21『異世界のお姫様・1』
外苑前“ハズレ穴”ダンジョンの帰路途中での野営時に、魔王時代の夢を見た。
異世界のお姫様と出会ったときの夢だ。
◆◆◆
俺が生まれる直前に先代の魔王は死んだ。
先代には子も孫も大勢いたけれど、お告げによって俺が魔王となることは生まれる前から決定していた。
それは……魔王に転生してから250年くらい経った頃のことだった。
弱腰だと長老たちから批判を受けながらも人間族との融和政策を進めていた俺は、人間族のことをよく知るために姿を変えてひとりで旅に出ていた。
そして人間族領内の荒地を旅していたときに、人間族がモンスターに襲われている状況に遭遇したんだ。
馬車を破壊したその巨大なヘビは、そのころ覚えたばかりのスキル《魔獣創造》を試すのに、ちょうど良い相手だった。
俺は倒木を材料にして杭の脚を持つモンスターを作り出し、巨大なヘビを串刺しにした。
“前世”の鰻の蒲焼からの発想かもしれない。
大破した馬車の近くには身なりの良い女性が気絶していたので気付け薬を嗅がすと、すぐに目を覚ました。
「助けていただき心より感謝申し上げます。私は……ルーシェル・ハイナスタリです」
その名前を聞いて驚いた……彼女は人間族の五大王家のひとつ、ハイナスタリ家のお姫様だったからだ。
宝石のような緑の瞳のルーシェルは光の加減で虹色を放つ銀髪を風になびかせ、服装は旅用のものではあったが金糸による素晴らしい刺繍が施されていた。
容姿、物腰、言葉遣い……全てが美しかった。
「俺の名は……ンヴェル……いやっ」
うっかり魔王名を名乗りそうになった俺は咄嗟に適当な名前を……自分の“前世”だと思っていた名前を名乗った。
「ユウト……だ」
「ユウト様……不思議な響きの素敵なお名前でございますね」
彼女は空気の綺麗な土地で肺病を完治させ、王都に戻る途中にモンスターと遭遇したらしい。
従者たちはすべてモンスターに殺されていた……彼女を守るために勇敢に戦ったのだろう。
俺は従者たちの亡骸の上に石を積み上げ、その従者の剣を立てた。
「よし、目印はこれでいいかな。こうしておけば野犬に食われる事もない。あとでこの場所を伝えて回収してもらえばいい」
「……ありがとうございます。彼らは私の家族のような存在でした。せめて、その最期が無残なものにならずに済んだこと……本当に、救われる思いです」
石積みに向かって祈るルーシェルの、その美しいエメラルドの瞳からは涙がこぼれ落ちていた。
そしてルーシェルと一緒に旅を続けた。
王家の姫である彼女を、本来いるべき場所へ送り届けるための旅だ。
◆◆◆
そこで目が覚めた。
体を起こした俺は水を一口飲んで、また寝袋に潜り込んだ。
こっちに戻ってきてから魔王時代の記憶が薄れだしている。
ルーシェルの事なんて、この夢で見るまですっかり忘れていた。なにしろ1000年の人生の中のたった数日間の出来事だし。
魔王時代の夢を見たのは今夜がはじめてだった。
このダンジョン内の、異世界に存在するのと同じ魔素を浴びすぎたせいだろうか?
──そして、なぜルーシェルの夢を見たんだろうか?
第一章・完
次章『第二章 富士山ダンジョン最深記録』
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次章からは、準備が整った西新宿ギルドが日本最大級ダンジョンの新記録に挑む物語になります。
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