35『凱旋』
西新宿ギルドはボロい雑居ビルに事務所を構える、たった4人きりの零細ギルドだ。
そんな弱小が裏技的な手段でお金を貯め、装備を整え、そして大手ギルドがなし得なかった「富士山ダンジョン地下30階層突破」という快挙を成し遂げた。
たしかに“魔王のスキル”の存在は大きい。
だけど、それだけじゃ絶対にダメだった。
リーダーとしての状況判断と、それに応える仲間たちの信頼と連携。
すべてが噛み合って、ようやく勝てたんだ。
ずっとこういうことがしたかった。
ダンジョンが突如世界中に出現した中学生の頃に何度も妄想したんだ。
まだまだ終わりじゃない。これからさらに成功に向かって進んでいくはずだ……それはもう夢物語なんかじゃなく、ちゃんと現実の未来として見えてきていた。
俺たちは主がいなくなった地下30階層でささやかな宴を催し、そして寝た。
翌日はいくつかのアイテムボックスを発見しながら33階層まで潜り、この階層を我々の“到達記録”にしてダンジョンから出ることにした。
帰路はまた20階層と10階層で野営をし、そこで他のギルドに我々の成果は広まっていった。
公認記憶員の念写とメモの証拠付きなのだから疑う者はない。
地下一階から地上へ上がる階段をあがり……ついに5日ぶりの太陽に出迎えられる。
おそらく現在は午後3時くらいだろうが、まだまだ夏の光線は厳しく目の前が真っ白になった。
眩しさから目が戻ると、ダンジョン入口に沢山の人々が集まってくるのが見えた。
「新記録達成者だ!」
「あの“魔王軍”が出てきたぞ!」
我々より先に戻っていったギルドの人間から伝わっていたみたいだ。
俺たちは盛大な拍手で迎えられた。その中で一際大きな音を出して笑顔で手を打ち鳴らしていたのは五郎の元同僚のハチマキ男だった。
着替え用テントへと向かう途中でも次々に声をかけられた。
「モンスターを貪り食いながら潜っていったって聞いたんですが……」
「悪霊を呼び出してボスを呪い殺したってのは……本当ですか?」
なんだか色々と話に尾ひれがついているようだけど……まあ、いいか。
普段着に着替え終わってテントから出ると、久留里が鯨山さんと話していた。
鯨山さんから念写紙をスキャンしたデータを送ってもらうらしい。
「鯨山さん、おつかれさまでした」
「おつかれさまです勇人さん! 素晴らしい経験をさせていただきました!」
「今後は記録員の依頼がたくさん来ると思いますよ。鯨山さんは記録員として天性の才能の持ち主だと俺は感じました」
「あ……ありがとうございます。あのう……また西新宿ギルドさんが記録を残したくなったときに雇っていただけたら嬉しいです」
「もちろんです!」
右手を前に出して鯨山さんと握手をした……小さい身体についている手もすごく小さかった。
下から俺を見上げる彼女のその顔はダンジョンに入る前とはあきらかに違っていた。
俺たちは社用車に乗り込み、窓の外では鯨山さんが手を振っている。
「ようし、じゃあ東京に帰るぜ。はやくステータス診断がしてぇ」
「桃ちゃん念写画像よろしくねー! くるりん大活躍って感じの多めでー!」
真希がアクセルを踏み、社用車はゆっくりと動き出す。
助手席に座る俺はダンジョンの後ろの雄大な夏の富士山をしっかりと目に焼き付けた。
明日からはまた日常に戻る。さて、次はどうするかな。
ハンドルを握りながら、真希が聞いてきた。
「明日は……どんなお弁当がいい?」
彼女のことだから、てっきり手に入れた魔石やアイテムの鑑定のことで頭がいっぱいだと思っていたので、意外だった。




