26『小さな記録員』
久留里はひとつのテントに小走りで向かっていった。
「こんにちはー! 私が大活躍するところを記録して欲しいんですけどー!」
「いらっしゃいませ、記録員の同行をご所望ですね」
テントには「世界ダンジョン機構認定・記録員紹介所」の文字がある。
今回のダンジョン攻略に記録員を参加させるのは久留里からの頼みだった。
ダンジョンでは機械や電子機器は誤作動を起こすのでボスモンスター討伐や到達階層の「証拠」を写真やビデオで保存しておくことはできなかった。
なので久留里のような魔石やアイテムよりも「活躍の実績を記録すること」を求める者はとても困る。
そこで雇われるのが《瞬写紙記》というスキルを持った記録員だ。
そのスキルを使えばダンジョン内で実際に見た風景を念写で紙に浮かび上がらせることができた。
彼ら記録員の念写したものやメモした記録は、正式な記録として認められる。
俺たちは「記録員紹介所」の女性に今回のプランを伝えた。
「そうですか、かなり深く潜られるご予定なのですね。どうしましょう、現在は観光記録員しかいない状況でして」
「観光記録員?」
真希が観光記録員について俺に教えてくれた。
「セレブとかが臨時のギルドメンバーになって守られながらダンジョン低層階を巡る高額ツアーがあるの。そこで記念念写をするのが観光記録員よ」
「そっかぁ、深い階層を知ってる記録員の方が、やっぱいいよなぁ」
「あっ、お昼食べに行ってた観光記録員が戻ってきました。一応ご紹介はしますが……」
すると「記録員紹介所」のテントにちっこい子がやってきた……子供?
ボブヘアーの可愛らしい女の子は俺たちの姿を見るとギョっとした顔をして少し震えていた。
「あ……あの……観光記録員の鯨山桃です」
「きゃあっ! 桃ちゃんは中学生? あれ、でも学校は? まさか私と同い年くらいで同じように高校行ってないとか?」
「いえ高校生でもありません……私は24歳です」
「ふええ? マジ?」
観光記録員の鯨山桃さんは、彼女に抱きついてきている久留里よりふたまわりくらい背が低い。くりっとした目とリスっぽい頬の童顔はランドセルを背負っても違和感がなさそうで24歳にはまったく見えなかった。
「記録員紹介所」の女性は、西新宿ギルドのプランを鯨山桃さんに伝えた。
でもなあ、記録員は戦闘には参加しないそうだが、俺たちの格好だけでビビってるこの人はさすがにダメだろ。
プランを聞き終えた鯨山桃さんは「よろしくお願いします」とバカみたいに丁寧なお辞儀をした。
「もし私でよろしければ西新宿ギルドさんとご同行したいです。まだ深層に同行したことはないのですが……いつか本当の探洞家さんたちの記録をこの目で見て残したいって、ずっと思ってたんです」
「そっか……う〜ん、でもちょっと悪いけど……」
「こちらこそお願いします! 桃ちゃん!」
俺の言葉を元気すぎる声で遮った久留里が両手で鯨山桃さんと握手をする。
「鏡を使えば自撮りっぽい念写できるよね? ボスモンスター倒す瞬間に“魔王軍”の私と可愛すぎる桃ちゃんが一緒にポーズ決めたら絶対にバズるからっ!」




