49『巡窟教団』
その後、軽くトレーニングして戻ってきた五郎の様子は、やはりおかしかった。
俺と真希と久留里はくるりんスタジオの準備をしながら、多幸感に満ちた顔でダンジョン装備からジャケットに着替えている五郎をチラチラと観察していた。
「あ〜わかった! 彼女が出来たんだ! それで浮かれてるんだ!」
久留里はこぶしで手のひらをポンと叩いて、そう言った。
それなら別にいいんだけどさ……気持ち悪いけど害はないし。
「真希はうちで五郎と一番付き合いが長いよな? 真希はどう思う?」
「いくらなんでも浮かれすぎだと思う……怪しいわ、尾行けましょう」
着替え終わって軽い足取りでオフィスから出ていった五郎を、探偵のような動きの真希は俺を助手役にして尾行した。
マスクをして隣の車両から五郎を注視しているマキはこういうのが好きなのだろうか? なんとなく楽しんでそうに見える。
池袋駅で降りた五郎は、たまごを半分に切ったような奇妙な建物に入っていく。
どことなくダンジョンの巨石に似ている建物には「巡窟教団」の文字があった。
……あれ? これってたしか国内ギルドランキングで俺たちよりひとつ上の8位のギルドだよな?
「この施設に通ってるから五郎の様子が変なのか? だけどここってギルドだし……なにより胡散臭すぎる雰囲気に満ちてるんだけど……」
「知ってる? 中世の軍隊には輜重隊っていう非戦闘員の商人たちがいて、その中には占い師もいたそうよ。俗信や御守り……敵にやられないために何かにすがりつきたくなるのよ」
「たしかに五郎は一番危険なタンク役することも多いけど……しかしなぁ」
翌日、五郎がダンジョンXでトレーニングしている間に、俺はひとりで「巡窟教団」に向かった。
この時間に教団に興味を持った人向けの「初洞会」があると昨日チラシを受け取っていたのだ。
中で何をしているのは見てやろう。
初洞会は教団建物2階のホールにパイプ椅子が並べられて行われた。
美魔女風の女性がホールに集まった人たちにマイクを使って話をしていく。
女性は探洞家を聖巡士と呼び聖なる使命を与えられた者だと、ダンジョンを聖洞と呼び神聖な場所だと語っている。
教団はダンジョンとは神に近づくために人類に与えられたものだと位置付けていた。
女性は量子力学だの相対性理論だのを絡めて“なんだかそれっぽく”ダンジョンの秘密を説いていく。
……五郎はこんな話を信じてしまったのか。
う〜ん、それで仕事にやりがいを見出したのなら放っておこうかな……気持ち悪いけど。
「……本日お集まりいただいた皆様は特別な導きに選ばれた方々なのです。なぜならば、これより初めてお伝えする新たなる教義の指針があるのですから」
女性がそう言うと、彼女の後ろのスクリーンに表示されていた教団のロゴマークが消え、一枚の画像が表示された。
その画像は────久留里がSNS投稿したダンジョン前で記念撮影をしている俺たち西新宿ギルドメンバーの姿だった。
いやいや! ちょっと待て、どういうことだ?
「この邪悪な忌まわしき姿をご覧ください! 彼らは神聖なる聖洞を汚す“魔王軍”と呼ばれる集団なのです。我ら巡窟教団にはこの者たちを排除する天からの使命が課せられているのです!」




