61『ロマンと現実』
ダンジョンX地下29階層に建てた土壁の野営用建物に俺たちは入った。
入り口を閉じて真っ暗になった内部を照らすのはロウソクの炎だけだ。
「やっぱり勇人くんの《闇築因子》と《幻界収蔵》って凄すぎるよね。ダンジョンにキャンプ用のテーブルとか椅子とかクーラーボックスが持ち込めるなんて……嘘みたい」
楽しそうに食事をしている雪奈の顔を見つめた。
彼女には叶えたい「ロマン」があるのは分かっている。だけど俺には雪奈に話さないといけない「現実」があった。
「……あのさ、雪奈」
「うん?」もぐもぐ。
「もしもだよ、このダンジョンXで異世界につながる扉みたいなモノを見つけたとしてさ、そのことを世界に公表するのはやめないか? 発見したことでのギルドランクの評価ポイントも俺はいらない」
「公表しない? 素晴らしい偉業なのに、歴史に名前が残るのにどうして?」
「出会ってしまった地球人と異世界人がうまくやっていけるほど甘くないと思ってるんだ。だって俺たちはまだ、自分たちの世界ですらうまく扱えてないだろ?」
自分のこの気持ちに嘘偽りはなかった。
向こうの世界に俺がいた1000年の間、人間族と魔族は最終的にひとつにはなれなかった。
俺は魔族側の支配者としていくつもの悲劇を見てきた。
ひとつの世界の中ですらそうなのに、ふたつの世界が「コンタクト」してしまって良い方向に行くとは到底思えなかった。
「そっか……うん」
雪奈は食事を止め、少し考えているような顔をした。
けれどその顔は困っている感じでもなかった。
「わかった。勇人くんの言ってることが凄くよくわかった。そうね、発表しないようにしましょう。私は自分が見つけられればそれでいいもの……でも、できればその瞬間に勇人くんと一緒にいたいな」
そう言ったあと雪奈はまた静かに食事を再開した。
なにか妙に気まずい空気が漂いはじめ、息苦しくなってきたような気がした。
それに耐えられなくなったのか彼女はまた話しはじめた。
「あっ、そうそう! ちょっと私また思ったことがあるの、世界中にあるダンジョンを作ったのが異世界人だって話としてね。ダンジョンXに潜ってから“ゲームっぽさ”がどうしても気になっていたんだけど」
「ああ、うん」
「ダンジョンは未知の科学で作れれたのか、神秘的な力で作られたのかはわからないけど、絶対に“こっちの世界から異世界に行ったゲームが好きな人間”が関わってると思うの。そうじゃないと説明がつかない」
「なるほどね……たしかにそれは雪奈の言うことも……」
──ん?
────んんん?
「勇人くん? 変な顔してどうしたの?」
こっちの世界から異世界に行ったゲームが好きな人間って────俺?
俺が世界中のダンジョンを作ったの?
ロウソクの炎が揺れる。鼓動が一拍跳ねた。




