47『訓練所』
右手で剣を握る雪奈は、左手で我々を制止させるポーズをしながら静かに歩を進めた。
「ここは私だけでやらせて。 最近潜ってなかったから身体がなまってるの」
「ひとりで平気なのか?」
「1回は殺されても問題ないから」
そう言った雪奈は、振り返って微笑んだ。
死なないためのスキルばかり持っている雪奈には一度だけ致死攻撃を無効化できる《影身転位》があるんだったな。
……でもあれ、見せられる方からしたら心臓に悪いんだけど。
西新宿ギルドの4人は階段付近にそのまま残り、雪奈だけが20メートルほど前に出ている。
どこからか音が聞こえる、地響きのような……下からか?
雪奈のさらに先の地面がボコボコっと盛り上がる。
そして土の中からまるで冬眠から目覚めるようにカエルが出てきた。
いや、カエルはツルっとしていて可愛いけど、こいつは可愛くないぞ。
肌は岩のようで醜い姿をしている。
現れたのは巨大な……トードだ。
雪奈は剣を両手で構え、スタンスを広げて重心を下げる。
トードが大きな口をあけてシュっと飛ばしてきた液体を雪奈がサっとよける。
液体が落ちた地面は蒸発するような煙を出し、そこは穴になった……溶解液か!
トードは寝起きのわりには足を素早く動かし、常に顔を雪奈に向けて溶解液を吐いた。
溶解液のしぶきが雪奈のマントをかすめて布が煙をあげた。
雪奈は表情ひとつ変えずに身をひるがえしたが、あれが肌に当たっていたら……想像したくない。
さて、雪奈はどうやってコイツを倒すんだ?
あの剣はかなり強いからトードの岩のような肌を斬れるかもしれない。
しかしトードは雪奈にその隙を与えてくれないし、うまく背後をとれたとしても別な場所から溶解液を出す可能性もある。
と、その時だ。
喉の奥から溶解液を吐いて閉じる直前のトードの口の中に、雪奈は左手から出した火球を投げ込んだ。
……彼女は魔法が使えたのか。
トードは一瞬顔を歪めたようにみえた。少し効いた?
だが、相変わらず雪奈に向けての溶解液攻撃は止まらなかった。
トードが液を吐き、雪奈が火球を口に入れる。
それが延々と……延々と繰り返された。
「ねえユッピー、私ちょっと飽きてきちゃったんですけどぉ。雪奈さんが戦いはじめてどのくらい経ったかわかる?」
「わからない、長いってことだけしか。いつまでやってんだろうな……」
時間をかけてチクチクと敵の体力を削っていく。
そうか……これが雪奈の戦い方なのか。なんて地味なんだ。
ただ、ずっと見ていると気が付くことがあった。
ダメージが蓄積したからか喉の奥が火で荒れたからか、トードが口を開けてから溶解液を吐くまでの時間が若干長くなっていた。
そして、ついに雪奈が動いた。
トードが口を開けた瞬間、口に向かって猛スピードで突っ込み、剣をトードの喉に突き刺した。
彼女はこれを待っていたのか……トードが口を開けて溶解液を吐く速度よりも、自分が口に剣を刺せる速度が勝るのを。
トードはうめき声を出して倒れ、そして霧のようになって消えた。
雪奈は剣を腰に戻して、こっちにやってきた。
「《境界感知》の反応が小さくまだあるの。しばらくしたらまた土の中から出てくるかもしれない。さらに下層がどうなっているのかはわからないけど、このダンジョンはバランスが良くてトレーニング用としては最高ね」
そのことは俺も観戦しながら考えていた。
「検証用」「テスト用」に作られたのかもしれないこのダンジョンは俺たち……そしてこれから拡大化していく西新宿ギルドに加わる“新加入の仲間たち”の訓練施設として最適だと。
しかも24時間好きなときに使える。
──ギルドメンバーの募集、かけてみるか。




