27『富士山ダンジョン(山梨県側)』
富士山ダンジョン入口で管理スタッフにカードを提出し、ダンジョンへと入った。
入ってすぐ、俺たちはキャリーカートごと持ち込んだ大量の物資を《幻界収蔵》に次々と詰め込んでいった。
鯨山さんはポカ〜ンと口を開けて、それを見つめている。
「す……すごいスキルをお持ちなんですね。では浅い階層は私がご案内できますので付いてきてください」
石造りの長い階段を降りた先にあった地下1階は通路が入り組んだ“いかにもな迷宮”だった。
同じ迷宮タイプでもだだっ広いフロアだった中野Cダンジョンの地下1階とは随分と違うが、この富士山ダンジョンの方が正統派なのかもしれない。
鯨山さんは、そこは右、こっちは左、と迷うことなく俺たちを次の階層への階段に導いてくれた。その姿はまるでガイドさんのようであり親切な妖精さんのようでもある。
「鯨山さんがいなかったらグルグルと迷ってたかも。一緒に来てもらって助かったよ」
「ありがとうございます。私たち観光記録員は全国に派遣される記録員とは違ってひとつのダンジョンに何度も潜りますんで最適ルートを熟知してるんです。もちろん浅い階層だけですけど」
その後はモンスターに何度か遭遇しながらも順調に下の階層へと潜っていった。
五郎と真希は新しい武器にも慣れてきたようで、鯨山さんはモンスターを瞬殺していくふたりの姿に興奮している。
「驚きました! ここまでお強いギルドさんを見たのははじめてです! この階段を降りた5階層で休憩ができますよ。富士山ダンジョンは5の倍数階はモンスターが出現しないフロアになっているんです」
ダンジョンツアーは5階層で記念念写を撮って引き返すコースらしく、つまり鯨山さんはその先を知らない。
ここからは道案内なしで10階層まで行き、そこで寝て体力を回復してさらに下へ潜る予定だ。
5階層での休憩中に久留里は手鏡を構えて鯨山さんとの“ツーショット念写”を楽しんでいた。念写された紙を見せてもらうと、それは完全にプリントされた写真だった。
「わあ、可愛く撮れてるー! 外に戻ったら私のインスタにアップしちゃおー!」
「あの……私が写ってるのは……恥ずかしいので……」
「そろそろ出発するぞ。ここから先は鯨山さん、五郎と交代してください」
「あ、はい! 足手まといにならないように頑張ります!」
6階層からはダンジョンツアーが5階層までというのがよくわかるくらい出現するモンスターが一気に強くなった。
……とはいっても、戦いの方はそこまで苦労することはなく、入り組んだ迷宮を抜けるのに主に苦労した。
行き止まりにアイテムボックスが置かれていてもすでに誰かに取られた後というのは分かりきっているので、報酬がなく来た道をトボトボと戻るのは苦痛でしかなかった。
それが続いてパーティーの空気も少しギスギスしかけたが、そんな中でも鯨山さんは地下5階までのときより明らかに楽しそうに見える。
そしてついにたどり着いた地下10階層は──多くの同業者たちの熱気にあふれ、まるで山岳ベースキャンプのようだった。
しかし我ら“魔王軍”の黒い装備が視界に入った瞬間、あちこちで息を呑む音がした。




