57『そんな研究に使うなよ……』
「ひっく……ひっく……うう」
これが……泣き上戸ってやつか。久留里と鯨山さんが雪奈をなだめている。
久留里にヨシヨシされながら、さらにコップの酒を喉に流し込んでいった雪奈は俺の「責任」について涙をぬぐって話しはじめた。全員が雪奈に注目している。
「私はね……ひっく……中学生のころ不登校だった勇人くんが学校に来るように毎日家に通ってたの」
「お、おい。その話を……するのか……」
「でもある日、勇人くんは私に言ったの。“お前みたいな現実の世界が充実してるヤツに俺の気持ちがわかるのか? 異世界に行きたいって思ったこともないんだろ?”って」
「俺……そんなのこと言ったっけ……完全に忘れてる」
「それで私は勇人くんの気持ちを理解してあげようと思って、異世界に行きたいってどんな気持ちなんだろうって……本とかネットとか、アニメとか、いろんなの見て……真剣に学んだの! 研究したの!」
真面目すぎるだろ……その真面目さをそんなショーモナイ研究に使うなよ……。
それで異世界を目指すようになった?
極端すぎるんだよ……そこまで本気になるやつ普通いないだろ。
「だから私は10代20代の恋も青春もすべて捨てて、ずっとダンジョンに……いまさら止めるなんてできないし……うえ〜ん!」
「雪奈さんかわいそう……ユッピーが悪い! 責任とるべきだと思う!」
久留里がそう叫ぶと、ぶっ倒れて寝ている五郎と黙々と料理を食べ続ける真希以外の全員が「たしかにそうかも……」という顔を俺に向けた。
それは……どうなんだ?
異世界を目指せなんて言ってない俺に責任あるのか? 雪奈の思い込みが強すぎるだけじゃないのか?
納得いかない俺は酒をガンガン飲み、前後不覚に陥ったあたりで打ち上げは終了となった。
帰り際、酔った俺の耳元で雪奈が囁いた。
「行き方見つけたら連絡して……」
おだやかな口調の雪奈の言葉を運ぶ息の温度が耳の中に伝わる。
「……一緒に行きたかったんだ。ずっと」
俺はそこで記憶を失った。
あれ? どうやって家まで帰ったんだっけ?
それはともかく、ベッドで身体を横にして寝ている俺の背中に──人の肌の感触があった。




