36『異世界のお姫様・2』
富士山ダンジョンの新記録を達成して気分よく東京高円寺の自分のアパートに戻ってきた夜。
俺はまたあの魔王時代の夢を見た……しかも続きだ。連載かよ!
◆◆◆
人間族の姿に化けて旅をしていた俺は、モンスターに襲われて馬車と従者を失った人間族のお姫様・ルーシェル・ハイナスタリ嬢と出会い、彼女を兵士のいる街まで送り届けることに決めた。
魔王城にいる幹部連中が知ったら「なぜ人質になさらなかったのですか?」「捨て置きなされ……いっそ亡き者に」とか物騒なことを言うのだろうけど、俺の勝手だ。
もちろん、ただの親切心だけじゃない。
人間族側の権力者である彼女から何か有益な情報が手に入れられるかもしれないという考えも少しはあった。
「お姫様、今夜はここで寝るよ。まさか天蓋つきベッドじゃないと寝られないとかないよね?」
「寝れる……と思います。頑張ります」
崖の岩陰で夜を明かすことにした。
焚き火をおこしてお姫様の馬車から拝借した干し肉やパンを食べる。しかしルーシェルは食事が喉を通らないようだった。
俺は彼女から硬いパンを取り上げて、これまた馬車から持ってきたミルクで煮てハチミツを入れた。
鉄鍋の縁で静かに乳がふつふつと泡立つ。
「はい、どうぞ。ミルク粥なら流し込めるかな? あんな怖い目にあったんだから仕方ないけど、まだしばらく旅は続くんだから少しは食べておいたほうがいい」
「あ……ありがとうございます!」
ルーシェルは丁寧に上品に木のスプーンで粥を口の中に入れていった。
「暖かくて甘いモノを身体に入れたら少し気分が落ち着きました。あの……ユウト様はどちらのご出身なのですか?」
「ええと……“魔族領土の方から来た”って言えばいいのかな」
「境界域の方角からですか、それは随分と遠くから……」
嘘は言ってない。
「あの、ユウト様は魔族の近くにいて……怖くはないのですか? 私、魔族の恐ろしい話を乳母から聞かされて寝れなくなってしまったことがあるんです」
「あはは。教えてあげようか、魔族の王は人間族の恐ろしい話を乳母から聞かされてるんだよ」
ルーシェルは吹き出した。
ずっと悲しそうにしていた彼女の目に少しだけ光が灯った。
「でもそうかもしれません。お互い子供の頃から恐怖や憎しみを植えつけられているだけなのかもしれませんね」
「人間族と魔族が仲良くできればいいよね」
「実は私も……そう思っているのです。本当は立場的にそんなことを人前で言ってはいけないのですが」
そしてまた少し会話をしてから彼女は横になり、安心したように眠った。パチパチと薪がはぜる焚き火の明かりに照らされたその寝顔は、まるで絵画のような完璧さだった。
翌日からはずっと歩いて歩きまくって、ときどきモンスターと戦い、また寝場所を探してはそこで休んだ。
服が汚れていっても足にマメができても彼女は文句も泣き言も言わず、ときどき見せる笑顔から俺を信頼しているのがわかった。
そして出会ってから3日後、草の群れが静かな海のようにうねる丘を超えると少し先に大きな街が見えた……それは彼女の、おそらく生涯一度きりの冒険が終わったことを意味していた。
しかしどういうわけか、美しい銀色の髪を風でなびかせるルーシェルの表情から喜びは感じられなかった。
◆◆◆
そこで目が覚めた。
やはり長くダンジョンに潜ったから、また異世界の夢を見たのだろうか?
だけど、何かが引っかかる。
「ルーシェルのことを思いだした」というよりも「ルーシェルに思い出させられた」という感じなんだ。
──この妙な感覚はなんだろう。
第二章・完
次章『第三章 魔王軍、勢力図を侵食す』
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次章からは「魔王軍」が特別な存在となっていく&キャラクターたちの日常多めの物語となります。
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