6『魔獣創造と妖器賜与』
俺を守ろうとして三法師雪奈が……殺された……。
彼女の身体は魔鋼蜘蛛の太い脚によって串刺しの状態になっている。
完全に即死だ。
「そんな……雪奈が……」
しかしその直後、雪奈の死体にまるで古いビデオのようなざらついたノイズが走り、像が二重にぶれ、輪郭がぐにゃりと歪んだ。
そして後ろから俺の肩に手が置かれたので振り返ると──そこには三法師雪奈が立っていた。
雪奈が、生きている!? どういうことだ!?
「とりあえず逃げましょ。まともにやりあって倒せる敵じゃないわ」
「ど……どういうことだ? 雪奈はあのクモの脚に貫かれたんじゃ……」
「一度だけ致死攻撃を無効化できる《影身転位》よ」
致死攻撃を無効化……。
そういえば雪奈がそんな感じのスキルを持ってるって何かで読んだかもしれない。
《境界感知》と《影身転位》と、あとは気配を消して移動できる《霧中歩行》が私の3つのスキル。私には剣や魔法の力を増幅させるようなスキルはない。私のスキルは生き残るために特化してるの」
雪奈が死ななくてよかった……だけど、どうする?
少し離れた場所では五郎が大剣を構え、真希は弓を引いている。
「俺の剣で倒そうにも間合いに入れば脚でやられちまう。真希の弓は?」
「目を狙えば……でも目がたくさんあるし、怒らせるだけかも」
魔鋼蜘蛛は雪奈の幻の死体に気を取られているが、またすぐに俺を襲うだろう。
もう雪奈は《影身転位》が使えないし、そもそも彼女にあんな恐ろしい思いをさせてしまった自分がいやだ……俺の魔王のスキルで倒せないか?
ヤツは地面を這って戦うモンスターで、正面や横に装甲が集中している。
だけど戦車の上部装甲が薄いのと同じく、ヤツも上からの攻撃には弱いはずだ。
「俺のスキルで……あのクモは倒せる」
「え……でも勇人くんはスキルを何も持っていないはずじゃ……」
俺は魔鋼蜘蛛の真上にあたる天井を見上げ、叫んだ。
「《魔獣創造》!!」
俺のスキルと天井の石とが共鳴し、振動し、軋みを上げながら“何か”が形を成し始めた。
天井が抜けるように盛り上がり、膨らみ、巨躯の影が圧倒的な重量感をもって形成されていく。
「踏み潰せ! ストーンゴーレム!」
その命令と同時に、天井から重力を引き裂くような咆哮とともに石の巨体が落下する。
──ドゴオォォォォンッ!!
ダンジョン全体が揺れた。
石床に叩きつけられたゴーレムの圧倒的な質量が、魔鋼蜘蛛の頭部を完膚なきまでに叩き潰す。
硬い外殻がきしみ、ひび割れ、クモの脚が痙攣した。
「その役目は終わった。眠れ、石へと還れ」
ゴーレムを構成していた石のブロックはバラバラになり、重力に逆らうように元あった天井へと戻っていった。
すぐ近くにいる雪奈や、そばに寄ってきた五郎と真希は信じられないという顔でその様子を眺めている。
まだクモには少しだけ息がある。
ダンジョン内のモンスターは死ぬと黒い霧のようになって消えてしまうと聞いていたので、俺にはいまのうちにやっておきたいことがあった。
俺は黒のローブをひるがえし、掌を前に差し出した。
「《妖器賜与》」
魔鋼蜘蛛が淡く光る粒子となって俺の掌に集い、剣の形をなしていく。
その剣は魔鋼蜘蛛の外殻と同じく黒光りしていて、柄頭には複眼と同じ赤い色の石が付いていた。
俺から剣を渡された雪奈は軽く目を見張った。
「私の手のサイズに……ぴったり」
「俺のせいで剣が折られちゃったからスキルでこのクモを素材にして作ったんだ。見た目はちょっとだけ禍々しいけど、あの折られた剣よりは強いと思う」
雪奈はその瞳が揺れていた。
かつて夢を諦めたはずの少年が、それなりなイイ大人になって目の前で異能を行使している──それが信じられないように。
「石からゴーレムを作ったり……モンスターから武器を作ったり……こんなスキルは見たことない。勇人くんはいったい……」




