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42『父と娘』

お手伝いさんに案内されて俺たちは久留里の父親の部屋に入った。



「奥野さんが西新宿ギルドの代表で……三法師さんは各メディアでそのご活躍は存じております」



巨大グループを率いている男なのだから相当な威厳があるのだろうなと緊張していたが、父親は穏やかな物腰の、人当たりがよい人物だった。

雪奈は探窟家(シーカー)という職業のやりがいについて、魔石採取による科学技術への貢献についてを丁寧に伝えた。さすがにテレビ出演などが多い彼女の話は澱みなく流暢で関心する。



「……なるほど。“ダンジョンの向こう側へ”という夢を持つあなたがダンジョンに行くのは理解できます。そうするしかありませんからね。しかし久留里には私が作ってあげられる“道”があるんです。タレントの夢だって将来的にイマイグループの力で“道”は作れるんです」


「そ……それは……」



久留里は海外の大学に進学させることが決まっていて、日本の高校を卒業していなくても名門大学に入れる“道”を父親は用意できた。

なので高校中退を認めたが、お遊び程度だと思っていたギルド活動がかなり本格的だったのを知ってやめるように言ったそうだ。


俺が久留里の顔を見ると、久留里は少し潤んだ目で俺をじっと見つめかえしてきた。

父親を説得できるかどうか自信はない。だけど俺は彼女のその目をいつもの明るく、人懐っこい目にさせたかった。



「あのう、お父さん。久留里さんには有名になりたいという夢がありますが、彼女は親の力に頼らず自力でその夢を成し遂げたいんだと思います」



久留里は頷いた。

父親は優しげな、しかし強い眼差しで俺の話を聞き続ける。



「与えられた才能を活かして有名になるチャンス……夢を叶えるチャンスはいまだと考えている久留里さんに挑戦させてあげてください、お願いします!」


「…………ユッピー」


「危険な仕事なのはわかっています。だからこそ俺が必ず彼女を守ります! 責任は、俺が取ります!」



俺は深々と頭を下げた。

父親は俺の頭を上げさせ、久留里にゆっくりと話しかける。



「久留里。いくら能力を持っていたからって、つらい道を歩く必要はないんだよ」


「パパ……それは違うよ。私はつらくないの。だって自分の《癒昇恩寵(グレイスブースト)》ってスキルで増幅された回復魔法をみんなに使うときに凄く幸せな気持ちになってるんだもん。もし有名人になれなくてもこの幸せな気持ちは自分の宝物になると思えるくらい」



いつも能天気な久留里だが、彼女がそんな気持ちで癒しの光を放っていることを、はじめて知った。

もしかしたら誰かの傷を癒したいという気持ちが強いから回復魔法の“ひらめき”を得たのかもしれないな。



「私にチャンスをくれたのはユッピー……奥野勇人さんなの。私はこの人を信じてるから、パパもこの人を信じて私を預けて」



久留里の父親は「少しひとりにさせてください」と言い、俺たちは応接室で待機した。

壁の時計の秒針の音だけがやけに大きく聞こえた。


1時間くらい経ってからだろうか、父親が応接室にやってきた。



「久留里にはいつも道を示してきました。けれど久留里は自分自身で道とそこを一緒に歩く仲間を見つけたんですね。いつまでもひとりじゃ歩けない子供扱いをしていたのかもしれません。探窟家(シーカー)を続けることを認めましょう。久留里は夢のために今後もギルドの方々を助けてあげなさい」


「パパ!」


「奥野さん、ちょっとさわがしい娘でご迷惑もかけていると思いますが、よろしくお願い致します」



久留里は父親に抱きついた。

結局は俺や雪奈の説得ではなく、久留里本人の言葉が父親を動かしたんだろうな。

まあ、とにかく絶縁とかにはならなくてよかった。



「……ただひとつだけ、奥野さん」


「は……はい」


「私は親として負けました。しかし経営者としては勝たせてもらいますよ。ぜひ“お願い”を聞いていただきたい」


「お願い?」



それは「イマイグループが西新宿ギルドのスポンサーになる」というお願いだった。

マーケティング戦略部の判断によって、話題の“魔王軍”のスポンサーになることで大きな宣伝効果が得られるということが判明したらしい。


まさか……さっき1時間待たせられていたときに調査させていたのか?

さすが巨大グループのトップは抜け目ないというか、なんというか……。



「え? パパ……それ絶対イヤ……ダサすぎる……」



まぁスポンサーなのだから当然なのかもしれないが、久留里の装備に「イマイグループのロゴ」を入れたいそうだ。


久留里は帰宅する俺たちを見送るために屋敷の重厚な門まで一緒に来た。



「ユッピー、雪奈さん、本当にありがとう」


「いや、お父さんを動かしたのは久留里だよ」



晴れ晴れした顔の雪奈の前にサンダル履きの久留里がぴょんと軽く飛ぶようにして立った。



「ところで雪奈さんは、私がまだ17歳なのに付き合ってるって勘違いしてユッピーに怒ってたけど、じゃああと何年かしたらいいんですかー?」


「…………へ? いや……ええと……」



異世界に行きたくて俺につきまとってるだけなんだから、そこで言葉に詰まるのはおかしいだろ。

……なんでそんな空気になるんだよ。

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