ! 考えば考えるほど寝れなくなる! 寝て体力回復しないと。
ふと隣を見ると、雪奈も目を開けて天井を眺めていた。
ミノムシのように寝袋に頭まですっぽりと入っている雪奈はごろんと身体ごと横になって俺の方を向いた。
「一緒に来てくれてありがとう、勇人くん、あのね、私はね……」
そこまで言ってから彼女は目を閉じて無言になり、そのまま眠った。
雪奈はなにを言おうとしたんだ? これも考えると眠れなくなるから考えるのはよそう……。
翌日、俺と雪奈は装備のチェックをしてから地下30階層のおそらくボスがいるであろうフロアに降りた。
これまでと同じ天井の高い広いホール状の洞窟だったが、ボスモンスターの姿はどこにも見えない。
10階層のトードみたいにまた地面から出てくる?
「私の《境界感知》がずっと危険を知らせてる。でもちょっと変なの。いつものボスフロアのときと感覚が違う……」
「どっかで昼寝でもしてるのかな? まぁ、いないんならさっさと階段から下に行ってもいいかもな」
俺と雪奈は周囲を警戒しながらホールの奥まで進んだ、そこにはいつものように下へ降りるための階段の入口があったが、しかし階段の前に結界のような青白く光る板があって通ることができなかった。
「なんだこりゃ? どうしろってんだよ」
「《境界感知》! 最大警告!」
雪奈が叫びに近い大きな声を出した。
振り返ると、そこかしこで地面の土が膨らみ、まるで粘土のようにモンスターの体が生成されていく。
それも物凄い速度で、物凄い数が。
たった数秒の間に、さっきまで何もなかったはずのフロアは数えきれないほどのモンスターで埋め尽くされていた。地上だけじゃない、地面で生成された飛行タイプの敵もどんどん空中に飛んでいく。
そういうことか! ここにはボスモンスターはいないけれど、ここにくるまでに出てきたありとあらゆる種類の雑魚敵が一気に出てくる仕掛けなのか!
ダンジョンXの地下30階層は────モンスターハウスだ!




