56『打ち上げ』
打ち上げは鯨山さんが予約してくれたちょっとだけ高級なお座敷の居酒屋になった。
参加者は西新宿ギルドAチーム4名、Bチーム4名、鯨山さん、三法師雪奈の計10名だ。
「全員飲み物はあるな? じゃあ社長、はじめようぜ!」
「えー、皆さん本当にお疲れさまでした。Aチーム・Bチームともにそれぞれの持ち場でよくやってくれたと思います。現在、国内ランキング3位という結果も、皆さん一人ひとりの努力の積み重ねの賜物です。
今年も残りわずかとなりましたが、来年に向けてより一層ギルドとしての成長を目指して——乾杯!」
料理が運ばれてくるたびに歓声があがる。
俺のとなりの鯨山さんはお酒に強く、パカパカと飲んでいくので面白い。見た目は子供だから知らない人が見たらギョっとするかもしれない。
Bチームのメンバーは雪奈のまわりに固まって彼女に様々な質問をしている。
「レジェンド」「ダンジョンマスター」と称される三法師雪奈は若い探窟家にとって憧れや尊敬の対象なのだ。
その中のひとりの男が移動して俺のとなりに座った。
「僕は雪奈さんの写真集全部持ってるんですよ。はあ、一緒にお酒が飲めるなんて信じられません、しあわせすぎます」
「みんな喜んでるみたいだし、雪奈にも参加してもらったのは正解だったみたいだな」
野間君はBチームに加わった22歳の青年だ。
痩せ型で気の弱そうな顔面に丸メガネがくっついている彼は、これまで西新宿ギルドにはいなかった攻撃魔法の使い手で、しかも消費魔力半減のスキル持ちだったので新しく仲間になってもらった。
「勇人さんは雪奈さんと中学の同級生だったとお聞きしました。中学生の頃の雪奈さんってどんな方だったんですか? お顔は知ってるんです、ネットにめっちゃ可愛い卒アルのがアップされてたんで!」
「卒アルって……芸能人みたいだな。雪奈はいまも昔も変わらないよ。真面目で優しい性格で……あとは、ちょっとしつこいというか。あ、ごめんトイレ行ってくる」
今日の宴会は酒のペースが早いのか、トイレが近くなるのもいつもより早かった。
トイレから出ると……丁度この店に入ってきた前の会社の部長と目が合った。
部長は奥さんと一緒だった。
パワハラ気質のこの部長は正直言って好きではなかったが、無視して「おい!」とでも背中から声かけられるのも気分が悪い。挨拶だけでもしておくか。
「部長、おひさしぶりです」
「お……奥野君。いや、奥野さん……こんな場所で会うなんて奇遇ですね……」
いつも高圧的だった部長が俺に敬語を使ってくるのは新鮮だった。
もう部下じゃないからかな? それとも何か後ろめたいことでもあるのか?
たとえば一緒にいるのが奥さんではないとか。
「今夜はうちのギルドがここで飲み会をしていましてね」
「じゃ……じゃあ例の“魔王軍”もここに……あっ! 申し訳ない、急用を思い出したから失礼させてもらいます! ああ、年末は忙しくて困ったものです」
部長は逃げるようにして去っていった……過去の恨みで呪い殺されるとでも思ったのだろうか。
世間的に“魔王軍”はその見た目からダークヒーロー的にウケてもいるが、「ヤバい連中」「怖い」とも思われている。
初期の探窟家もこんな感じで恐れられていたらしい。モンスターがうごめくダンジョンで剣を振り回して一攫千金の魔石を探す仕事なんだから、荒っぽい職業なのは間違いないしね。
……そういう世間のイメージを変えた存在のひとりが、三法師雪奈なんだろうな。
西新宿ギルドのお座敷に戻ると、雪奈のとなりに移動していた野間君の声が聞こえてきた。
「雪奈さんって本当に凄いです! 魔石や売却できるアイテムには目もくれないでダンジョンを調査しているストイックさ……尊敬です!」
「でも遠征費のために去年も……水着写真集とか……あんなきわどい……」
……ん? なんだか雪奈の様子がおかしいぞ?
雪奈は戻ってきた俺の顔を、じーーーっと睨む。
彼女の半目にひらいた目は据わっていた……完全に飲み過ぎだ。
「勇人のばかー! 私がこんなことになってるのはお前のせいなんだぞー! 責任とれー! うわーん!」
おいおい、責任って何の話だよ?
デカい声で叫んだあと、今後はデカい声で泣きはじめた……酒グセ悪すぎだろ。




